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デンサバ!  作者: 豚まん
第一章
7/10

ドキドキショッピング


 那由多川の西側に位置する夢ヶ丘西地区。北側は繁華街として有名だけどこっちはどちらかというと、もっとのどかな郊外の街と言った印象だ。土曜だし、さすがに人が多いわね。メイは歩きながら街を眺める。

 紫耀メイはこの夢西駅で待ち合わせをしていた。待ち合わせは十二時なのだが実は一時間も早くつき過ぎてしまう。メイはため息をつく。(どうやって時間を潰そうかしら。早くきてるなんて楽しみにしてるみたいじゃない)

 背負ったリュックから「濃いお茶」を出して飲む。渋みに喉が反応するのを我慢して飲み込む。メイは普段から制服しか着てこなかったから私服というものが殆どない。今まではそれで困った事もなかったのだ。トモダチ……柄にも無く呟いた。

「メイちゃーん!遅れてごめーん」

 やってきたあてなは春の装いでおしゃれなボーダーTシャツに黒スカートといういでたちだ。

「別に。今来たから」

 昨日の夜から探して、ようやく見つけたよそ行きのカーディガンと黒デニムという自分の格好が恥ずかしく思えてくる。

「メイちゃんスタイルすごーい」

 アテナが抱きついてきた。ふわふわのあてなが可愛らしい。

 って違うわよ!。スタイルなんて……大したことないのに。ただデンサバをやってきただけの私なんて。

 ◇

 夢西のメインストリートを二人で並んで歩いていく。片足でスキップしながら先をいくあてなに手を引かれながらメイも歩を進める。

 二人はとある店の前で立ち止まる。

「来たよ!デンサバショップ!」

 あてなははしゃぎながらくるくると頭を動かしている。

 そうなのだ。あてなと夢西に来た目的はこのデンサバショップだ。

 その日の前日、つまり金曜日の午後の事だ。

 いつものようにメイの机にあてながやって来る。

「メイちゃん!夢西にデンサバショップあるから行かない?」

「デンサバショップ?そんな市販の装備、実践で役立つとは思えない」

 デンサバショップ。素人向けの銃や、武器などを安い値段で売っている所詮レジャーショップと言った場所だ。真面目にデンサバやる気あるとは思えない。

「すごーい!黒猫社製CURO600だぁ。あそこのは北畑産業のメデューサもあるよ!」

 キラキラした目で武器を見つめるあてな。メイはそっと目を逸らす。(メデューサ……。あてなのエキドナも、私のケルベロスも……)

 結局あてなはライフボトルを何本かとグレネード弾を数発買っただけで店から出た。あてなには既にエキドナがあるし、そんなに幾つも武器を用意できるほど学生は裕福じゃない。メイは呆れながら隣を歩く。

「あー楽しかったあ」

「結局買わなかったじゃない」

「いーの」

 カフェテラスで会話をしているとメイの視界にとあるキッチンカーが目に入った。

 クレープ?苺味のクレープ。

 友達と出掛けてクレープを頬張る。なんていう想像をしてしまい首を振る。

「ん?メイちゃんどうしたの?」

「なんでもない」

 メイはすぐに目を逸らしてペットボトルのお茶を飲む。

 冷静になろうとキッチンカーから目を逸らす。

「はーい。あんして」

 友達同士と思われる学生達がおしゃれな服を着てクレープを食べさせ合っていた。

(うーまさか私浮いてる?)

 お腹が痛い。今はお茶なんか飲みたくない……

「メイちゃん。私忘れ物しちゃって。とり行って来るね。」

「私もいく」

「いいよ。すぐ終わるから。メイちゃんは待ってて」

 いつになく強い口調で言われてメイは椅子に座ってあてなを待つ。

 色々な事を思い出してしまう。

「瑠衣!勝ちたくないならやめて」

「うっメイちゃんごめんなさい。」

 また違う場所での思い出が蘇る。

「貴方達もデンサバは遊びじゃないから!」

「メイちゃんにはついていけない」

「颯ちゃんが可哀想。メイが強く当たるから」

 過去の記憶が溢れ出してくる。

 メイはテラスに座ったまま俯いていた。

 ◇

 ちゃん。メイちゃん。語りかけて来る声で目を覚ます。

「メイちゃん?」

 メイを心配そうに覗き込んでいるあてながいた。

「大丈夫」

 メイはそれだけ言うとあてなの手に袋が握られているのを見つけた。あの袋って……

「うん……」

 あてなは袋をメイの前に出す。

「クレープ一緒に食べよ!」

 そう言ってあてなは袋からクレープを二つ取り出した。苺味とチョコレート味だ。クレープはたっぷりとチョコといちごソースが乗っていてボリュームたっぷりといった見た目だ。キラキラ光るトッピングも相まって可愛らしい。

「はい」

 あてなからいちご味のクレープを渡された。クレープを一口食べてみる。甘いいちごの味がした。何故だが少ししょっぱい。

「メイちゃん一口ちょうだい」

 メイは黙ってクレープの口をつけていない部分を切り取ろうとするがあてなは顔を近づけて一口齧った。

「んーおいしー」

「あてな。行儀が悪いわ」

「えー」

 不貞腐れるあてな。なんだか可愛い。メイは顔を近づけてあてなのチョコレートクレープを一口小さく齧る。

「……お返し」

「メイちゃん……」

「何……」

「かっわいー」

「ちょっと抱き付かないでよ」

 あてなの全力ダイブに体が揺れる。恥ずかしいしみんな見てるし……。だけどなんだか温かい。カフェテラスではカップルや友達同士、様々な若者達で溢れかえっていた。

「ありがとう。あてな」

 メイは今度はしっかりと呟いた。

 ◇

 その日蒲生クララは夢西通りを歩いていた。おしゃれな繁華街もいいがたまにはこんな落ち着いた場所もいい。夢西地区には最近見つけたクララお気に入りのカフェがある。

「ふう」

 コーヒーの匂いが落ち着く。生徒会長として振る舞わなくてはいけない普段の立場を忘れさせてくれる。

 紫耀メイ……。あの方こそ長年求めていた完璧なお嬢様の姿だ。キリッとした横顔に優しく甘いセリフ、黒髪が似合うあんな方と一緒に仕事ができたらなんて幸せなんだろう。クララはうっとりしてしまう。

 デンサバ部との決戦は来週の月曜日に決まった。

「楽しみね」

 自信はある。何しろクララは理事長の娘でお嬢様なのだ。全国から腕利のデンサバ部OBやデンサバが趣味の暇人達をネットで募集したのだ。

 試合まで時間はあまりない。携帯を取り出してメッセージ画面をみる。(せっかくコーヒー飲んで落ち着いたのに)

 クララはふっと息をする。

「件名助けて。」

 恥ずかしさに震えながらメールを打っていく。

「悪い魔法使いに捕まっちゃった♡みんなの愛でクララを助けて〜〜」

 返信はすぐに来た。

「なぬ!クララ姫すぐ行きますぞ!」

 いやらしいヲタクなんて嫌い。だけど全てはメイ様を手に入れるため。(囚われのお姫様を助けるのは私よ)クララは拳を握る。

 夕方になり陽が落ちてきた。クララは夢西のストリートを歩いていた。今日一日でだいぶ準備が整って来た。あともう少し……。

 前から歩いてくる二人組に気づいた時クララは咄嗟に固まってしまう。

(あれは紫耀メイ様!と明星あてな!)

 慌てて歩道から離れたビルの隙間に隠れるクララ。

 メイ様とあてなは何やら親しげに話しながら歩いている。

「メイちゃーん」

「やめなさいあてな」

 ビルの隙間でクララは拳を握る。(クウ〜〜落ち着きなさいクララ。もうなんで私が隠れなきゃ行けないのよ!)

 メイとあてながいない事を確認したあとゆっくりと顔をしてみた。

 夕日が夢見が丘市内を照らし出して美しく反射している。

「メイ様のバカァ」

 ちょっとだけ小声で聞かれないようにつぶやいた。


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