雨
アームズ杯の二回戦。会場入りしたのは、昼過ぎだった。あてなはほっぺたを叩く。
「今日勝てば三回戦だよ!」
「ええ。絶対負けられないわね。」
さくら部長も頷く。メイちゃんはこっちを見て何かいいたそうに見つめている。
空は曇り。どんよりとした生ぬるい風が吹いていた。
「さあ始まるわよ。」
二回戦は学校を模したステージだった。夢西の選手達はもう散らばっているのかあたりにはメイちゃん、夏先輩、さくら部長の姿しかない。
「いい。相手は気報手持ちよ。固まって動きましょ」
あてな達がいるのはホログラムで再現された体育館。今回も前半と後半に分かれて戦う。
夏先輩が体育館のドアを開け、安全を確認すると、手招きの合図をした。サブマシンガンを抱えたさくら部長とメイちゃんが後に続く。あてなは最後に体育館から出た。空は相変わらず曇り。
「おかしいわね。」
「ああ」
夏先輩とさくら部長が話している。時間は既に前半の十五分が経過していた。三十分のうち半分が過ぎたにも関わらず、敵と遭遇しない。あてなの足が地面からふわふわ浮いている様な不思議な感覚を覚える。ふわふわしてる?そんな場合じゃないのに。さくら部長と夏先輩の最後の夏!胸の動悸が早い。時間は前半の最後五分前だった。
「パァン!」
何処かで銃声がした。さくら部長が倒れる。場所はあてな達がいる南校舎と北校舎の間にある渡り廊下。
「さくら部長!」
あてなが駆け寄ると夏先輩が静止する。
「行くな!敵はまだ狙ってる。」
さくら部長のライフゲージはまだ半分ほど残っていた。
「メイ!敵を狙えるか?」
夏先輩の声でメイちゃんがケルベロスを放つ。
弾丸は渡り廊下から,上に飛び,南校舎三階の窓を突き破る。
「外した」
敵の影が消えた。
「やばいな。」
夏先輩が呟いた時北校舎から何かが投げ込まれた。
「煙幕!」
手負のさくら部長を庇う形で肩を寄せ合うメイちゃんと夏先輩。その光景を確認するのがやっとだ。視界はすぐに見えなくなる。あてなは動けない。(前が見えない!どうしたらいい!また足手纏いはやだよ。)
エキドナを構える銃撃戦の音が聞こえる。
「そこまで!」
アナウンスが流れて,前半終了の合図がした。煙幕が晴れると夏先輩とさくら部長が倒れていた。
◇
「ナイス!みみりん」
初瀬みみはそう言って肩を叩いてきた仲間の声で現実に戻る。
公立の夢西が勝つにはこれしかないと言う程に順調だった。
みみは薄緑の長い髪が何かをさっきした様に逆立つ様な感覚を覚えていた。
「ありがと、なの」
アストラル気流は前半開始時点では、体育館側から流れていた。位置的には電華有利とみた夢西チームはあえて動かずに戦闘を避ける。その後気流の変化を読みながら気流を背にする形で、マナの上限や能力を引き出し,敵選手二人を戦闘不能にした。だけど……
「何くらい顔してんのよ。みみりん」
「別に……なの」
不安。あのスナイパー?。確かに弾は外したが、気流の流れが乱れているあの位置から後一歩で夢西の仲間の頭をかするところだった。二発目……もう一度発射したら当てられる。みみは直感した。でも不安の種はそれだけ?分からない。みみは胸騒ぎを覚えながら後半へと向かう。
夢西選手達が再び学校に飛ばされると、空は更に黒く染まり、雨雲が近づいているのをみみは感じた。
「嵐が……くる……なの」
みみはつぶやいた。
◇
あてなは走る。前にいるメイちゃんから自然に距離が開いているのを感じた。
「あてな!ついてきて。離れちゃダメ。」
メイちゃんが手招きする。雨が降ってきた。あてなは空を見上げてみる。真っ黒な雲から降り頻る雨。潮風の香り、一羽の鳥が高く飛んでいく。
「あてな!」
一瞬前が見えなくなる。煙幕が目前に広がる。あてなははしり出した。(あれ、なんでメイちゃんと反対方向に走ってきちゃったんだろ)
煙幕が晴れた時あてなは一人だった。場所を確認する。早く。早くしなきゃ。メイちゃんが敵を片付けちゃ……。違う!最後の夏!みんなの!
学校の北校舎裏だった。(来る)
敵の弾丸が北校舎から発射された。(なんで私……喜んでる?)
弾丸を受けるあてな。雨が激しく校舎にあたり、様々な角度からあてなを濡らしていく。
水たまりの中のあてなが怪しく微笑む。(力が欲しい?)
あてなに弾丸が当たる。ライフゲージがまた減っていく。引きつけなきゃ。あてなが笑う。
水たまりのあてなが不安そうに泣きそうな顔をしていた。
空から雷鳴が轟いてきた。
「我ここにアカーシャの記憶に接見せし。血を求めん者、深き者……暗黒の巫女。母なる竜の雷にて敵を滅さん。」
水たまりの……。あてなの……。どちらのあてながそう叫んだのか。あてなは湧き上がる水流に飲まれる様に口を動かした。
「『黒の波動』」
あてなの体を雨が包んでいく。
敵の弾丸は真っ二つに千切れてバラバラになった。ライフゲージが二つ消えた。やった!倒した!
あてなの口角が上がる。これで同点。メイちゃんは?あてなは気づいた。メイちゃんの事忘れてたなんて。
空は嘘の様に晴れ渡り、敵はあっさりと倒された。最初の様な連携もなくただ震えてるみたいだった。
「メイちゃーん。勝ったよ。私倒したんだ。強くなった!」
「あてな……」
メイちゃんはうなづいたけどあてなはその胸に飛び込むことはできなかった。
ホログラムで出来た会場が消えて元の市民会館に戻る。
「あてな!何が起こったのか分からないけど、大丈夫?」
「地面が揺れた気がした。何が起きたんだ。」
「分からないけど、私,必殺技みたいなやつをゲットしました!」
あてなはいつものスマイルで微笑む。
「そうなのね。まあとりあえず勝ててよかった。」
さくら部長や夏先輩とも再会して電華高校は二回戦を突破できた。
メイちゃんも近づいてきたけどあてなは息を呑んだ。
「大丈夫だから。」
そう言って笑う。
◇
夢ヶ丘沖付近を飛ぶヘリコプター。キャノピーに映る運転手から飲み物を受けとる女。ヘリの荷物置き場には赤いデバイスがいくつか重なっていて、女の腕にも牙の様なデザインを施した真っ赤なデバイスが輝いていた。
真っ白な肌に血の様な赤い目を持つ女は胸騒ぎを感じる(感じる……わ。)情報は先に潜伏させていた部下から、聞いていたがいつものガセではない。女は飲み物を飲む。口の中で温かい感触を感じる。液体が喉を流れて体に落ちていくのを感じた。
しばらくヘリは進んでいく。女は荒れ狂う海の中で一つの確信を抱いていた。
この感じ。嵐の中で揺れるヘリの中窓を開けて女は風を感じる。
「ヴァイパーさん。窓!閉めて」
ヴァイパー。そう呼ばれた女は、窓を開けたまま、風を自分の中に取り入れる。
「間違いないわ。」
「どうしたんです!」
いる。確実に。ヴァイパーは揺れるヘリの中で、窓から顔を目一杯出して息を吸い込む。
「私と同じ……禁忌の潜在能力」
(フフフ)ヴァイパーは笑う。雨が口の中で弾ける。感じるわ。孤独、恐怖。ヴァイパーは首から下がるネックレスを握りしめると微笑んだ。
「カシム……。やっとみつけた……私の。私達の『牙』」
仲間の少女はその微笑みを見て、しばらく固まっていたがすぐに真面目なモードに戻りヴァイパーの手を掴む。
「ヴァイパーさん。気をつけてください!落ちたら死にますよ。」
雨の音で少女が何を言っているのかあまりよく聞き取れない。
少女がヘリに押し込もうとするが、ヴァイパーは窓を開けたまま荒れ狂う海を見つめていた。
ヘリは嵐の中を夢ヶ丘に向かって海上を進んでいく。




