表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/167

58騎 地下排水路

 アインツは、王の依頼を受け、王都からの脱出を試みる。

 護衛対象は、国王クリング三世の隠し子である、侯爵令嬢のカナーティア。

 道案内となる第四王子ヴィルヘンドルも、実質護衛対象となる。


 アインツたちは、必要な装備を整えると、まだ夜も明けない内に、城からの脱出を始めた。

 

 城の中庭にある彫像の台座をヴィルヘンドルが触ると、台座の手前の芝生が割れ、地下へ続く階段が現れる。

「アインツ殿、ここから城の地下道を進み、街の排水路を通って、城壁の外の丘へ出るつもりだ」

「判りました。道案内、お願いします」


 アインツたちは、ヴィルヘンドルの案内で、城の地下道を進む。

「暗いンで、たいまつを点けるっスね」

 マイキーが火口箱ほくちばこから道具を取り出し、たいまつへ火を点ける。

 

 マイキーの周りが、炎の光によって、明るく照らされる。

 四方をレンガを敷き詰めた通路で、たいまつの炎の揺らめきから、多少の空気の流れを感じるところは、他の場所へつながっている事を意味していた。


「防衛には、甲羅の魔神、シエラのエネルギーフィールドで対処します。

 ですが、高位回復術が無いので、重傷を負わないように注意しましょう。

 ある程度の傷は、私とカナーティア様の神聖魔法の内、低位回復魔法で対処し、併用してポーションも使います」

 アインツは、メンバーにパーティバランスの説明と、今後の戦闘方針を伝える。


 前はマイキーが斥候として立ち、次に案内のヴィルヘンドルと、カナーティアが続く。

 最後にアインツが後背を意識しながら、全体の守りを受け持つ。

 

「それにしても、まさかカナーティアが妹にあたるとはな。オレも知らなかったぜ」

「突然のことでしたので、私も殿下をどうお呼びしたらよいか。お兄様、とお呼びした方がよろしいでしょうか」

「まぁ、それも悪くはないかな。聞けば、おまえの母親は、白の大陸でもそれなりの勢力を持つ家の出だとか。

 肖像画では、それはもう美しい娘だったようだしな。

 今のおまえを見れば、それも判ろうというものだ」

「私も、母上のことは父上の、あ、侯爵の義父ちちが言っていたことと、肖像画でしか知らなくて、幼い頃の記憶に、うっすらとある程度なのですが」

「そうか、それは悪いことを聞いたな」

「いえ……」

 

「殿下、お話し中にすみませんが、この道はどちらへ向かえばよいでしょうか」

 アインツたちが立ち止まったところは、地下道の十字路であった。

「ああ、これは正面でよい。右は食糧庫、左は兵舎に続いているが、城の外へはつながっておらん」


「ほう、流石ですね。地下道はすべて覚えておいでですか」

「幼い頃から地下の地図を頭に叩き込まれていたからな。初めて通る場所でも、そのような気はしないものだ」

「そんなものっスか?」

「それはそうだ。こちらは命懸けだ。これを覚えねば、有事の際に己の命を守ることができぬ。

 まぁ、今がその有事、なのだがな」

 

 アインツたちは、ヴィルヘンドルの案内で、城の地下道を進んでいく。

 

 いくらか進むと、レンガの壁が、石のものに変わる。

 だんだんと、汚水のすえた臭いが漂い始めてきた。

 

「別の道につながったようですね」

「殿下、ここは下水道っスか」

「そうだ。城の排水がここを通り、地下水路となって海へ続いている。他の道もあるが、ここが一番遠くまでつながっているのだ」

「流石に、排水だけあって、臭いで鼻が曲がりそうっスよ……」

 マイキーが顔をしかめる。

 

「よく物語じゃ、抜け道で下水道が使われるンすけど、まさかオレっちがそこを通るとは思わなかったっスよ」

「本当に、城ってこういうものがあるんですね」

「テレビ局とかは、犯罪者対策でビルの中が迷路になっている、なんて聞くンすけどね~。

 王宮や議会堂が地下でつながっているっていう話なんか、映画みたいっスよね」

「えいがって、なんですの?」

「ああ、お姫さんは、映画って判らないっスよね。申し訳ないっス。

 なんていうか、いろんな物語を、おっきい壁に映し出して観るものなンすけど……」

「投影魔法みたいなものでしょうか。人物や遠くの人の姿が見える……」

「そうっスね、そんな感じで、でも、それを保存できて、お話になっていて、絵本とか紙芝居の、投影魔法版、っていう感じっスかね」

「それは、観てみたいですわ。マイキー様は、そういったことにお詳しいのですね」

「いやー、それ程でもないっスよ~」

 だらしなく目尻が下がるマイキーを見て、アインツは少し寂しい思いがあった。

(こんな会話をしていたら、エレーナだったらツッコミを入れていただろうなぁ)


 下水道は、中央に汚水が流れ、その脇に通路のようなものが通っている。

 アインツたちは、その側道を進んでいる。

 

「少し道が判りにくくなっている。そこは右に入れ。道を間違えぬようにな、あ、そこは左だ」

「了解っス。今のところ、ネズミらしい奴らしか見当たらないっス」

 

 レンジャースキルの遠景視覚を発動させる。

 これは、遠くのものを鮮明に見えるようにできるスキルである。

 

「併せて、温度感知……」

 その遠景視覚に、温度感知のスキルを重ねる。

 温度が高いものは、赤く、高温になるほど白く見える。

 逆に、温度の低いものは、青く、低温になるほど黒く見える。

 熱源となる、たいまつや人間の体温は、明るく見えるため、距離と対象を見極める役に立つ。

 

 ヴィルヘンドルの指示に従い、通路を進んでいく。

 

「マイキー、異常はありませんか」

「大丈夫っスよ、アインツさん。今のところは、オレっちたち以外の熱源も……うわっ!」

 マイキーが、右足を汚水の川に突っ込む。

「何やってるんだ、まったく」

 ヴィルヘンドルが悪態をつくが、アインツは右手を構えると、何もない所からランスを創り出し、それを掴む。

「ストーリア、風で水路の水を吹き飛ばせ!」

『仰せのままに、主殿あるじどの

 

 アインツが【ストームランス】を構えると、ランスに螺旋状の風の渦ができ、水路へ向けてそれを飛ばす。

 

 汚水が弾き飛ばされ、水位が下がると、そこにはマイキーの右足を掴んでいたリビングデッドが見える。

 

「うひゃぁっ」

「奴ら、地下水路からも上がってきやがったか!」

 ヴィルヘンドルがカナーティアをかばいつつ抜刀する。

 マイキーは手にした剣で、自分の脚を掴んでいるリビングデッドの腕を切り落とす。

 

 汚水を吹き飛ばした水路には、まだ何体もリビングデッドが歩いてきていた。

 

「しくった! アンデッドは体温が無いから、温度感知は効果がないっス!」

「その手で来ましたか……。ここはまず、こいつらを撃退しましょう!」

 アインツは水路に降りると、リビングデッドの群れにチャージ攻撃を行う。

 真空の渦に巻き込まれたリビングデッドは、なすすべもなく細切れにされていく。

 

「アインツ様、後ろからも!」

 カナーティアが声を上げる。

「ホーリーライト!」

 カナーティアは、低位の神聖魔法であれば扱うことができる。

 貴族の子女として、神殿で一般教養を学ぶ際に得た技能だ。

 

 聖なる光が水路を照らすと、リビングデッドの動きが鈍くなる。

 邪悪で偽りの死者蘇生を行っているアンデッドにとって、神聖魔法は対極にある力である。

 低位のものとはいえ、アンデッドの行動が制限されることに違いはなかった。

 

 前後をリビングデッドに挟まれる形となったアインツたちは、水路の壁を背にして一カ所に集まる。

 

「殿下、ここから出口まではどれくらいですか」

「そうだな、今はおおよそ城壁の手前といったところだろうか。もう少しあちらの方向、恐らく東だろうが、そちらに向かえば、城壁は越えよう」

「判りました。私が道を拓きます。後をついてきてください」

「うむ、頼む」

 

 左手に持った【シェルシールド】を前面に向け、右手に構えた【ストームランス】の切っ先をシールドの脇から前に出す。

 

「突撃ぃっ!」

 アインツがチャージをかけると、弾き飛ばされた水で、アインツを中心とした水のトンネルが形成される。

 カナーティアたちは、アインツの後ろを追うようにして駆け抜ける。

 

 水路にいるリビングデッドたちは、アインツのチャージ攻撃で木っ端微塵に弾け飛び、排水路の天井や壁にその肉片を張り付けていった。

 

「アインツ殿、そこを左に! 外が見えるはずだ!」

 アインツがチャージで駆け抜け、リビングデッドたちを蹴散らしながら、水路の脇道を左へ曲がる。

 その先遠くに、かすかではあるが光が見えた。

 

「出口が見えました!」

「リビングデッドが入ってきたところかもしれない。気を付けろ。

 出口は王都と海の中間にある丘へ出るはずだ」

 ヴィルヘンドルが注意を喚起する。

 

 水路は上り坂になっており、徐々に水位も低くなる。

 その分、リビングデッドも水から出て歩いてくるため、ターゲットが定めやすくなる。


「最後、坂を上りきれ!」

 アインツを先頭とした一団が、敵を弾き飛ばしながら坂を駆け上がる。

 

 小高い丘にできた横穴から、アインツたちが飛び出す。

 真夜中に城を出たが、外に出た時には、太陽が天頂に近い位置にあった。

 

「やっぱり、こうなったっスねー」

 

 アインツたちが出た横穴の周りには、リビングデッドが群れを成していて、穴に入ろうとひしめき合っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ