風のキヲク
風が吹いている。夢ヶ丘を撫でるように、それはアスファルトの隙間から廃工場までを一瞬で駆け抜ける。千龍湖から吹き抜ける風も街を掠めるうちに様々な思いを受け止めて味わう。
悲しみ、離別、思い出、交差する風が空へ吸い込まれていく。
星の元へ、はるか輝く星に向かって風は吹く。煌めく光の中で一つの体験がこぼれ落ちた。それは少女の思い出……。
◇
明星あてなは中学に行くふりをして、公園に向かった。笑顔を作ったままの顔で学校とは反対の道を歩く。漫画、テニス、将棋、色んなものに熱中してその度にみんなを誘った。いつしか周りから相手にされなくなり、誰も話しかけてくれなくなった。
何か,熱くなりたい。けどきっとまた……。
そんな時公園のベンチで携帯を見る。動画を検索。紫耀メイ。それが最近見つけたあてなのお気に入りの選手。一目惚れだった。ホログラム銃で相手を撃ち抜く時の眼差し。かっこいい。デンサバやりたい。けど……きっとまた……。気持ちとは裏腹に体が熱い。この気持ちはきっと本物だ!今度こそ燃えれるんだ。
風が公園を通り過ぎる。公園の水飲み場の水面に風があたる。
池の水鳥が驚いて飛び立ち衝撃で,水面を揺らした。
風が今度は違う場所を通過する。思い出の記憶が風に混じりその時の思いを再生した。
◇
あてなは,夢ヶ丘商店街の古い街並みを歩いていた。高校に上がる前にせめて武器を見ておかなきゃ。夢ヶ丘商店街の中にある古い店の前を通った時、何かがざわざわする感覚をあてなは感じた。ここってデンサバショップというより、怪しい店?
お店の中に入ってみると、ホログラム用のコードが入ったカードが無造作に並べられていた。
「お嬢ちゃん何かお探し……」
出てきた白髪のお爺ちゃんはなぜかあてなを一目見るなり口を開けたまま固まってしまった。
「?」
「ああ、いや、な。」
お爺ちゃんが口ごもる。あてなはカードの束を色々見てみた。オセロット社製のハンドガン!あっちにはバズーカもあるけど流石に高いなあ。
誰?店の奥から誰かがこっちをみている。視線を感じて振り向いた時には誰もいなくて。店の奥は生活スペースになっているらしくて畳が見えている。その上にはテレビがつけっぱなしになっていて……。あてなのデバイスが熱く反応する。
「エ…キドナ」
その言葉を聞いたお爺ちゃんが不思議そうにあてなを見つめた。
「お嬢ちゃんどうしてそれを?」
「えっいや、あの今なんか声が聞こえて。」
お爺ちゃんはまたため息をついた。
「ちょっと待ってなさい」
戸棚の奥の生活スペースの方に入っていく。田舎の畳の匂いと夏の麦茶の匂いが混じった独特な風をあてなは感じた。
「これはわしの孫が使っていた武器じゃ。それは可愛らしい女の子でなあ。お嬢ちゃんに似てたんだよ。」
お爺ちゃんは天井を見ながらゆっくり話しだす。
お爺ちゃんには、高校生になる孫娘がいて、その子の応援をする為に、勉強したりデンサバに興味を持つようになったみたい。
「それで……その子は」
お爺ちゃんの目が細くなる。
「レイナは亡くなったよ。試合中の事故じゃった。」
「そんな」
「孫を奪ったデンサバを恨んだりもしたさ。だけど、思い出してしまうんじゃな。レイナの熱くなってる姿。病気がちじゃったあの子が初めてあんなに楽しそうに……。」
拳を握りしめている。
「結局わしもデンサバが好きじゃった。だからこうしてショップまで始めてしまってな。」
「お嬢ちゃん……。どうかわしの願い聞いてくれんか。」
お爺ちゃんはあてなの肩を掴むと涙を流す。うん。分かった。聞くよ、お爺ちゃん!
「この子を……エキドナを貰って欲しい」
風が吹いている。風は少女の思い出を血肉に変え、美しい星を目指す。
あてなの見る夢はどこまでも吹き抜けていった。エキドナを……。北畑工業に所属する、職人集団が作ったと言われる世界に何丁もない逸品。それを手にした時のキラキラした爆発。早く高校生になりたい!メイちゃんや全国のみんなと戦いたいよ。
翌朝あてなはなぜか涙が止まらなかった。手鏡で顔を確認しようとしてもまるで他人の顔みたいに見える。大丈夫……。




