19.装飾品選び。あるいは婚約者の色。
「困った、レラの髪にはどんな色でも似合うし、瞳の色にも何色でも似合ってしまう。え、レラには何色の装飾品を贈れば良いんだろう。……似合うならなんでもいっか!」
「よくありません、少し落ち着いてください、カイル様」
昼食後、今度はどこに行くのだろうと思っていたら、宝石商の元だった。
仕立て屋とレストランは事前に決まっていたけれど、急遽この宝石商も追加したらしい。
「ねぇ、レラはどんなデザインが良い? デザインによっては必要な石の大きさとか数が変わるから、先に決める? それとも、気に入った石があったらそれを使う?」
カタログを開いたカイル様の目は、楽しげに輝いている。隣からカイル様が膝に置いたカタログを覗き込むと、ゆっくりとページを捲ってくださる。
一言で耳飾り、首飾り、指輪と言っても大きな石をメインにするか、小さな石を沢山使うかでデザインの方向性は変わる。
カタログに描かれているデザインはどれもとても素敵であるが、ドレスと同じように、自分に似合うデザインというものが全く分からないので、結局はカイル様頼りになってしまうのが心苦しい。
「んー、まずはガーデンパーティで身に着けるものを先に見てみる? でもせっかくだからドレスに合わせたいよね」
「しかし、パーティの日までそれほど時間がありませんから……ドレスが決まってから選ぶのでは、カイル様のお時間が取れないのではありませんか?」
ドレスと装飾品は確かに合わせた方がいいのは事実であるが、残念ながらドレスのデザインは現時点では分からない。それならば、汎用的に使える無難なデザインを選ぶのが一番なのだが、カイル様は妥協したくはないらしい。
「分かってる、分かってるんだけど、でも、せっかくのレラのお披露目の機会なのに……エミリのセンスを信じて、レラに似合う装飾品で妥協するしかないのかな……」
「ガーデンパーティでお会いするのは、国内の貴族夫人たちですから。あまり自己主張を強めるよりも、控えめなデザインの方がいいかもしれません」
日中に催されるガーデンパーティだからこそ、あまり煌びやかなものは場にそぐわない。あまつさえ、主に顔合わせをするのは貴族夫人たち。近く男爵になることが確定している王子の婚約者である子爵令嬢、というのは、なかなかに難しい立ち位置である。
しかしながら、国王陛下にも王妃殿下にも認められた婚約であり、次期王太子妃であられるイザベラ様が結んでくださった縁である。これらを考えると、貴族夫人たちもわたくしに強くは出られないが、わたくしからしても、彼女たちは王妃殿下直々に紹介してくださる方々であり、それはつまり、王妃殿下にとっては重要な貴族夫人、ということである。
「よし、まずは宝石を決めてしまおう! 出来れば定番だけど、僕の色の石は身に着けてほしいから、ブルーダイヤ……」
「いけませんカイル様、落ち着いてください。そう、カイル様の瞳のお色に寄せるのであれば、ブルーダイヤより、アクアマリンのほうが良く似ています。わたくし、カイル様の瞳の色に似ている方が嬉しいのですが、カイル様はいかがですか?」
「もちろん、嬉しいよ! そうだね、アクアマリンだと、石座はシルバーがいいかな。とりあえず、アクアマリン見せて」
なんとかカイル様の希望をブルーダイヤからアクアマリンへと誘導して、安堵の息をつく。いくら、品位維持費が予算として組まれていようと、さすがにブルーダイヤは希少すぎて気後れしてしまう。
もちろん、アクアマリンが安いというわけではないが、ブルーダイヤに比べれば安いのは事実だ。
カイル様のお言葉で、店内にあるアクアマリンが使用された装飾品たちが一斉に運ばれてくる。
わたくしたちの会話を聞いていたのか、華美過ぎるデザインの装飾品は無いようだ。
もちろん、カイル様が訪れる店なので、扱う石の等級は高いものだろう。センスのないわたくしから見ても、最高級品のものであることがわかる。
いくつもの耳飾りをわたくしの耳に当てては戻し、別の耳飾りを手にとってはまたわたくしの耳に当てる。
「あの、カイル様。そのように沢山選んでいただいても、使う機会が……」
「これからいっぱいできると思うよ? 母上はレラのことを気に入ったみたいだし。卒業までは勉強が忙しいだろうから母上も多少は遠慮すると思うけど、結婚したら男爵夫人になるわけだし。そうなったら、多分、遠慮なくなると思うんだよね。少なくとも、ガーデンパーティ用には必要だから」
カイル様がおっしゃるのであれば、光栄なことに、王妃殿下のお眼鏡にかなったのだろう。あの日、色々と王妃殿下が吐露できる人間として認識していただけたという自覚は多少なりともある。
となれば、確かに、王妃殿下が気軽に話せる相手として、婚姻後は王妃殿下に招かれる機会も増えそうだ。
「……そう、ですね」
わたくしが頷くと、カイル様は「でしょ?」と喜々として再び耳飾りを色々と手に取り、わたくしの耳に当てるという行為を繰り返し始めた。そうしていくつかの耳飾りを選んだかと思えば、次は指輪である。
なんだか恥ずかしくて「自分で指に嵌めるので」と止めると、しょげた幻の犬耳が見えるようで、強くは言えず、結局はカイル様の好きにしていただいている。
指輪も耳飾り同様、いくつも実際に嵌めては外して、次の指輪を嵌めては外して、を繰り返していくつかの指輪を選んでいく。
「首飾りは、石はそこそこの大きさだけど意匠は控えめなものと……普段使える小ぶりなものも欲しいな」
「……」
「何か、気に入ったのあった?」
「あ……はい。こちらのものがとても、カイル様の瞳のお色に似ていて……」
石は小さいながらも美しく輝き、しかし少し色味が薄く、アクアマリンとしての価値はそう高くはない。デザインもありふれたものであり、どこにでもありそうなものだ。それなのに、どうしてもその首飾りからは、目を離せなかった。
じっ、と見入っていると、カイル様がその首飾りを手に取り、わたくしの首にかけてくださった。すぐに店員が鏡を見せてくれる。
「……うん、凄く似合ってる。よかった、レラ自身が気に入ってくれたものが見つかって」
「……ありがとう、ございます」
にこりと笑ったカイル様は、また別の首飾りを探し始める。
そんなカイル様には大変申し訳なく思うが、わたくしは、今、こうして首にかけているこの首飾りから、やはり目を離すことができなくなっていた。
そうしてわたくしがカイル様の瞳の色の首飾りを見つめている間にもカイル様はいくつかの首飾りに目を付けていて、わたくしが我に返ったことに気づくと、次々と首に首飾りを当てていった。
「うん、アクアマリンのものは、とりあえずこれでいいかな! じゃあ、次は……ペリドットのカフスとかタイピンを見せてほしいな。僕もレラの色の何かを身に着けたい」
自分の色を婚約者が身に纏う、というのが一般的な婚約者同士としてはありふれた行動であったとしても、そのような経験は一度もないため、なんだかとても嬉しく思う。
カイル様がペリドットのタイピンとカフスを選んでいる隣で、わたくしの胸はドキドキと高鳴っていた。




