77騎 世界の危機
花火に照らされ、ゲートから現れた娘は、帯電した両腕を、村の中央に向ける。
雷が娘から放たれ、かまどやテーブルを撃ち抜いていく。
「雷属性か! ストーリア、顕現せよ!」
『了解した、主殿』
風がアインツの身体にまとわりつき、右手にはランスが握られる。
雷娘の魔神は、ゆっくりと降下し、ふわりと地面に降り立つ。
見た目は一糸まとわぬ姿ではあるが、稲光によって、あまりの眩しさに姿をまともに見ることができない。
『まさかこのような場所に、同胞がいようとはな』
雷娘は、ストーリアの姿を認めて話しかける。
『何用だ。平和裏に済ませることができようものなら、話には乗れるが』
『ほほう、かなり丸め込まれた様子だねぇ。たかがサルの進化形に』
『ニンゲンを侮辱するは、主殿を侮辱するも同じぞ。覚悟はできておろうな』
雷娘がストーリアをまとったアインツを見下す。
『元は同根なれど、侮蔑にはそれ相応の対価を払ってもらうとしようか』
ストーリアが、アインツの握った【ストームランス】の渦の回転を強める。
『さても愚かな。使われたままで、滅びるといいさ』
雷がアインツを襲う。
アインツは身体を避けるが、動いた先へと雷が追随してくる。
「グッ!」
直撃ではないにしろ、アインツの身体を電撃が掠める。
『済みませぬ、主殿。後れを取り申した』
『ここは私が』
エネルギーフィールドが、雷娘からの放電を逸らす。
「シエラ、助かる!」
『なんの。アインツ様のお役に立てれば本望です』
『おまえもか、甲羅の!』
『こちらへ来ないか? アインツ様の精神力は、とても極上の味がするぞ。流石、聖騎士と呼ばれるだけはある』
『痴れ者がっ。目的を忘れた愚か者めっ!』
雷娘が電撃を鞭のようにしならせて攻撃してくるが、シエラのエネルギーフィールドがそれを中和する。
「なぜ、おまえたちゲートを通るものは、この世界の住民に危害を加えようとするのだ!」
『そうだ、雷の娘よ。主殿の言われる通り、おまえこそ、ただの破壊が何も生まないことを理解するのだ』
『ええい、黙れ黙れっ! 我々異界門の侵略者は、侵攻した世界を滅ぼし、我らが本隊を呼び寄せるための橋頭保とするのが目的だ! それを怠るとは、何たること!』
『強き者と契約するは、それもまた我らの使命。契約者である主殿以外の者がどれだけ騒ごうとも、何の価値もない』
「周りに被害が出る前に止めるぞ」
『畏まりましてございます。主殿』
アインツがランスを構え、雷娘に狙いを定めると、一足飛びで踏み出し、間合いを詰める。
『小癪なっ!』
雷娘が電撃を放つが、それを甲羅の魔神のエネルギーフィールドで弾き飛ばす。
「スパイラルシュート!」
アインツが【ストームランス】を突き出し、雷娘にチャージ攻撃を与える。
『ぐ……がぁっ!』
雷娘の至る所から電撃がほとばしり、辺りへ散っていく。
娘の身体を貫通させたランスの先には、コアとなる石が突き刺さっていた。
『ぎゃぁぁああっ!』
断末魔を上げて散り散りになっていく電撃が、大地に、空中へ霧散する。
ランスの先にある石が、砂のように崩れ去る。
それと同時に、雷娘もまた灰となり、空中に消えていった。
『一つ間違えば、己の身も同じように……』
「だからこそ、だ。これも出会いの形だったのだろうが。
敵まで救うことは難しい。
でも、他にできることはなかったのだろうか……」
『主殿……』
「これでこの村が魔神に襲われたのは二度目ですか」
「もっと頻発するところもあると聞きます。ゲートの開きやすい場所があるとか」
アインツの確認に、クーネルが地図を広げながら答える。
「商人や旅人の話では、ここと、ここ、ここにも魔神が出たという話があります。
そうなると見えてくるのが、その中心点」
地図では、白銀の村の西、荒野に魔神の目撃情報が集中していた。
「ここに何かがありそうです。調査をすべきだと思いますが、どうでしょうか」
アインツが、広場に集まった面々に視線を合わせながら聞く。
「歩いても十日程度で行けそうな距離だな」
「何かがある可能性は高そうだ」
皆が思い思いに言葉を漏らす。
「それでは、調査隊と、村の運営と防衛、また二組に分かれてのものにします。よろしいですね」
確認の体を取るが、拒否できない空気が、そこにあった。
「前衛と後衛でバランスの取れたパーティにします。
ですが、ヒーラーがいないため、私の神聖魔法を軸とした回復がベースになるでしょう。
そのため、ヒーリングポーションなどは多めに持っていくつもりです」
「アインツ様、私は、私を後衛にお加えいただけませんでしょうか……」
クロノスが、懇願するようにアインツを見つめる。
「クロノスさん。あなたの政治家としての手腕は、この村の発展には欠かせない戦力です。
それがよく解りました。
教育に、生産に、ヴィルヘンドルさんと運営して欲しいのです。
ヴィルヘンドルさんは、帝王学を修めておられるご様子。
国をまとめるためのお力がおありかと思います」
「で、では、アインツ様、私は、私はまた、あなた様と別れて、村に残れと言うのですか。
あなた様と一緒に、戦わせてはもらえませんでしょうか! どうか、どうか!」
「あなたは村に必要な方です。村には欠かせない人なのです」
「しかし、アインツ様!」
「残念ながら。村の発展に必要な人材を欠くことになりますが、クロノスさん、私と共に来てください」
「あ、アインツ様!」
「私の背中は、任せましたよ」
アインツがゲートの調査隊として選抜したのは、6名。
前衛には、聖騎士アインツ、赤髪の戦士ブレン、ジャイアントゴブリンのゴブリコ。
後衛に、炎の魔法使いクロノス、付与術士クエス。
遊撃として、レンジャーのマイキー。
アインツを見送りに来た中から、クーネルが挨拶する。
「アインツさん、どうかお気をつけて。
白銀の村は、私たちに任せてください。
私が村長代理として、村を守っていきます。てろてろさんも手伝ってくれますし」
てろてろが、少し照れたようにクーネルの隣に立つ。
「それに、ヴィルヘンドルさんが実際の管理と運営を担当してくれますし、カナーティアさんも補佐に当たってもらいます。
警察組織には、ルミナイトさんとバルーガさんに入ってもらって、防衛と治安維持を受け持ってもらうことになっていますし」
「クーネル、他にも村人から職人、商人経験者を中心に集め、組合を結成させてくれ。
徒弟制度も実施して、技術の訓練や職人の養成も行うようにな」
「クロノスさん、あなたから受けた指示書にあるとおりに、手配しているから大丈夫ですよ。
それに、学校も大きくしますし、文字や魔法を教えていきます」
「そうだな、それで識字率の向上や生活魔法の充実が図れるというものだ。頼んだぞ、村長代理」
経済を活性化させる。
そして、村をさらに大きく発展させる。
「まぁ、クロノスさん、皆さんも村を守ってくれるでしょう。安心して、旅立てるというものです」
「そうですね! アインツ様がそうおっしゃるのなら、間違いありません!」
「ははは……」
「それでは、皆さん、村を、村の皆さんを頼みましたよ」
「任せてください、アインツさん。ご無事なお帰り、待ってますよ」
アインツは、クーネルたちに手を振り、西の荒野を目指して出発する。
旅の仲間が、それに続いていく。
クーネルは、アインツたちが見えなくなるまで、村の入り口で見守っていた。
「何か判るといいんだけどね、クーちゃん」
てろてろが、クーネルの腕に、そっと自分の腕を絡ませる。
「大丈夫、アインツさんたちなら、きっと」
日は高く上ったばかりだった。




