堕天VS羅刹館
あてな?
誰かが名前を呼んでいる。遠くからさくら部長の声がした。試合はこれから始まる羅刹館対堕天高校のスタメン発表がされたところだった。第二回戦の帰りにさくら部長の提案で,次の対戦相手である、羅刹館対堕天高校の試合を観戦することになったんだっけ。あてなは顔をパンと両手で叩いた。瑠衣師匠の実践……
周りの観客たちは市民会館の特設モニターに映し出されるこの大会最大の山場に興奮しているみたいだった。その熱気に当てられて体が汗をかいていた。
体が熱い。熱いよ。隣のさくら部長やメイちゃんはいつもとかならなさそうなのに。オレンジ色の熱気はあてなの体の中に凄まれていく。
(そう。私はまだ戦いたい)もう一人の声が聞こえた。メイちゃんがこちらをみている。気づかれちゃう。ダメ。ダメだよ。
あてなは必死になってスクリーンに向かって顔を出してみているそぶりをする。集中しなきゃ。
スクリーンの中では、堕天のメンバーと羅刹館のメンバーが整列した。すごい気迫。堕天の八木萌火、因果真雪、桜庭リリーの登場。そして隣のメイちゃんが見つめる先にいるのは瑠衣師匠だ。さくら部長も熱心に目を向けている
◇
さくらの目は自然と試合から目が離せない。次に戦う相手。
試合開始の合図とともに、スクリーンの構図が森林地帯に変化した。鬱蒼と茂る木々の間を堕天、羅刹館それぞれの視点からライブ中継されている。三好原さんの視点映像に切り替わる。
三好原さんはエレナさんと合流して、堕天の一人桜庭リリーさんと応戦していた。
「さあそれではここで三好原さんの視点にアクセスしようか」
ライブ中継が変化していく。心電図のように、波打つ映像。冷たい液体が血管中を巡っていくみたい。
◇
三好原里香の視点の中に視界が同期する。里香は焦っていた。
(大丈夫よ。こんなとこで)
隣のエレナを確認すると、陣形を固めた。何人かでデコイやシールドを貼り、エレナの『ツングースカ砲』を連発する。この計画ならいける。
「発射確認」
「はい」
「『ツングースカ砲』発射」
エレナが陣から飛び出すと、斧を叩きつけた。圧倒的な破壊力で目の前の森林地帯が砕け散る。堕天メンバーはまだ姿を現さない。
いや……来た!堕天の筆頭格、魔月川瑠衣!
「一人で来るなんて舐めてるかしら!」
「いいえ?これは敬意です。」
瑠衣は両手を下げたまま倒れた木を跨ぐ。そのままゆっくり近づいてきた。
「どう言うつもり!」
「もう一度……撃ってください。私の胸目掛けて」
瑠衣は両手を胸に置くとそのままゆっくり足を止めた。
馬鹿にされてる。そんなもんじゃないくらい。三好原里香の握りしめた拳から汗が滴り落ちる。
「急いで!『ツングースカ砲』フルチャージ!早く!」
赤い髪が揺れる。エレナの白い肌も紅潮してるみたいに見える。
「着弾点確認!」
「はっはい」
「フルチャージリミッター解除」
「はい」
その間にも瑠衣は遠いところを見ているように見える。両手をクロスして空を見上げている。
早く!早くこの怪物を倒して!
「『ツングースカ砲』ファイア!」
隣のエレナの斧から冷たい冷気が充満して入る。飛び散るつららの破片、斧を振り上げるエレナ。魔月川瑠衣は胸を手に置いたまま。その瑠衣の胸に思い切りエレナの斧が突き刺さる!
「入った!」
つんざくような轟音。真っ白な気体が里香の目を覆ってしまう。何も見えない。爆発音が連発する。
里香が恐る恐る目を開けると巨大なクレーターが目の前に広がっていて。
瑠衣が、魔月川瑠衣が倒れていた。勝った……。デバイスを確認しようとしたとき、瑠衣の指先が動き出した。
「六割でした……。」
瑠衣は呟きながら片手を使い、膝立ちのような姿勢をとる。何が六割なの!
「私が耐えることのできる確率です。そして私は勝ちました。貴方達の全力でさえ届かなかったのです。」
瑠衣は息を切らせながら立ち上がる。もう一度やれば!
「エレナ!」
だめだ。エレナはすでに動けなくなってる。最大の決め技を耐えられた上に、フルチャージで放ったあとだ。心も……
「エレナ!下がって。私がやる」
瑠衣の胸には、氷のひびの入った氷の塊が、鎧のようにまとわりついている。そう……。確かやつは複数の属性を操るタイプ。わざと自身をエレナの攻撃と同じ氷にして中和したってわけね。
「ふざけるなあー」
里香の鎖鎌が届く前に瑠衣の後ろから、因果真雪、桜庭リリー、八木萌火が姿を表す。
「そういうことやな。『水蒸気爆天拳』」
里香は地面が近付く音、そしてその時のリアルな痛み。何かが折れる音が遠くから聞こえたような気がした。




