黄昏センチメンタル
真っ暗な視点が揺れだす。
里香の視点から離れた、カメラは再びモニターを映す。あてなはその様子をじっと見ていた。
痛みを感じる。戦いたいんだ。
「勝者堕天高等学校!」
アナウンサーの高らかな宣言だけがやけに遠くにいるように聞こえた。
◇
試合が終わると天城院さくらは、市民会館に併設されている休憩所に向かう。羅刹館対堕天の試合を見たあと、気持ちが落ち着かなくてトイレに駆け込む。トイレは市民会館のデンサバ用の特設会場を出て、左側にあった。
女子トイレの入り口に誰かがいた。赤いツインテールが垂れ下がって、その子は唇を噛み締めていた。三好原里香。そう、きっと一人になりたくてここに来たのね。さくらはぎゅっと口を結ぶと引き返す。3年の夏、最後のアームズ杯。負けたらもう次がない最後の戦い。あてなやメイにここまで連れてきてもらったけど、
出れるだけで満足しちゃってた気持ちもあるけど……。やっぱりまだまだやりたい。終わりたくなんかない。
さくらはサイドテールに編まれた桜色の髪をキツく縛るとあてな達のいる場所に戻る。
◇
相沢夏は、興奮していた。強い奴がまだまだいる。あてなやメイ、さくらとまだまだ限界まで行きたい。全身から身体に力がみなぎって体を追い越しそうになる。夏がぼうっとしたまま会場を見渡していると、紫色のツインテールの女を見つけた。
「夏はおてんばね。いい、獲物を見つけたらまず落ち着くの。」
すうっと息を吸い込むように2年前の電華高校での部室が流れ込んできた。当時の彼女は長くしなやかな黒髪の先輩。憧れの人。一瞬会場で見かけたその女は髪型も、纏うオーラも変わってしまっているけど、間違いない龍円寺舞先輩だ。そう感じた時には夏は駆け出していた。
「舞先輩!」
観客席の人混みをかき分けて進む。メイの困ったような声が背後から聞こえたような気がした。
市民会館の駐車場まで来てしまった。夏は、注意深く辺りを見渡すが舞先輩はどこにもいなかった。
夕暮れの真っ赤な夕陽が目に入り込む。駐車場に停められている車、人混み,彼女はどこにもいない。夏はその場に立ち尽くしてしまった。さくらや後輩たちが夏を探して降りてくるのが見える。
そんな映像がまるでスローモーションの様に真っ赤に照らされていく。夏の記憶の中にある,夕暮れの校舎、練習に付き合ってくれた舞先輩。泣き虫なさくらとはよく喧嘩したっけ……
「夏!どうしたの。急にいなくなるなんて」
さくらの声かけに夏は拳を握りしめていつもと同じ声色を意識する。
「悪い、なんでもないや。ちょい外の空気吸いたくなってな。」
「そう……もうみんな心配してるんだから」
夏はそっと笑うとみんなに合流する。
真夏の夜の蒸し暑い空気がムワッと漂ってきた。真夏日が近づいている。
そんな色んな事を考えているとさくらが隣にきた。
「なんだよ。」
「夏が『大丈夫』って言う時は大丈夫じゃないでしょ」
メイやあてなに聞こえない様にさくらは、口に手を当てて囁く。まったく、さくらは鋭いな、昔から。(それに舞先輩のことならオレ達3年生の問題だ。)
「舞先輩を見た。かも知れない」
さくらは一緒口をぽかんと開けていだけど理解したのか、口を結んぶ。
「そう……。あの人なんで今更。」
さくらと夏の間にムワッとした風が吹いた。あてなはどこか遠い目をしているみたいでメイは、そんなあてなを見ている。
夏の暑さと迫り来る闇が夢ヶ丘を包んでいく。もうすぐ夜だ。
相沢夏は無理に口角を上げようとしたが、体は言うことを聞いてくれなかった




