不穏の二回戦
電華高校の勝利の知らせがテレビに映し出された。女は何気なくつけてしまった事に苛つきながらも目が離せない。古びたボロアパートの一室。女はため息をつく。紫色に染めた髪、肩にかかって煩わしい。
「むかつく……」
独り言を言うと近くにあったリモコンでテレビを消した。
天城院さくらと相沢夏の活躍により電華高校一回戦突破!アナウンサーの言葉が頭にこびりつく。その時、けたたましく携帯が鳴り響いた。
「舞ちゃん〜〜仕事だよ。あれとあれの受け取り場所送るね。」
「あーはいはい。了解ね。」
舞は適当に返事をした。
「どしたん?嫌なことあった?」
チッ舞は舌打ちする。
「そんな時はあれだよ。でも最近『デモノマンシー』や『アロペシー』は規制が厳しいからね。舞ちゃんも気をつけてね」
「分かってるわよ。」
舞は、携帯を切るとデバイスから銃をセッティングした。
赤く輝くホログラム銃をセットするといくつかのカードをバッグに入れて、アパートの鍵を閉める。
◇
「電華の勝利を祝ってー乾杯!」
あてな達は、カラオケボックスに来ていた。サクラ先輩と夏先輩はオレンジジュースを、あてなは炭酸を、メイちゃんはお茶を飲んでいる。
「かんぱーい」
「さあ次は誰が歌うんだ?」
夏先輩がソウルをこめた歌声を披露しながら言った。あてなはカラオケボックスの窓に映る自分の顔を見ないように顔を背けた。
「誰か歌いたいやついないのか?」
夏先輩はメイちゃんの方を見た。
「う、歌わないから!」
メイちゃんはクビを真横に向けた。
透明なコップに映る、あてなの輪郭は歪んでいて、まるで夢の中でみたあの子みたい。(さあどうする?)コップの影が微笑む。
あてなの中に黒い……何かが顔を出そうとしていた。
「私歌います!」
呼吸をひとつすると、紛らわすように歌った。あてなは人気ミュージシャンの曲を大声で歌う。
「イェーイ」
夏先輩が乗ってくれる。
「街角には〜薄汚れた野良猫が〜」
声を枯らして歌うあてなと小さくハミングするメイちゃん。
メイちゃんの透き通るような声を聞いていると心が落ち着く。
「大丈夫?」
メイちゃんが声をかける。
「うん。大丈夫」
あてなはVサインをして笑う。
さくら部長が、ドアを開けてカルピスを持ってきた。
「さあそろそろ次の作戦会議よ。」
夢ヶ丘西対カザミ国際の試合は夢ヶ丘西の勝利に終わった。
よって二回戦は夢ヶ丘西ということになる。
夢西との第二試合はだいたい一週間後。さくら先輩が言うには、夢西には『気報手』と呼ばれるポジションがいて、かなり昔ながらのスタイルなんだとか。
「さくら先輩、気報手ってなんですか?」
さくら先輩は呆れつつもコップを置くとあてなの席の前に座った。メイちゃんもこっちを見て何か言おうとして「気」って呟いたけどさきにさくら先輩が、喋り始める。メイちゃんは横を向いてしまう。
「気報手ってのはアストラルの流れを読むポジションよ。マナはアストラル気流の流れの影響を受けるけど、気報手はその流れを読むの。昔はどこのチームにも気報手がいたんだけど。」
「へえー。すごいなあ。でも堕天とか羅刹館には気報手いなかった気がする。」
「ええ。そうね。今は流行ってないからかしら」
さくら先輩はそういうとカルピスをちびちび飲む。さくら先輩は困ったようにメイちゃんの方を見た。
「気報手は才能に影響される上に高校レベルでは、そこまで能力を発揮できない事が多い。だからフィジカル重視の強豪校はアタッカー四人で押した方が強いってなってるのよ。」
メイちゃんは早口で捲し立てる。さくら先輩はメイちゃんにウインクした。
「すいませーん」
突然ドアが開き、店員が頼んでいたスナックを持ってきた。
「じゃあそろそろお暇しましょうか」
あてな達はスナックを食べながら、話はそろそろ解散しようかという流れになっていく。
あてなが何気なく取り出したスマホに新着の動画があがっていて。
「みてみて。羅刹館、三好原さんの活躍で一回戦突破だって。」
すごい。これでおそらく三回戦で瑠衣師匠の堕天と当たるはず。
その時動画が止まって短い動画が始まった。
「夢ヶ丘レックス!入団募集」
地元独立リーグの宣伝動画。その看板選手としてしゃべっているのは、長い黒髪に整った容姿。隣にいるメイちゃんそっくりだけど、目元は少し柔らかい。
メイちゃんをエネルギッシュにしたような女の子。
「それ。お姉ちゃん。」
メイちゃんは言った。紫耀ありさ。現在独立リーグ『夢ヶ丘レックス』のエースで、ドラフト候補。
「すごい!」
夏先輩や、みんなが覗きこむとメイちゃんは窓を見ながら少し笑ってた。
◇
「久しぶり!まさかメイちゃんから電話してくれるなんて」
その日の夜、メイは寝巻きに着替えながら何となく姉の電話の番号をプッシュしようとした。何回目かのチャレンジの後久しぶりに姉の朗らかな声が聞こえてくる。
「デンサバ始めたんだって?聞いたよ。」
「うん。」
「メイちゃん凄いもんね。でも私だって今年こそプロになるから!お互い頑張ろうね。」
メイはベッドの上で仰向けになりながら電話に向かって答える
「お姉ちゃん。私プロ行かないよ。」
姉は驚いていた。でもやっと言えた。メイは少し安堵する。
「えっデンサバ復活したのにプロ目指さないの?」
「うん。今はただデンサバがしたいんだ。お姉ちゃんはプロになって。私は先の事は考えたくない。」
姉はどんな反応をするのか。今までこんな事言えなかった。プロを目指してる姉の前で,自分はどんな気持ちで接すればいい?でも今は違う。みんながいる。デンサバが楽しい。それは本当の気持ちだ。
「そっか……」
メイは体が硬くなる。
「もったいないなー。メイちゃん私より上手いのに」
姉はけろっと笑いながら自虐した。
「分かった。でも私は納得できないかも。納得はできないけど理解はしたよ。ごめん……やっぱ私は,才能があるなら上を目指すべきだと思う。それだけは……私にもプロを目指すプライドがあるから。ごめん。」
姉との話は並行線だった。でも今までとは違う。姉と会話できた。気持ちを伝えて同じ場所に立てた。それだけで満足だった。
「そうだよね。くまちゃん」
最近名前をつけたぬいぐるみを抱きしめて匂いを嗅ぐ。夏の夜の蛍が探す甘い蜜のような不思議な匂いがした。
窓を開けて風を感じる。夢ヶ丘の夜風が心地いい。(私強くなれたかな。)
◇
「強くなりたい!」
あてなは城のバルコニーへと続く階段を駆け上がっていく。
(また負けちゃった!)(またまたまたまた)みんなの前で嘘をついてる自分が嫌になる。
緑色に輝く月が緑色の海を照らしていた。階段をひたすら走る。もう少しでバルコニーへ辿り着く。城は緑色の海の中に浮かんでるみたいだった。
「あてな。私は強いよ。」
もう一人の影が城のバルコニーの外から声をかける。影は白い仮面をつけている。仮面の顔がメイちゃんになったり、夏先輩や,さくら先輩の顔になる。
「外しちゃいなよ。」
影は仮面を外す。あてなは目を離せない。その顔はやはりあてな自身だ。
緑色の海の中から何かが蠢く。
城を取り囲むような巨大な生き物がいた。長い首と燃えるような目を持つ怪獣。その頭の上に影は立っていた。
城に巻き付く巨大な怪物。緑色の海。緑色の月。目が眩む。否定しなきゃ。でも逆らえない。夢だから?夢だから本当の自分じゃないだけ?
城のバルコニーの窓から,巨大な蛇の頭が見えた。
「私は力が欲しい。私は特別なの。だってこんな夢誰もみないでしょ?メイちゃんより強いの。誰よりも」
視点がぐらつく。黒い風が体に巻き付く。
(痛いよ。)




