魔月川瑠衣
あてながさくら部長とメイちゃんのところに行くと、真っ青な空に異様な物体が浮かんでいる。
「あれ何!」
その城はよく見ると水の様なものを放出しながら浮いていて……。
「久しぶりですね。みなさん。」
それが近づくにつれて氷で出来ている事がわかる。その上に立っているのは瑠衣師匠だ。
「瑠衣は四つの属性を操るから。」
メイちゃんがケルベロスを構える。更に氷を纏って、瑠衣師匠は城に取り込まれる様に消えちゃった。
「発射!」
さくら部長がサブマシンを空中要塞に向かって発射する。
「くそっ狙えない」
メイちゃんもケルベロスで何かを探ってる。あてなもエキドナに力を込める。
「きて。」
緑色の弾丸が発射された。あれだけ大きな標的なら、エキドナでも当たる!
爆発が起きる。軽い反応がする。
さくら部長の連射とメイちゃんの弾丸が一斉に炸裂。氷の城は爆風に包まれていく。
「やった?」
呟いたさくら部長。だんだんと煙幕が晴れる。
その中から宙に浮いた氷の宮殿がそのまま姿を現した。
そのバルコニーに当たる場所に瑠衣師匠は髪を靡かせながら真っ直ぐメイちゃんをみていた。
「残念です。」
そう言ってこっちを見る瑠衣師匠の目は、すごく冷たくて……。
氷の宮殿から伸びた氷柱のようなものが、城と切り離されてくるくると回り出した。
そして城を囲むように回っていた四つの氷柱は、それ自体も縦回転にドリルみたいに回り出す。
「『氷獄』凍てる刃……どう味わいますか?」
天空に浮く城の真下に集まったそのドリルから無数の霧状の何かが発射されて……。これは?あてなの腕に雪の刃が刺さっていた。それは手のひらサイズの手裏剣みたい。痛みは感じないけど、ライフゲージがどんどん削られてる!まさかあの霧状のもや一つ一つがこの手裏剣なの?
「気をつけてください!」
あてなが叫んだ時には目の前が真っ白でさくら部長のゲージが物凄い速さで削られてるのが伝わる。痛い。幻肢痛が発生した。幻肢痛……。メイちゃんが教えてくれたけど、一定確率でたまになるみたい。ってことは、あれだけの手裏剣を受けたら!足が切り裂かれたみたいに痛い。
さくら部長のゲージがゼロになった。
目の前が真っ白で確認はできないけど、今まで感じていたさくら部長の呼吸や、意識みたいなものが弱くなって感じなくなった。
ますます強くなる吹雪。痛いよ。霧状のナイフが恐ろしい速さであてなを削る。さくら部長……。いやだよ。そうだメイちゃんは?メイちゃんの方に意識を集める。
◇
紫耀メイの視界には真っ白な雪が映る。目を瞑れば視界は黒く染まった。そして光が見えた。光を追うように体をその場所に動かしていくと、殆どライフが減っていなかった。ケルベロスが導いてくれる。
目を閉じれば光のナビが映る。目を開けば、現実が見える。
メイは、ほぼ回避不可能の氷の刃の中にある僅かな隙間を縫って移動していた事実を改めて知った。
そのままビルの瓦礫の中に飛び込む。霧状のナイフは、壁を貫通はしないみたい。
さくら部長の呼吸が弱くなってロストしたのを感じた。あてなは上手くかわせた?あてなの方に集中しようとするけど、何かが、そのアクセスを拒否してるみたい。あてなのマナに上手く接続できない。
メイは息を吸い込むと、頭だけ顔を出す。ナイフが髪に触れた。そのまま目を閉じると光のナビが映る。その場所に合わせて顔を動かす。
あてなや周りを確認したいけど、目を開けたら瑠衣の攻撃を交わせない可能性が高い。光が消えた。メイは慌てて目を開けると、体が熱い。
青白い粒子が瑠衣の氷を飲み込むように放射状に広がってる。
その粒子は、体に触れるとパチンと焚き火が弾けたような音と、あったかい感触を感じた。
その粒子の中心にいるのはあてなだ。
メイはハッとしてケルベロスを構える。今しかない。瑠衣はバルコニーから、銀色のドアを開けて城に戻ろうとしている。
目を閉じて、引き金に手をかける。
暗闇の中に見えた、金色の光目掛けて、ゆっくり引き金を引いた。
青い流星のようなメイの弾丸がドアに手を掛けた瑠衣の胸を貫いた。
◇
あてなは暗い場所にいた。冷たい。手で触ると随分狭い場所にいる。ツルツルした鍾乳洞みたい。
そのまま進んでいくと、空気を感じた。冷たい水を含んだ風だ。
「あなたもここにきたのね。」
誰かがいた。暗くて分からないけど、綺麗な声。頭の中に映像が浮かぶ。白いワンピースに、夏の畳の匂い、そして病院の薄暗い廊下。
「あなたは誰?」
「知ってるはずよ。」
あてなに微笑み掛けた少女の背後に湖があり、そこから黒い竜が顔を出す。
「ひっ」
「大丈夫。夢でもあったでしょ。」
記憶の流れが緩やかになって、そこに夢の支流が混じる。
「私たちは姉妹みたいなものだから。でも気をつけて。私たちはあともう一人いる。禁断の……」
青白い炎に包まれたあてなが落ちていく氷の宮殿に気づいたのはその時だった。
◇
相沢夏はビルの中から現れたその少女を見つめる。真っ赤なポニーテールが揺れる。
「やってくれたやんか。お前、名前はなんていうんや?」
夏が答えると赤髪は少し笑いながら真っ直ぐ夏を見つめる。
「うちは八木萌火っちゅうもんや。」
そう言い終わらないうちにその髪がますます赤く輝きだし、周囲に陽炎がゆらめきだす。
熱い。夏は滴り落ちる汗や、体を殴りつけるかのような真っ赤な風を全身に受ける。やはりその原因は萌火だ。萌火の体は既に、オレンジ色に発光し、周囲のコンクリートが悲鳴をあげ出していた。
夏は走る。萌火から距離を取らなければ。走っても走っても熱風が追いかけてくる。それにリリーとの戦いで負った傷もまだ痛む。
だけどどうすればいい?あの熱風じゃ近づけねえし。
既に萌火を中心に真っ赤な太陽の様な光が現れてビルがその中でオレンジ色に変色していた。
夏の足に、痛みが走り出す。うまく走れない上に、蹴られたせいで重心も安定しない。正直手がない。よく考えろ。考えるんだ。あのレベルの技をずっと出せるわけがない。きっとどこかで限界が来る。それに、現状三対二。逃げ続ければいい。死なないこと。ますます後ろから迫る風を感じながら夏は走り続けた。
逃げて……逃げて。逃げる。逃げたくない?夏は一瞬浮かんだ考えを振り払う為にかぶりをふる。
その時一瞬で夏は自身の体が薄紫の炎に巻き付かれているのを理解した。さっきまでの萌火のオレンジ色の炎は紫炎に飲み込まれているみたいだ。
肉が焼ける音がしてきた。焦げ臭い鉄板の上を転げ回る。紫炎はステージの殆どを覆っていた。
敵の数が一人減って残り一人になる。
なんだ。あれは。
「『煉獄』痛みこそが舞踏なのです。」
あの声は魔月川瑠衣。あの冷たい声が体の中からいくつもの骨を揺らす。野郎、仲間ごと燃やした?
夏のライフがゼロになり、意識がだんだんなくなっていく。
◇
紫耀メイは体が熱さを覚える寸前に、目を閉じる。光のナビに従って、右斜め前に足を出して飛び込んだ。
さっきまで立っていた場所から、紫色の炎が蛇みたいに縄状に巻きつこうとしてる。
メイはあてなの方に目を向けた。
あてなの青色の粒子が、巻きつく紫色の炎から体を保護している。
巻きついた炎が広がり、あてなが紫色に燃え上がる。あてな!
メイは、あてなに手を伸ばそうとするけれど、今いる場所に違和感を覚える。目を閉じて光を確認。
今度は、後退しながら、ライフルを構えて発射した。
「瑠衣!」
弾丸は紫炎の中を走り回り瑠衣の肩を掠める。
瑠衣の肩は氷でできた鎧によって、保護されてる。瑠衣はよろめいた。あの弾丸を肩で受け止めたら流石の瑠衣でも効くはず。
「ふっメイちゃん。その程度ですか?」
よろめきながら片手で地面を支える瑠衣。
やはり、距離を詰めないと仕留めらないか。
あてなの方を見ると、紫色の炎は青い粒子によって消えていた。
「片方は、当たらず、もう片方は、絶対防御ですか。いいでしょう。」
その足元に黒い稲妻のようなものが走る。瑠衣が片方の手を地面に置いて跪く。地面から赤黒い雷が溢れてきた。
「メイちゃん……。この技は少々厄介ですよ。」
雷の先端を掴む瑠衣。
「『火雷』私の限界までアストラルの深淵へと近づいた技です。」
一発目の閃光が、あてな向かって放たれた。見えない。まるで刺さってから事実を認識したみたい。赤黒い稲妻が青い粒子を切り裂く。
メイは焼ける様な喉の痛みを感じる。これはあてなの痛み?赤黒い光に包まれるあてな。粒子は消えて、地面に転がっていた。
その服は帯電し、赤黒い火花を散らしていた。
「あてな!」
「無駄ですよ。『火雷』をまともに受けて立ち上がる人間はいません。次はメイちゃん……。」
瑠衣は倒れたあてなをみながら悲しそうに微笑んだ。
置いていかないで。
待って……強くなりたい。
これは、誰の感情?メイの体を伝わる振動。イメージが声になる。薄紫の背の低い少女とあてなそっくりの女の子。二人の影が交互になって……
邪魔よ。瑠衣。(これは私の声)
(メイちゃんがいたから……私は)
(置いていかないで!やだ。)
あてなが立ち上がってる?
瑠衣の手には雷の槍が握られメイを狙っている。
瑠衣はあてなに気づいていない。
「メイちゃん……私の全てを伝えますよ。」
立ち上がったあてなの体から放たれる青い光弾。
それは、意思とは無関係に暴れているように見えた。
「なっあてな……立ち上がったのですか……。私の全力を受けてなお立ち上がるというのですかっ」
瑠衣の顔に汗が滲んだ。あの頃の癖そのまま。負けそうな時に見せる怯えた顔。
槍投げの要領で、あてなに標的を変え、
『火雷』で青い光弾を相殺しようと放つ。
光弾は溶けなかった。雷を帯電させたまま瑠衣の胸に直撃した。
瑠衣の氷の鎧が紙のようにはだけていく。
「まだ……です。まだ……」
痛みに顔を歪ます瑠衣。
メイはゆっくりケルベロスを構えた。
「『氷機械』《ネフェリム》を修復…はっうっ」
直撃を受けた瑠衣は青白く燃え上がって、更に黒光りする稲妻が全身を這う。
「大丈夫。」
あてなの声?瑠衣の痛そうな表情が消えた。青い粒子が赤黒い雷に纏わりついて飲み込んでいく。瑠衣のHPだけが減っていくみたい。幻肢痛が消えた?
「痛みが消えたから何です。もう一度『火雷』を」
瑠衣のHPが残り僅かになる。瑠衣は再び手を地面に翳して雷を呼び寄せる。
「瑠衣……もう勝負ありよ。」
メイは目を閉じる。金色の光が一点を捉える。引き金を引く。
胸に直撃した。瑠衣が、魔月川瑠衣が頭から倒れ込む。
地面に頭を打ちつけそうになる前にメイは光の道を辿り、倒れ掛かる瑠衣を抱きしめた。
その瞬間。試合終了の合図と地鳴りのような歓声が響く。
「負けたのですね……。メイちゃん……結局私は超えられませんでした。」
瑠衣は……魔月川瑠衣は地面に目を移しながらそう言った。
胸が熱い。観客達の熱気が灼熱となって血に変わる。
「メイちゃん!勝ったんだよね!」
「あてな!うん。勝った……。」
あてなが抱きついてきた。久しぶりのハグ。お日様みたいな匂い。あてなの顔が輝いて,笑顔が咲き誇る。よかった。
本当に。
「ふっ違いますね。私は貴方達に負けたのですね」
そう言って笑う。
こうしてメイはあてなと抱き合い瑠衣と握手をした。




