51騎 戦の判断
アインツたち3人は、オウリス平原を我が物顔で突き抜ける。
帝国軍は、アインツたちに抗しきれず、指揮官を失う羽目になった。
頭を取られた集団は脆い。
補佐官らの努力もむなしく、指揮系統が機能しない軍は、戦場で右往左往するばかりである。
帝国軍が、アインツたちを組みしやすしと攻撃を加えた頃、他の部隊でも戦端が開かれていた。
ルシェンドラの軍は、帝国軍の後ろに控えていたため、直接の戦闘には加わっていない。
左翼に展開するガンツの指揮する南部連合軍とイベータ城塞の糾合部隊は、そのまま正面の公国軍右翼に突入する。
数としては、ガンツたち連合軍が2万に対し、王国軍は1万5000。数の上でも勝っているところに、古今無双のガンツが先頭に立ってバトルアックスを振るう。
「オラオラ! 死にたい奴から前に出ろっ! この【赫斧】を食らわせてやるぜ!」
ガンツがバトルアックスを一振りすると、近くの兵は両断され、周囲にいる王国兵が薙ぎ倒される。
「軽い軽い! これじゃあ汗もかかない内に終わっちまうぞ!」
「なるほど、これは豪の者じゃ! よかろう、王国騎士団でもその名を轟かす……」
名乗りを上げようとする騎士の上半身が吹き飛ぶ。
「いちいちくっちゃべってんなっての! ここは命懸けの戦場だぜ!」
すれ違いざまに【赫斧】を振り抜くのと、王国の騎士の下半身が地に倒れるのが同時だった。少し遅れて吹き飛ばされた上半身が落ちる頃には、ガンツは別の獲物を探して戦場を歩いていた。
「ちったあ歯ごたえのあるやつはいないのかねぇ」
死屍累々としたところに、ガンツとその兵たちが立っている。
遠巻きに王国の槍兵が構えているが、攻撃をしようとはしない。
(飛び掛かっても、カウンターを食らうのが判ったってことかな)
ガンツが気合を込めて【赫斧】を構えると、バトルアックスの刃の部分が熱を帯びる。
空気がチリチリと緊張した音を立てると、突如【赫斧】から炎が噴き出した。
「うおらぁ! 旋風爆斬!!」
【赫斧】をハンマー投げの要領でグルグルと回すと、ガンツを中心に炎の渦が出来上がる。
炎の渦は、及び腰になっていた王国兵に向かっていき、兵に触れるや否や爆散する。
悲鳴と共に、王国兵の集団は、命を持たぬ欠片となって四方に散らばる。
「まだまだぁ!」
更にガンツが【赫斧】を振り払うと、そこから生じた炎の鞭が、王国兵たちを襲う。
「誰か! あの化け物を止められる奴はいないのか!」
王国の貴族が金切り声を上げるが、率先してそれに向かおうという兵はいない。
既に兵たちの戦意は喪失していた。
職業軍人でさえ、かろうじて踏みとどまっているのがやっとで、徴兵された農民兵は尻込みしながら後退していた。
「矢だ! 矢を射かけろ!」
王国軍から無数の矢が、ガンツに向けて放たれる。
「まだまだ、オレも甘く見られたものだな」
【赫斧】を振り上げ、吹き上げた炎が、放たれた矢をことごとく消し炭にする。
更に噴き出す炎が、貴族の身体も炭に変えた。
「好き勝手やってくれたな」
荒れた戦場の中で、ひときわ目立つ衣装に身を包み、若武者が抜き身の剣を持って現れる。
「オレは国王クリング三世が第四子、ヴィルヘンドル。これ以上、我が国の兵を損ねるわけにはいかん。
お前がこの軍を指揮している者と見た。ここは武人として、一騎打ちにて勝敗を決せん!」
ヴィルヘンドルは、抜き身の剣を振り、構えを見せる。
「少しは骨のありそうな奴が来たかな? いいだろう、相手になってやる」
ガンツも、【赫斧】を握りなおす。
ヴィルヘンドルは、じりじりと間合いを測る。
【赫斧】から放たれた炎が、ヴィルヘンドルに襲いかかるが、届く前に見えない壁のようなものに遮られる。
「ほほう、防御魔法かなにかか。こりゃあ久しく見ていない相手だな」
ガンツの目が、獲物を狙う猛禽類のものになった。
「王家に伝わる戦闘技法だ。なまじの攻撃では傷一つ付けること能わぬと思え」
「けーっ! 言ってくれる!」
ガンツは瞬時に間合いを詰め、【赫斧】で突きを繰り出す。
力の圧には抗しきれず、ヴィルヘンドルは体を躱してこれを避ける。
ガンツは突き出した【赫斧】を力ずくで方向を変え、ヴィルヘンドルへ向けてスライドさせる。
ヴィルヘンドルは、剣でこれを受けるが、重圧に耐えられず、身体ごと吹き飛ばされてしまう。
背中から地面に叩きつけられたヴィルヘンドルは、肺の中の空気をすべて吐き出すほどの衝撃を受ける。
「っ、はぁっ、はぁっ……」
何とか呼吸を整え、立ち上がるヴィルヘンドルの目前に、ガンツが迫る。
「遅い!」
【赫斧】の刃をギリギリのところで避けるが、バトルアックスの柄で顔面を殴打される。
またしても吹き飛ばされたヴィルヘンドルが血の混じった唾を吐き出すと、折れた奥歯が2本転がった。
「やってくれるな。これで老後は入れ歯の世話になるな」
顎をさすりながら起き上がったヴィルヘンドルは、ガンツに向かって剣を構えなおす。
「このオレを前にして、生きて戻れると思っているなんてなあ、大したもんだぜ」
ガンツは改めて【赫斧】を構えると、前身に力を込めた。
「能力開放! 筋・力・上・昇っ!!」
ヴィルヘンドルは、ガンツの身体を、見えないオーラが噴き出すように感じた。
「これが、地上世界の能力者の力か。
逃げてもいいなら、逃げちまいたいね……」
戦いを通じて力量差を感じていた上で、さらにこの違いである。
強張った笑みの上を、冷や汗が伝う。
ヴィルヘンドルは、クリング三世の第四子であり、王位継承権もそのまま第四位である。
クリング三世の子女は他にもいるが、妾腹の子であったり、女児であるため、継承権は与えられていなかった。
長兄のファイエルバーク王太子は前妻の腹であり、妃は産後の肥立ちが悪く、若くしてその命を落としていた。
次男からヴィルヘンドルまでの3人は、次に正妻となった妃から生まれていたため、王太子とは腹違いである。
だが、長兄のファイエルバークは、そのようなことは気にしない度量を持ち合わせており、幼い頃から弟たちの面倒を見る、できた兄だった。
ヴィルヘンドルは、そんな兄を尊敬しており、次期国王として即位したあかつきには、その補佐として兄を、そして国を支えたいと願っていた。
その想いが、今断ち切られようとしていた。
ガンツの異様な筋肉の盛り上がりを見て、ヴィルヘンドルは死を覚悟した。
「アインツさん、王国軍の戦況はあまり芳しくないようっスね」
一息つくと、マイキーがアインツに近づく。
「よし、これで疲労はだいぶ回復したじゃろ」
「エレーナさん、助かります」
エレーナが、アインツの額から手を離す。
魔法をアインツにかけ、一連の戦闘で溜まった疲労を回復させていたのである。
「なに、大活躍じゃった褒美じゃ」
「マイキーも、助かりました」
「ンなことないっスよ~。全員、大きな怪我も無く、何よりっスよ。
でも、右翼はかなりまずいみたいっスね」
「南部連合軍がいるとすると、ガンツさんも……」
「っスね」
水筒を持ち上げ、ひんやりとした液体が喉を通過する。
「っはぁ~。効くっスねー、このハーブティー」
「ミントをメインにした、スッキリ回復茶じゃ。疲労回復、殺菌効果、精力増進といいことずくめじゃぞ」
「また頑張らなきゃなんないっスねぇ」
「さて、司令部からは特に伝令があるわけではないので、遊軍らしく振る舞うのもいいのですが」
「戦局を考えれば、右翼でガンツを相手にするのもよいが、残りの戦力としてはほぼ互角じゃ。
ガンツを抑えたとしても、南部連合軍の兵士分、相手が有利じゃ」
数で劣る王国軍は、アインツたちが帝国軍を蹴散らしたと言えども、まだ数的には不利な状況にあり、また、敵軍にはガンツやルシェンドラといった、一騎当千の武将がいる。
「ガンツさんとは戦わず、こちらの左翼の援護をし、敵右翼を撃破したのち敵本隊へ向かえば、戦闘としては勝利できるかもしれません」
「セオリーとしては、そうじゃろうな」
「ただ、相手はあのガンツさんっスよ。味方の力を信じないわけじゃないっスけど、今の右翼部隊と、中央の本隊だけで、こっちが敵軍を撃破するまで、持ちこたえられそうっスかね?」
「可能性は、低いでしょう」
「儂もそう思うぞ」
アインツの瞳が、覚悟を決めた色に変わる。
「ガンツさんと、勝負しましょう。彼を止めなければ、どのみちこちらに勝利はありません」
エレーナとマイキーは、納得した顔で、覚悟を決めた。
「これから、右翼の部隊の応援に行きます! 対する敵は、南部連合軍と、イベータ城塞兵。そして、暁の殲滅者リーダー、ガンツ・ブロット!」




