14騎 森の追い剥ぎ団
前回までのお話。
アインツたちは、ゲームのシステムダウンの後、リアルな世界で戦っていた。
拠点を作り、ひとまず生きながらえることができたが、情報収集のために周囲を探索することにした。
「ちっくしょう! やってらんねぇ!!」
男はがなり散らすと、近くにあったテーブルを力の限り蹴りつける。
木製のテーブルは、男の脚力に耐えられず、真ん中から折れ砕けた。
「お頭ぁ~、この洞窟をねぐらにしてから、テーブルいくつ壊しゃぁ気が済むんですかい」
「うるっせぇ! んなんいうんなら、獲物の一つでも見つけて来いってんだ!」
「へいへい、ボドの奴が今物見に行ってるんで、それを待ちましょうや」
顔には額から下顎にかけて、大きな刀傷のある大男で、傷近くの髪が生えなくなっているため、いびつな頭髪の生え具合になっている。
歯は黒く汚れ、何を口にしているのか、ニチャニチャと耳障りな音を出す。
男の名前はエイザ。
少々腕に自信のある戦士だったが、ある時賭けに負けた腹いせに民家へ強盗に入り、家にいた家主を殺害。
金品を盗んで逃げたことから、国に追われる身となった。
街道沿いで追い剥ぎをしていたところ、都市の外にまで安全確保の名目で盗賊狩りをするようになったため、街道沿いを避け森に拠点を移したのであった。
森ではクロオオモグラの巣に厄介になっている。
クロオオモグラは、このあたりの森に多数生息する獣で、体長は2メートルをゆうに超える。
その身体で巣穴を掘るため、使われなくなった巣や通路は、他の生き物が使える程の洞窟となっていた。
エイザはそこに居を構え、追い剥ぎをしては、自分より弱そうな奴を見つけて殺していった。
徐々に食い詰め者が集まりだし、一人増え、二人増えしている間に、30人を超す大所帯となっていた。
流石にそこまで行くと、子分どもにしのぎをさせても、確たる地盤もないため、食い扶持が足りなくなる。
そろそろ大物を仕留めたいと思っていたところだ。
「お頭ぁ、ボドの奴が戻ってきやした!」
「頭~、獲物がいやしたぜ~! 聖職者らしい女に、その護衛っすかね、騎士やら戦士やらがいやした」
「お、でかした。で、そいつらは金か飯、持ってそうか?」
「見たことのない鎧を着ていたりしますがね。あ~、でも、武器は貧相だったなぁ。まるでゴブリンからむしり取ったようなものでしたぜ」
「全部で何人だ?」
エイザが声を張り上げて聞く。
「へい、貴族の令嬢みてぇな聖職者が1人、レンジャーが1人、騎士と戦士が1人ずつ、魔法使いが2人でやんした」
貴族の令嬢という言葉に、エイザは悪魔じみた笑みを口元に浮かべた。
森の中を行くアインツたち一行。
「クロノスさん、アビスクロニクルでは、どれくらいのレベルだったんですか?」
アインツがクロノスに問いかける。
「はっ、ひゃい! 私のレベルは、62です! 先日、なりました!」
62と言えば、上級のランクになったばかりだ。
とはいえ、上級ともなれば、それなりに実績を積んでいるので、戦力としては期待できるといえよう。
見た目は枯れた枝のような男だが。
このところ、クロノスの相手は、アインツの担当になる事が多くなってきた。
アインツの言葉ならなんでも言う事を聞くからだ。
アインツにとってはあの態度は少々ウザいのだが、悪気は無さそうだし、何より会話として一番効率がいいのは確かだ。
(でも、なんだか好意をいいように利用している感じもして、気がひけるんだよなぁ)
ただ、クロノスはそれすらも喜んでいる様子なので、アインツも深くは考えないようにした。
アインツたちは、スリード王国を探すため、教会を出て森を東に進んでいた。
既に森に入ってから3日が経過しようとしている。
携帯している水と食料は10日分。
5日進んで目的を果たせない時は、元来た道を戻ることになる。
教会で生活していくうちに、狩りの成果も増え、数日も経つ頃には、皆がそれなりに食べても余剰が出る程の量になった。
その日食べ無い物は、干したり、堅焼きのパンにしたりし、日持ちするよう加工できるようになった。
干し肉など、加工した食料をバックパックに詰め、持ちきれない食糧などは、備蓄品として地下の食糧庫に保管した。
更には、ルミナイトなど他のプレイヤーが教会を訪れた時に、使ってもいいように書き置きもしておいた。
自己満足かもしれないが、アインツは自分たちの行いが誰かの役に立つのであれば、それでいいと思った。
「相変わらず、アマちゃんじゃのう」
「それが騎士たる役目、ですから」
「りっぱりっぱ。あーえらいえらい」
敢えて棒読みで言うエレーナのお決まりな嫌味も、この時ばかりはアインツには讃辞に聞こえた。
教会にいた時からだが、流石にサバイバルも数日過ごすと、蛇やネズミなども平気で食べられるようになる。
元々手先の器用なマイキーやてろてろは、皮剥ぎ、血抜き、毒抜きなども含め、すぐに獲物を絞められるようになったものだ。
森に入ってから、モンスターには出会っていない。
このまま何事も起きなければいいと思っていたその時、目の前の草むらが揺れた。
エイザは手下の連中と共に、旅の一団が見えるところにまで、草むらの中を隠れて進む。
一団が見えた。ボドの報告の通りだ。
まず、目を引くのは、高貴そうな聖職者の少女だ。
色白で金髪ポニーテール。
白を基調にしたコートは、襟元や袖口に金糸の飾り模様が刺繍で入っていて、なかなか高価そうだ。
高貴な出自故か、整った顔立ちから全身の立ち居振る舞いまで、力のある人物特有のオーラが感じられる。
一目で、この集団の最重要人物と判る。
守られることに慣れている、お姫様だ。
もう一人の女は、顔立ちだけなら美人の部類に入る戦士。
着ているものはといえば、あまり立派とは言えないものだ。
革をベースとしたブレストプレートは、胸元だけが金属で、それを革で補強している程度。ブーツやグローブもつぎはぎの革製で、命を守る装備に金をかけられていない様子。
武器には金をかけているかと思えばそうでもなく、欠けた刃のショートソードと、小さい弓が一張だけ。
冒険者風ではあるが、どこに金をかけているのか分からない。
借金の返済に追われて、仕方なしにこの装備で仕事を請け負っているのではないかと思えてしまう。
これ娘たちだけでも、戦利品としては一級だ。
まずは裸にひん剥いて、鎖の付いた首輪をしてやる。
2人とも背は低いが、金髪の方は、コートの上からも判るあの胸の膨らみ。かなりいいものを持っていそうだ。
今までどれだけ大切にされて育てられてきたのか、どれだけ贅沢な生活をしてきたのか。
勝手に想像しただけでも、自分とのあまりにも違う境遇に、歪んだ悪意が心の中で鎌首を上げる。
それを我がものとし、蹂躙する楽しみは堪えられない至福だ。
もう1人の方も、裸にしてからどうするか考えてもいい。
味見したあとは、手下にでもくれてやろうか、とも思う。
どれだけ美しかろうが、どれだけ贅を尽くしていようが、自分の足元にひれ伏させ足蹴にできれば、自分が上の存在であることを実感できる。
そう、今までもやってきた。
一通り楽しんだ後は、別のお楽しみが待っている。
あの高貴で綺麗な顔が、恐怖と苦痛で歪む姿を見てみたくて見てみたくて堪らなくなる。
爪を一枚一枚剥いでいくのもいい。
まずは左足の小指から。次に薬指。中指。そして、右足、左手、右手と続ける。
汚れを知らない白く細い指が、自分の血で赤黒く染まっていくのだ。
指を石で潰しても面白い。
叩き潰す前の恐怖に怯えた眼差しと、潰した瞬間の泣き叫ぶ声。
思いとどまった振りをして、安堵させた瞬間に叩き潰した時の感情の爆発。
その落差に心躍る。
金串を通し、焼けた鉄板を押し付ける。
髪をたいまつでジリジリと焼く。
耳を落とし、鼻を削ぎ、目を潰してもいい。
足先からナイフで少しずつ削っていき、どこまで生きているかを賭けにすると、手下どももとても盛り上がるのだ。
捕らえた後のことを夢想し、卑猥で悪辣な笑みを浮かべる。
男は4人。
一目を引くのは、やはりフルプレートの騎士か。
装備の見てくれだけは大したもので、タワーシールドを持っているが、驚くべきことに、手にしている獲物は太めの木の枝。
杖代わりにしかならないような代物だ。
そのアンバランスさに、不自然さを感じる。
フルフェイスのヘルムから見える顔は、ごく普通のあまりパッとしない人相。
その他大勢の一人。そんなイメージだ。
前衛に出ている背の高い男は、なかなかの好青年に見える。
手にした武器は、女戦士と同じ弓と、ナイフが1本。
装備は革鎧一式で、レンジャーらしいといえば、レンジャーらしい身なりだ。
俊敏さに長けていそうで、少し屈んだ姿勢からは、力が溜められているのが見て取れる。
瞬発力とスピードで掻き回すタイプかもしれない。
後衛の男2人は、魔法使いの風体。
子犬みたいな若い男と、骨と皮ばかりの血色の悪い男。
若い男は、見るからに経験不足。
着ているローブは新し目で、それほど汚れも目立っていない。
魔法使いになりたてで、旅に不慣れな感じがする。
おどおどした視線を、頼りなげに女戦士へ向ける。
木の枝のような男は、ある意味不気味ではあるが、そうそう強力な魔法を連発するような体力は無さそうに見える。
詠唱前に叩けば、1発で倒せそうな気がする。
これはいただきだ、と、エイザは心の中で呟く。
勝ちを確信して、草むらから躍り出て、第一声をかける。
「おい、おめーら! 死にたくなかったら、身ぐるみ全部置いてきやがれ!!」
もともと生かして返すつもりもないが、おきまりの台詞を言う。
金髪美少女の一行は、それまでの歩みを止めて、草むらから出てきたみすぼらしい男たちに注目する。
「典型的な追い剥ぎパターンじゃの。見ているこちらが恥ずかしくなるわい」
エイザたちが想像していたイメージを裏切る発言が、金髪美少女から発せられる。
「んなっ! んだこの生意気なガキは!」
「待って下さい。言葉が通じるのであれば、話し合いましょう、ね」
フルプレートの騎士が、落ち着いた声で間に割って入る。
そうなのだ。アインツたちにしてみれば、プレイヤー以外で、初めて言葉を交わすことのできる者たち。
今は何より情報が欲しい。
マイキーの能力が周辺を調査する。
正面にリーダー格を含めて10、その後ろの藪に隠れて弓持ちが6、木の上に5、後ろにも回られたか、後背に4。
25人か。
マイキーは後ろ手に、手信号でアインツに伝える。
「おのれら、この白銀の守護者の主であるアインツ様の歩まれる道を塞ごうなどと、不敬にも程がある! その罪、万死に値する!」
痩せぎすの魔法使い、クロノスが、突如湧いて出た追い剥ぎに向かって怒号を浴びせる。
「ま、クロノスさん、そう言わないでください。初めから喧嘩腰では、話し合いになりませんし」
吠える魔法使いをたしなめたのは、金髪美少女ではなく、パッとしない騎士の方だったことに、エイザは戸惑いを感じた。
「寛大でお心優しいアインツ様がそう仰るのであれば、それに従いましょう」
アインツに最敬礼し、追い剥ぎたちに向かって一瞥をくれる。
「おのれら、命拾いしたな」
「なにをごちゃごちゃぬかしてやがる! あまりにも恐ろしすぎて頭でもぶっ飛んだか!?」
「この森じゃあ、俺様の手下100人が、おめーらを殺したくってウズウズしてんだ。もうとっくにショーベン垂らしてオワオワか! さっさと言うことを聞いて、武器を捨てやがれ!」
アインツは意に介していない様子で、溜め息を一つする。
「残念です。もう少し冷静にお話ができればよかったのですが。仕方ありませんね」
アインツが落ち着き払った口調で、メンバーに方針を伝える。
「降りかかる火の粉は払わねばなりません。なるべく全滅させないで、何人かは生かしておいて下さい」
アインツの眼が、覚悟を決めた鋭いものへと変わる。
「後で聞きたいことがありますから」
アインツが言うや否や、木の上から何やらボタボタと落ちてきた。
木々や草むらを赤く染めるそれは、5人分の血液と肉片だった。
「あと20じゃな」
クーネルが頭上に手をかざしていたのを見て、エレーナが酷薄な笑みを浮かべて呟く。
追い剥ぎたちは何が起きたのか全く把握できていない。
マイキーが速射をし、正面に立つ追い剥ぎの内、6人の額に矢が突き刺さる。
あまりの素早さに、追い剥ぎたちでそれを見る事が出来たものはいなかった。
射抜かれた6人も含めて。
クロノスの枯れ枝のような指から放たれた炎弾が6つ、炎の航跡を残して草むらに飛び、着弾と同時に激しい爆発を起こす。
炎弾の光と爆発で、かろうじて意識を取り戻した追い剥ぎたちは、自分たちがとんでもない相手に手を出してしまった事を瞬時に理解した。
パカカン!
アインツが振り向きざまに木の棒を振るう。
2人の追い剥ぎが吹っ飛ぶ。
その頭部は身体とは別々の方向へ飛ばされ、木の幹に叩きつけらる。
もはや人間の頭とはいえないその塊は、潰れたトマトのように幹へ張り付いていた。
後ろに潜んでいた追い剥ぎの4人が、一瞬で半数になる。
前方は、リーダー格の男含めても4人が残るのみ。
何もできず、25人いた追い剥ぎの連中は、6人にまで数を減らした。
それも、ものの1分も経ったかどうか。
まさに秒殺。
慌てて踵を返そうとした男たちの背中に、てろてろから放たれた矢が突き立つ。
追い剥ぎたちは、また2人命を落とした。
エレーナがつかつかとリーダー格の前に進んで、抑えた声で優しく話しかける。
「もうとっくにショーベン垂らしてオワオワか。 さっさと言うことを聞いて、武器を捨てやがれ。 クククッ」
青ざめ、愕然と膝をつく追い剥ぎたちが、武器を手放す。
もう、逃げる気力すら湧いて無かった。
生きながらえたというのに、これから起こるであろう災厄を思うと、生きている心地すらしなかった。




