07.未来の義家族。あるいは王族との距離感。
何と答えればよいのか、すぐに浮かばずに曖昧な笑みを浮かべる。
カイル様とお会いした日からそれほど時間は経過していないが、自分でも順調に交流できているなとは思っていた。しかし、それがイザベラ様の目にもそんな風に映っていた、ということに、なんだか気恥ずかしく感じる。
おそらく、アシル殿下も同じようなことを思われたのだろう。とても不思議な顔で、カイル様が向かわれた先を見つめたままだった。
「元々カイルは人との交流が好きなタイプなので、早々に打ち解けるとは思っていましたけれど。思っていた以上に二人の相性は良いようね」
「そう、ですね……カイル様はわたくしの知らないことをたくさんご存じですし、わたくしの話を馬鹿にすることなくきちんと聞いてくださいますから。これまで、わたくしの話に耳を傾けてくださる男性とお会いしたことがなかったため、ついつい、話しすぎてしまうのですが、嫌な顔一つされなくて……」
なぜ、未来の国王夫妻にこのような話をしているのだろうか、と自問自答しながらも、正直に話していく。
実際、初めてお会いしたあの日から今日までの間、共に過ごした時間がそれほど長いというわけではないが、その短い時間の中でも、カイル様との時間はわたくしの中で、既に掛け替えのないものになっていることを自覚した。
「……やはり、カイルにあなたを紹介したのは、正しかったようね」
「これ以上ないご縁を結んでくださり、感謝に堪えません」
「アデラ様にそう思ってもらえるのなら、わたくしも安心です」
じっ、とわたくしを見つめていたイザベラ様がふわりと微笑まれた。
「そういえば、先日、陛下と面会されたそうですけれど、特に問題はなかったかしら」
「はい。陛下とカイル様の関係もとてもよく理解できましたし、いかにして今のカイル様の人格が形成されていったのかの一端も垣間見ることができました。今後のカイル様との関係構築にも役に立つ、非常に有意義なお話をお聞きすることができました」
「カイルと、陛下の関係?」
「父上と兄上は、特にこれと言って仲がいいとか不仲とか、そういうのはないと思うけれど……」
わたくしの言葉に、ピンとくることがなかったのか、アシル殿下もイザベラ様も、お二人そろって困惑気味の表情を浮かべている。
カイル様も仰っていたが、やはり、お二人の見ている陛下と、カイル様の目からみた陛下は異なる印象を抱くのだろう。イザベラ様とアシル殿下が抱く陛下像もまた、大きく異なる可能性は高い。
「陛下とカイル様は、非常に仲の良い父子のようでした」
陛下は、イザベラ様には意図的に頼もしい伯父としての姿を見せているとおっしゃっていたのであまり余計なことをわたくしが言うわけにはいかないが、この程度ならば問題はないだろう。
実際に陛下がイザベラ様に見せているお姿は想像するしかできないが、おそらく、先日わたくしが拝見した気さくな陛下とは全く異なるのだろう。
少なくとも、陛下御自身が「カイル様が自分にそっくり」と発言されれていたのは、わたくしからは言わない方がいい気がした。
国の王位継承に関しても何気なく話されていたが、それについてもわたくしが言及することではないだろう。
「仲が良い……アデラ様の目には、お二人がそう映った、ということ、なのよね?」
「はい。陛下はカイル様の資質、個性も正確に把握されておりましたし、非常に楽しそうでした」
楽しそう、とアシル殿下が小さく呟かれた。表情から何を考えていらっしゃるのかは分からないが、いささか不安げである。
陛下はアシル殿下のことは、御側室様によく似ていて気が抜けないとおっしゃっていたので、陛下が楽しそうにしているということに対して、何か思うところがあるのかもしれない。
とは言え、陛下の御様子からして、アシル殿下を疎んでいるということはなさそうであったし、王妃殿下、御側室様に対しても、国民が想像していた以上には情がありそうに見えた。
「もし機会がございましたら、陛下とカイル様、アシル殿下とイザベラ様でお話をされるのは如何でしょう。思いもよらぬ一面を垣間見るかもしれません」
差し出がましいと思いつつも、つい、おせっかいを焼いてしまう。
おそらく、陛下御自身に他意はないのだろうが、会う人によって陛下に対する印象が異なるのは、混乱の元になるのであまりいいことではない。アシル殿下の様子から見て、既に弊害は多少なりとも出ていそうである。
他の誰かが指摘するのは不敬となりそうではあるが、イザベラ様ご自身が気づいて指摘するのであれば、陛下の御不興を買うこともないだろう。
「……そうね。でもその時はもちろん、アデラ様も一緒に、ね?」
「わたくしも、でございますか?」
「えぇ、もちろん。カイルの妻となるあなたも、いずれは家族になるのだから」
思ってもいなかったことを言われ、パチリ、と目を瞬く。
このまま問題なくカイル様と結婚できた場合、関係としてはイザベラ様の言うとおりであるのだが、あくまでも「夫の父」「夫の弟」「夫の弟の妻」であるため【家族】と言われても、なんだかしっくりは来ない。
そんなわたくしの様子が分かったのか、イザベラ様は少しだけ面白くない、といった御様子で、
「アシル様も、そう思いますでしょう?」
と、話の矛先をアシル殿下に向けられた。
「もちろん、兄上の妻となるのだから、僕にとっては義姉上になるのだし。父上にも認められているのだし、前にも言ったけれどもっと気軽に接してほしいな」
「……恐れ多いことにございます」
「うーん、まだ固いかな。仕方ないことだろうけど……兄上と結婚すると言っても、王族になるわけではないから、その意識の違い、かな?」
アシル殿下の言葉に、思わず納得する。
確かに、陛下を始め、アシル殿下とイザベラ様が将来的に義理の家族になるという認識はあるにはあるが、わたくしは王族に嫁ぐわけではない。
今はまだ王子であるカイル様であるが、わたくしが結婚するころには既に王籍から離れられた後になる。
あくまでもわたくしは臣下のままであり続けるので、どうしても線引きをしてしまうのかもしれない。
イザベラ様もアシル殿下の言葉に納得されたのか、じっ、とわたくしを見つめた後に「そういうものなのね」と小さく呟かれた。
「確かに、アデラ様とわたくしでは立場が違うものね。でも、ゆっくりでも構わないから、できればもう少し打ち解けてもらえると嬉しいわ」
「その……努力いたします」
果たして努力して打ち解けることができるものなのかは甚だ疑問ではあるが、一子爵令嬢が、殿上人たる王族や、元王女を母に持ち、近々王太子妃となられる公爵令嬢と気軽に話ができるようになるためには、何かしらの努力は必要になるだろう。
完全に一線を引いて接触を控えるつもりはないのだが、思えば勉強ばかりで、人との親交を深める方法を知らないということに気づく。
些か見当違いなことを言ってしまったかと思ったが、イザベラ様もアシル殿下も満足げに笑われていたので、問題はないようで安心する。
御多忙なお二人が、合間を縫って交流されている邪魔をするわけにはいかない。そう思っていたのだが、なんだかんだとイザベラ様に引き留められ、そのまま庭園のガゼボに用意されたお二人のお茶会の場へと招かれた。
アシル殿下も、イザベラ様が楽しそうだから、と快く招いてくださり、申し訳ないと思いつつも安堵する。
「さて、それでは、陛下からお呼びが掛かるまで……二人のことを教えてもらえる?」
珍しく、イザベラ様が年齢相応にウキウキしたような表情をされていることに、失礼ながらも、なんだか不思議なものを見るような気持ちになったのは、生涯の秘密にしようと思う。




