↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女を返上したら、静かに溺愛されました 〜山あいの湯治の里で、何もしなくていいと言われて〜  作者: はねださら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/30

第24話 教えないという教え

ハンナの話を聞いてから、私は、一つ、気づいたことがあった。


ハンナは、私に、何も教えなかった。


里に来てから、ずっと。


どう休めばいいのか。


どう力を抜けばいいのか。


何も、教えてくれなかった。


ただ、「何もしなくていい」と言って。


あとは、私が、自分で気づくのを、待っていた。


ある朝、私は、ハンナに、それを訊いてみた。


「ハンナさんは、どうして、何も教えてくれなかったんですか」


ハンナは、湯を沸かしながら、振り返った。


「教えてほしかったかい」


「……いえ」


私は、首を振った。


「でも、最初は、戸惑いました。何をすればいいのか、分からなくて」


「だろうね」


ハンナは、笑った。


「あんたみたいに、ずっと役目を果たしてきた子は、指示がないと、落ち着かない。何をすればいいか、教えてほしくなる」


「はい」


「でもね」


ハンナは、湯を注いだ。


「休み方ってのは、教えられて、身につくもんじゃないんだ」


私は、ハンナを見た。


「『こう休みなさい』って言われて休むのは、それも、結局、役目になっちまう。誰かの指示に従う、っていうね」


ハンナは、湯気の立つ器を、私の前に置いた。


「本当に休むってのは、誰の指示でもなく、自分で、休もうと思うことだ。それは、教えられない。自分で、気づくしかない」


私は、その言葉を、噛みしめた。


確かに、そうだった。


もし、ハンナが「こう休め」と教えていたら。


私は、その通りに休もうと、必死になっていただろう。


休むことすら、役目にしてしまっただろう。


ハンナは、それを、知っていた。


だから、教えなかった。


ただ、待っていた。


私が、自分で気づくのを。


「教えないのが、優しさ、ですか」


私は、訊いた。


「優しさ、ってほどのもんじゃないよ」


ハンナは、苦笑した。


「ただ、教えたって、無駄だと知ってるだけさ。痛い目を見て、自分でたどり着くしかない場所ってのが、あるんだ」


私は、頷いた。


「私、ずいぶん、回り道をした気がします」


「回り道?」


「最初の頃、何もしないでいるのが、怖くて。役に立とうとして、空回りして」


「それは、回り道じゃないよ」


ハンナは、言った。


「それも、ちゃんと、道だ。空回りしないと、気づけないこともある」


私は、自分が淹れた茶を、一口飲んだ。


苦くない、茶だった。


来た頃は、苦かった。


回り道をして、空回りして、少しずつ、苦くなくなった。


それは、誰かに教わったからではなかった。


自分で、淹れ続けたからだった。


「ハンナさん」


私は、言った。


「私、この里に来て、よかったです」


ハンナは、何も言わなかった。


ただ、ほんの少し、笑った。


そして、いつものように、湯を沸かし続けた。


教えない人。


何も指図しない人。


それでいて、いちばん多くを、与えてくれた人。


私は、そんなハンナを見ながら、思った。


いつか、私も。


誰かに、何も教えずに。


ただ、待ってあげられる人に、なれるだろうか。


次は、あんたの番。


ハンナの言葉が、胸の中で、静かに、響いていた。


何も教えないことが、いちばんの教えだった。


休み方は、教わって身につくものではない。


自分で気づくしかない。


だから、ハンナは、ただ待っていました。


エルシャが、自分でたどり着くのを。


「次は、あんたの番」


エルシャの中に、少しずつ、新しい役割の芽が、生まれ始めています。


それは、与える役目ではなく、ただ、待つ役割なのかもしれません。


読んでくださって、ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。