↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/167

11王 生産力

 夜も更けた頃。

 王都ケイティパレスの王宮。その一室にルシェンドラはいた。

 

 宰相さいしょうとして国を動かすかたわら、今までにない魔法の扱いについて研究している。


 アンデッドを操る、使役の杖。

 杖自体は、王立魔術学園アカデミーに渡しているため、今は手元にない。

 

「アンデッド生成と、指示を伝達する手段。そして、奴らを制御する方法。

 これは、アンデッドのみに効果があるのか、それとも別のものにも影響を及ぼすことができるのか」

 

 複合魔法。

 一つのマジックアイテムに、複数の魔法、効果が付与されていること。

 

 アンデッド自体が初めて見るものだったため、ルシェンドラは検証までには至らなかった。

 他の者が生成したアンデッドや、自然発生的に生み出されたアンデッドが、使役の杖で言うことを聞かせることができるのか。

 効果があるとすれば、他の者が生成したアンデッドを、奪い取ることができるのか。

 または、生きた人間に対して、言うことを聞かせることができるのか。

 

「しかし、使役の杖で生成したアンデッドにしか効果が無いという可能性もある。時間がないとはいえ、王立魔術学園アカデミーに渡したのは早計だったか。いや、彼らもオレの意図することが理解できれば、あるいは……」

 

「閣下、王立魔術学園アカデミーのラフレシア学長がいらしております。いかがいたしましょうか」

 ルシェンドラが思案しているところで、丁度良い機会であった。

 

「よし、通せ」

 ルシェンドラの了解を得て、部屋の扉が開くと、そこには均整の取れた見事なプロポーションの身体に、ビロードのマントを羽織った美女が立っていた。

 

「早いな。で、どうだ」

「使役の杖の構造は理解できました」

 ラフレシアは、室内に入ると、仕事机に紙の束を広げ始めた。

 

「まだすべては解明できていませんが、低出力での模倣は、実現できました」

「ほほう、低出力というのは、どういうことだ」

「魔術師の術式で行うことができますが、この場合、生成数、命令の処理が著しく低下します」

「どれくらいだ」

 

「中級魔術師で3体。上級でも、5体が限界です」

 

 ルシェンドラが数千単位でのアンデッドを生成、操作をしていたことに比べると、機能の違いは明らかに劣っていた。

 

「だが、アンデッドの生成はできた、と」

「できましたわ」

 

「なるほど、それはよくやった。今までにない快挙だ」

 ルシェンドラの言葉に、ラフレシアは意外な顔を見せる。


「どうした、不満か?」

「てっきり、お怒りになられるのかと思いましたわ」

「なぜだ。今まで考えもしなかったことを、杖があったとはいえ、実現までさせたのだ。

 これを称賛せずにどうするというのだ」

 

(なるほど、ただのやんちゃ坊主っていうわけではなさそうね)

 

「ただ、流石に占領時のこともあるからな。街にアンデッドがいるのは、あまり心象によくないようだ。

 そこでだ。街の外に、敷地を用意した」

 

 ルシェンドラが王都周辺の地図を広げ、新たに書き加えた辺りを指差す。

 

「ここに、アンデッドの村を造る」

「な、なんとおっしゃいました?」

「アンデッドを使役し、周辺で農耕をさせる。制御するのは、それを使役できる魔術師だ。

 アンデッドは、食料の代わりに魔力を使うが、1人の魔術師を食わせることで、その3倍も5倍も、労働力が増えるということにもなる」

 

「しかし、そこまでの魔術師が、そもそも人数がおりませんわ」

「それについては、マーハラーン、いるか」

 

 奥の扉へルシェンドラが声をかけると、年老いた、だが張りのある声が返ってきた。

「控えております」

「入れ。訓練所の話を聞きたい」

 

 老剣士が控室から入ってくると、手にした名簿をルシェンドラに渡す。

 

「昨今、兵役の募集をした中で、魔法の能力に長けた者たちをまとめた一覧だ」

 そこには、名前、性別などの他に、魔法が使えるか、魔法の能力があるか、能力に目覚めているかなどが記載されていた。

 

「国を挙げての募集だ。中には魔法の素質がある者も出てきていてな。これを使わない手はないだろう」

「確かに、王立魔術学園アカデミーでは、魔法を勉強することができる程度の裕福な家庭の者ばかりでしたので、在野に埋もれていた者の発掘までは行えておりませんでしたが……。

 なかなか面白いことをお考えになりますのね。それに行動力もおありのご様子」


「世辞でも、美女に褒められて、悪い気はしないな」

「それこそお口ばかり。女は言葉に敏感でしてよ」

「はっは、見透かされたか」

 

 ルシェンドラは居住まいを正して、ラフレシアを正面から見据える。

「この者たちを使い、アンデッド使役のための組織を作ってほしい。

 成績の優秀な者には、国からの援助も与えるし、本人が望めば、王立魔術学園アカデミーへの入園に必要なものも、国から支援しよう」

死霊使い(ネクロマンサー)を育成なさると?」

「そうだ。国運をかけて、な」

 

「単純作業であれば、制御はできましょう。まさか、アンデッドに生者の食料を作らせようとは。

 確かに、文句も言わず、疲れもしない。

 労働力としてはうってつけなのかもしれませんわね」

 

「その分、国民には、人間にしかできない、物作りや研究といった分野で、技術や文化を成長させてもらいたいのだ」

「教会はどうされました?」

「あやつらには、神への冒涜だとか、背教者だとか、オレもさんざ言われたがな。

 そうは言っても人間だ。食う物がなければ、生きてはいけまい。

 理解してもらうよう、説得は続けるが、どうも苦手だ」

 

「そればかりは、私の方でもどうこうできませんわね。閣下のお力に、期待するだけですわ」

 ルシェンドラは、頭の後ろで手を組んで、椅子に寄りかかって天井を見る。

「やはり、オレが説得しなけりゃならんか。仕方ないとはいえ、面倒だな」


「何を弱気な。宰相でしょう、あなたは。

 折角私の閣下への評価が上がりそうな時に、がっかりさせないでくださいな」

「それは手厳しいな。暖かい季節になろうとしたところで、大雪に見舞われた気分だよ」

 

 地図と一緒に置いてあった、募兵の一覧と、村建設のための指示書を持ったラフレシアが、席を立って扉へ向かう。

「少しこちらのお話、進めるようにいたしますわね」

「できそうか?」

「今までどの王様も、食糧問題には解決の糸口さえ見いだせなかったのですから、閣下のお考えは試す価値があると思いましてよ」

 

「そうか。それでは追加で、これはお願いなのだが」

「なんでしょう」

 

「リビングデッドではなく、スケルトンで試してみてもらえないだろうか」

「あら、それはなぜですの?」

「あの腐敗した肉が付着している様が、どうも慣れなくてな。床に肉片が落ちていたり、触った物がベタベタしていたりな」

「それは、アンデッド差別ではなくって?」

「差別とか言われると困るんだが……。スケルトンの方が、潔いというか。スッキリとしているというか」

 

「判りましたわ。確かに季節や時間で扱いが異なるのは、操る側としても手間ですからね。

 効率や、衛生面から考えれば、スケルトンも理解できますわ」

 

 ルシェンドラは、少し安堵した様子を見せる。

「そう言ってもらえると、嬉しいよ」

 

 ラフレシアが部屋を出たことを見て、ルシェンドラはマーハラーンに視線を向ける。

「ジイはこの案、どう考えるか」

 

「そうですなぁ。戦や事故で死んだ者を、さらに使役するのか、という気持ちはありますが、死してなお、お国のために働ける、という気持ちもあります」

「ジイならどちらがよい」

「生きていようが、死んでいようが、閣下をお守りすることが、この老骨の務めと存じます」

「そうか。今はまだ、使役の杖を持っておらんのでな。ジイには生きていてもらわないとならんな」

「左様ですな。まだまだ、くたばるつもりはございませぬので」


「フッ、頼りにしておるよ」

「勿体なきお言葉。

 それでは、まだ息のあるうちに、こちらの資料をご覧くだされ。

 これは訓練所での内容と成果をまとめたもので……」

 

 ランタンの灯りに照らされて、報告書がめくられていく。

 深夜にも及ぶマーハラーンの報告は、まだ終わりそうになかった。

 

「ジイ、オレの方が、過労で先に死んでしまうわ」

「はっはっは、ごじょうだんを。さて」

「おいおい、慰めにも気持ちがこもっておらんぞ」

「つぎのほうこくですが……」

 

 あくびを噛み殺して、ルシェンドラは資料に目を向ける。

(ジイの方が、アンデッドに近いわ……)


 夜はまだ明けない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。