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52騎 屍の目覚め

 戦端が開かれてから少し経った頃。

 ルシェンドラのいる、スリード王国に敵対する連合軍の本陣に、1人の男が現れる。

 

「私、人類救世戦線じんるいきゅうせいせんせんのヴァイスと申します」

 エクスパニア共和国を中心とした、人類救世戦線の代表として、ルシェンドラの元に通されたヴァイスは、深々と頭を下げ、礼をする。

 

「突然ではありますが、魔族に対抗するため、お力をお貸し願いたくまかりこしました」

 

 不機嫌そうに、ルシェンドラはヴァイスを見る。

「他の大陸とはいえ、大国からの使者というから会ってはみたものの、この状況を見れば判ろう。

 今はまさにスリード王国の主が誰か、その雌雄を決する戦の只中だ。

 他国の争いごとなど、この場でどうこうできようはずもない」

 

「さればです。あなた様が王国を手中に収められた時、我が方にもお力添えをいただきたいのです。

 その確約を取り付けたく、お願いする次第です」

「オレは勝つつもりではいるが、こればかりは相手もいること。

 オレが勝てば、そなたのいうことにも協力できるやもしれぬ。

 その時にまた出直してくるがよい。さすれば聞く機会もあろうというものだ」

 勝たなければ意味がない。ルシェンドラの眼差しが、それを雄弁に物語っていた。


「現状、理解しております。

 私も、手土産なしで訪れた訳ではございません。

 いかがでしょう。私の力で、あなた様の勝利を確実にすることができるかと存じますが」

 ヴァイスの計算高さが見える笑みに、ルシェンドラが反応する。


「ほほう、大きく出たな。なにをしてくれるというのだ。

 見れば、特にそなたの軍勢がいるわけでもなさそうだし、魔法も使えるようには見えんが?」


「よろしいでしょう。では、お見せ致します」

 ヴァイスは、懐からネズミの死体を取り出すと、手にした杖をかざす。

 

 この杖の能力として、当初ヴァイスは”焼けた魔族”を操れると思っていた。

 だが、実験を重ねることで、死者の身体をアンデッドとしてよみがえらせることができるものであるということを結論付けるに至ったのである。

 

 ネズミの死体は、冷たい身体のまま、むくりと起き上がると、よたよたと歩き出した。

 

「止まれ」

 ヴァイスが指示を出すと、ネズミのアンデッドはその場で停止する。


 ルシェンドラは、内心驚いたものの、おくびにも出さないで答える。

「なるほど、面白い。そなたはアンデッドを使役できるということだな。それも、その場で創り出して」

「ご明察、お見事です。

 私の能力があれば、アンデッドを生み出し、思い通りに使うことが可能です」

「軍としては、アンデッドを敵にした時の厄介さは知っているつもりだ。

 死体なら戦場にいくらでも転がっている。

 となれば、敵を倒せば倒すほど、味方の被害が出れば出るほど、そなたの力が役に立つ、ということだな?」

「仰る通りにございます。低級のアンデッドであれば、私が創り出したものではなくとも、操作することが適います」

「素直には喜べんが、理解はした。よかろう、オレが国をまとめたあかつきには、そなたのいう協力とやらをしてやろう」

 

「ご英断、感謝の念に堪えません」

「であれば、早速働いてもらうぞ」

「はっ」


 ルシェンドラは、ヴァイスを連れて、戦場へ赴く。

 

 そこには死屍累々の地獄絵図が広がっていた。

 

「やってみせよ」

「承知いたしました」

 ヴァイスが杖をかざすと、近くにあった死体が、むくり、またむくりと起き上がってくる。

 

「おお……、これは」

 流石にルシェンドラは怖気おぞけ立つ。

 

 見ると、100体程だろうか。

 ヴァイスの元に、リビングデッドが集まってくる。

 首が千切れかけている者、頭に矢が刺さったままの者、腕が切り落とされている者、臓腑がはみ出している者、様々な死の傷跡が残る身体を引き摺り、ぞろぞろと寄ってくる。


 自分で意図したものであっても、背筋に冷たいものが走る。

 

「い、いかがでございましょう」

 少し息を切らせながら、ヴァイスはルシェンドラを見る。

 

「そなた、具合が悪そうだな。これはそれ程疲れるものなのか?」

「は、左様にございます。多くのアンデッドを創り出せば創り出す程、精神力と魔力を消費いたします」

 

「なんだ、ここにある、数千数万の死体を自在に操れるのかと思ったが、そうではないらしいな」

「は、それには、それなりの精神力が……」

 

 ヴァイスは、今まで谷で魔族の死体を扱った以外は、小動物の死体を使ったアンデッドを創り出した程度であった。

(初めての時は、近くにあった魔族の死体だけだったから、ここまで多くは無かったが……、100体単位ともなると、かなり疲労するものだな……)

 

「もうしまいか?」

 400体程リビングデッドを創り出したところで、ヴァイスが膝をつく。

 一気に大量のアンデッドを作り出したため、ヴァイスの精神力が枯渇する。


「だ、だめだ、もうこれ、以上……」

 ヴァイスは、血の涙を流し、痙攣を繰り返す。

「なんだ、1000にも満たないではないか。これでは兵力として使えぬぞ」

 ガクガクと身体を震わせ、ヴァイスはくずおれる。

 

「よし、オレに貸せ」

「は、何を……」

 力の尽きていたヴァイスには、ルシェンドラの動きを止めることはできず、簡単に杖を奪われてしまう。

 支えにしていた杖を奪われたため、ヴァイスはそのまま地面へ倒れ込む。

 

「ようし、さあ、死者どもよ、オレのために今一度、かりそめの命をもって戦場へ向かうのだ!」

 ルシェンドラの気合一閃、使役の杖が振り下ろされる。

 

「お、おお……」

 ヴァイスが見守る中、リビングデッドが次々と這い出して来る。

 見渡す限りのリビングデッドの群れ。

 

「ふぅ、見たところ、5000といったところか……」

「殿下、あまりご無理をなされますな」

 マーハラーンが、ルシェンドラの身体を支える。

 

「案ずるな。少し休めば、また創ることもできよう。フハハハ、これはよい、これはよいぞ!」

 高笑いするルシェンドラを前に、マーハラーンは、己が主を止める言葉を持っていなかった。



 王国軍の右翼、連合軍の左翼に位置する戦場に、アインツたちが到着した時には、局地戦の趨勢はおおよそついていた。

 

 第四王子ヴィルヘンドルは、無数の傷を負いながらも、未だ剣を構え、ガンツにその切っ先を向けていた。

 

「あの王子は見たことあるっスよ。確か、国王の四男だったっスかね」

 駆け付けたマイキーが、満身創痍の王子を見て、アインツたちと情報共有する。

「ヴィルヘンドル殿下! ご無事ですか!」

「お、そなたは、確か、白銀の……」

「おお、アインツじゃねぇか。久しぶりだな」

 ヴィルヘンドルとガンツが、それぞれアインツたちを視認する。

 

「アインツよ、もう少しでこの王子様とは勝負がつくんだ。ちょっと待ってな、次に相手をしてやる」

 盛り上がった筋肉で、【赫斧あかおの】を振りかざす。

 その先には、肩で息をする血まみれのヴィルヘンドルの姿。

 

「ここは選手交代と行きましょう。王子、お下がりください」

「なんだぁ、オレの楽しみを奪うようなことはしないでもらいてぇな!」

「ガンツさん、ごめんっス!」

 マイキーが無数の石飛礫(つぶて)をガンツに放つ。

 ガンツは、マイキーの放った石を【赫斧】で弾くが、その挙動でアインツに時間を与える結果となる。


 この機にアインツはヴィルヘンドルとガンツの間にその身を入れ、ヴィルヘンドルを下がらせる。

「キュアウーンズ!」

 エレーナはヴィルヘンドルに治癒魔法をかけ、急場をしのごうとする。


「チッ、まぁいい。そこまでやりたいんだったら、相手にしてやるよ、アインツ!」

 ガンツが炎をまとった【赫斧】を振り下ろす。

 

 チャージを行っていないアインツは、ランスの特徴を生かせず、長柄武器として扱う。

 それに比べ、ガンツはバトルアックスである【赫斧】を、強化された筋力で軽々と振り回す。

 

 ガンツの【赫斧】が、アインツの【シェルシールド】に当たり、火花を散らす。

 

「ほほう、ようやっと、いいモノを持ってきたじゃねぇか。そうでなくっちゃな!」

「私も、あれから遊んでいた訳ではありませんからね」

「へへっ、言うねぇ。んじゃ、楽しませてくれるよな!」

 

 大きな振りのガンツの攻撃を、すんでのところでアインツがかわす。

 アインツの突きが繰り出されると、風圧が螺旋となってガンツを襲うが、それを【赫斧】の炎が噴き出す勢いで相殺そうさいする。

 

 20合、30合と打ち合うが、お互い一歩も譲ろうとしない。

 

 引き上げたヴィルヘンドルは、エレーナの治癒魔法の甲斐あって、どうにか瀕死の状態から脱したようで、アインツたちの戦いを、固唾を飲んで見守っている。

 

 それは南部連合軍の兵たちも同じであった。

 

「おい、おまえら!」

 ガンツは味方である南部連合軍の兵たちに呼びかけた。

「オレとこいつの勝負は放っておけ。おまえらは、他の奴らを始末しろ!」

 

 兵たちは、ガンツの声に歓声を上げ、その場で敵対する者たち、すなわちエレーナ、マイキー、ヴィルヘンドルの3人に向かって殺到した。

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