始まる。夏!
夢の中であてなは、城塞の上に立っていた。(ここは?)
鉄で出来た大砲や、投石器が置かれている。やだ。思い出したくないのに。
昔、読んだお伽話に出てくるようなお城だ。城のバルコニーからは,緑色をした海があたり一面に広がっていて。空は燃えるみたいな夕焼けがあてなを照り尽くす。
「そう。わたしは力を求めてる」
お城から見える、空の中にあてなが浮いていた。違う。あてなは自分だ。もう一人のあてなだった。彼女は,バルコニーにいるあてなから見て真正面、緑色の海の上に浮遊していた。
夕映の中を何かが飛んでいる。
あれは?恐竜?小さな頃に、いとなちゃんから見せてもらった図鑑に載ってた。確か翼竜とか言うやつだ。
もう一人のあてなはニヤリと笑う。(何する気?)
大砲から弾が発射された。音はあまりしなくて、「ボヨン」と水中で濁った音がしただけだった。
弾は翼竜の腹部に着弾した。
鉄で出来た嘴が割れて中からネジが飛び出してきた。翼竜はオイルを垂れ流しながら緑色の海に沈んでいく。
「ふふ。力ってすごいよね。何でも出来ちゃう。あてな、欲しいでしょ」
息が詰まる。こんなの欲しくなんかないよ。
「いらないよ!こんなのわたしじゃない!」
もう一人は,口角を引き上げる。
「私ってわがままなんだよ。そして誰も信頼できない……」
(違うよ!わたしは,やっとみんなと一緒に戦うのが嬉しいだけ。)
「じゃあこの城は何?わたしでありおまえの願望そのもの。」
大きなお城だ。あの力があれば……。違うよ。
「素直になりなよ。あてな。あなたは,必ず私を求める。」
背を向けた。こんなのダメだよ。何だかうすらざむい。それが間違っている事をあてなは直感した。
あてなは夢の内容を思い出す。
このドアを開けたら部室だ。
両手でパチンと、頬を叩くと勢いよくドアを開けた。
◇
その日の部室にて、あてなは緊張の表情をしていた。隣にはメイちゃん、夏先輩がスマホの画面に釘付けになっている。
スマホには,アームズ杯の組み合わせ抽選会の様子が映っていた。
「さくら部長!頑張ってください」
スマホの中のさくら部長は硬い表情をしている。
あてなは昨日の夢を忘れようと笑顔を作って笑おうとした。
「あてな大丈夫?」
隣にいたメイちゃんに肩を叩かれた。
あてなは深呼吸する。大丈夫。
「うん!大丈夫だよ」
スマホを覗き込むと、中にいるさくら部長は,硬い表情のまま電華高校のプラカードを握りしめている。
◇
天城院さくらは緊張していた。
大会の組み合わせ抽選会が始まって十分ほどたっている。まだ電華高校は呼ばれていない。
隣には羅刹館三好原、堕天魔月川瑠衣と錚々たる面々。せめてしっかりしなきゃ
「それでは堕天高校、くじを引いてください」
アナウンスと共に、魔月川瑠衣が鋭い眼光を光らせる。緊張が強くなる。
「3番!何と堕天は羅刹館と同じAブロックに!」
その瞬間地響きのような歓声が上がる。次だ。Aブロック以外……
さくらは震える手でくじを引いた。ここで一生分の運を使ってもいい。少しでもみんなといたい。
さくらが引いたのは,Aと書かれたくじで,会場は,前の話題で持ちきりだった。やっちゃった。
◇
「はーい私、まちぱんの『みんなのデンサバ』始まりますよ!何とですね、今回は優勝候補『堕天高校』に来ております!。過去大会で三度の全国優勝、二度の準優勝を誇る名門です!ではキャプテンの魔月川さん,チーム紹介お願いします!」
電華高校の食堂テレビにあてな達は集まっていた。隣のメイちゃんは食い入るようにテレビに見入っている。
「はい。私が堕天高校のキャプテン魔月川瑠衣です。」
テレビの中の人物の声が聞こえる。瑠衣師匠だ。師匠……いつもより声が小さいような。
「瑠衣さん。落ち着いて」
「せやで、リラックスせえや。」
隣の二人はチャチャを入れると瑠衣師匠はキリッとした顔で睨む。
「さっさすがですね!迫力あります。魔月川キャプテン!さてさて聞くところによると、魔月川キャプテンは、アイドルが大好きだとか!噂はほんとなんですか?キャプテン」
瑠衣師匠は、氷のような顔をして隣の女の子を睨みつけた。
「誤解ですよ。アイドルの皆さんのパフォーマンスは、デンサバにも活かせると思って、研究していたところなのです。」
「あれま、うちが見たハートポーズも、何らかのパフォーマンスちゅうわけかいな。さっすがやな」
瑠衣師匠の顔に青い筋が見えた。師匠、かっわいいなあ。隣のメイちゃんが心配そうに見つめている。
「あなた達,テレビで私が手を出せないと思って、普段の仕返しですか!あとで覚えて」
「ということで堕天高校から中継でした!最後に一言ください、瑠衣キャプテン」
瑠衣師匠は、すうっと息をはく。冷たい空気に一瞬で、周りが凍りついたように見えた。
「私には勝ちたい人がいます。憧れて来た人がいます。今回の夏が、私と彼女の因縁の終着点になるでしょう。全てを賭けて夏をとります。」
テレビが切り替わり、隣のメイちゃんはテレビから目を逸らさずに見つめていた。




