それぞれのアームズ杯
「さあ今年もこの季節が始まります!夏のアームズ杯!」
テレビの中では、アナウンサーが仕切りに熱く叫んでいた。
明星いとなは、リビングにだらりとよたれかかりながら、棒付きのアイスを舐めていた。
「お姉ちゃん!でんさばやってるよ」
「うん!でんさばだ!」
お姉ちゃんの元気がない。いつも見てればそれくらいはわかる。無駄に張り切るのはから元気だ。
いとなは気づかないふりをした。番組が悪かった?だけど今更変えるのもわざとらしい。
「という事でですね。早速夢見ヶ丘テレビ、通称ゆめテレがお送りする企画!『みんなのでんさば』が始まりますよ!」
テレビは続く。
「今でんさばは、大流行ですが、昨今の少子化の影響もあり,一部の強豪校以外では部員不足に悩んでいるところも少なくありません。」
テレビは、山間部の校舎を捉えた。アナウンサーが映り込む。
「という事でですね。私、柏原まちこと、まちぱんの応援企画!みんなのでんさば始まります!。」
アナウンサーは、鼻息荒く話したてる。
いとなは、アイスが半分溶けているのを感じて舌で舐めとった。
「この企画はですね。夢見ヶ丘市内の学校にお邪魔して、エールを送っちゃおうという企画なんです!」
隣に少女が映り込む。おさげの地味な感じの子だ。
「今回紹介する二山高校は、部員二人しかいなくて、隣の三山高校と連合チームを組んでの参加となりますが、キャプテンの山田花さん、意気込みを」
おさげが部員の苦労や、連合チームならではの絆をアピールする。ありがちな内容だ。いとなはアイスを舐めつつ、タイミングを伺う。
「お姉ちゃん。暑いから部屋で勉強してくるー」
さりげなく席を立ち、自分の部屋に戻った。
こんな時わざとらしく、励ますほど自分は馬鹿じゃない。姉妹の間に流れた微妙な空気に気づかないふりをした。
いとなは部屋に戻ると、勉強机に座る。姉の無理した顔は今までも見てきた。クラスに溶け込めなかったり、例の熱中症で周りを振り回したりして孤立したり。
「お姉ちゃん……」
いとなは持ってきてしまったアイスの棒を眺める。『当たり!』とデカデカと木の棒に描かれていた。いとなは、ゴミ箱に向かって乱暴に放り投げた。
◇
電華高校の生徒会室に繋がる廊下を一人の少女が歩いていた。
背は少し高めで、三つ編みにメガネという目立たない格好の少女、河原晶穂は生徒会副会長であり,会長である、蒲生くららの秘書でもあった。
きちんと三回のノックをする。大き過ぎず、かといって自身なさげでもない。晶穂は、自然にこのようなノックができるようになっていた。
「晶穂ね。入りなさい」
蒲生会長の声が答えた。晶穂は生徒会室に足を踏み入れる。
生徒会室には、様々なコレクションが所狭しと置かれている。
アイドル歌手や、俳優グッズの横にゲーム機、フィギア。全部会長の私物だ。
「みんな揃ったわね。」
会長が勢いよく立ち上がると、椅子が音を立てて後退りした。
「これより生徒会による、デンサバ同好会構想の会議を始めるわ!」
会長は、金色に輝くロールされた髪を、振り回す勢いで叫んだ。会長の突然の提案に,生徒会の役員から疑問が入るまで、五秒前。
「会長。確か会長はでんさばが好きではなかったという認識でしたが?」
蒲生会長は、待ってましたとばかりに、手を差し出す。晶穂は、すかさずマイクを渡すと同時に、ホワイトボードに写真やら画像を貼り付ける。
「いい?確かに私はでんさばが大っ嫌いよ。しかーし。」
ここで、スマートフォンからアプリを取り出して,有名な映画の演説シーンの音楽を再生。
「私は考えた。にっくきデンサバ部に地獄の苦しみを与え,私のメイ様と可愛いエリザベスを取り戻せるかを」
音楽が佳境を迎える。会長がこちらを横目で見てウインクをした。よくやったの合図だ。
「そうしてようやくわかったわ。奴らの一番得意な競技、すなわちデンサバで勝つのが一番だと」
それに合わせて、晶穂はホワイトボードの資料のコピーを配る。
「第一次制圧戦では奇しくも、我が下僕達で構成した部隊は敗北したわ。そうねあれはひどい戦いだった」
会長の話がズレる前にカンペで注意。
「そこで!部活に変わる新たな生徒会指導の同好会を立ち上げ、今度は、私自らが出場することにしたわ!見なさい。長い伝統を持つデンサバ部が、できたばかりの同好会に負けて泣く姿が目に浮かぶようね。おほほほほ!待ってなさい。愛しのメイ様とエリザベス!」
小さな体を目いっぱい伸ばして高笑いする会長。
「分かりました。ですが予算の方は?デンサバ経験者の確保の問題などは?」
「大丈夫よ。予算なら私の財布から出るから」
蒲生理事長……おいたわしい。
理事長に同情する。周りの皆も晶穂と同じような反応に見えた。
「早速、夏休みは特訓よ!」
晶穂はすかさず手を挙げる。
「晶穂が手を挙げるなんて珍しいわね。」
「夏休みは行きません。プライベートですから。」
晶穂はそう言って着席。
「うがっそれ言われると返せないわね」
蒲生会長は,何か言いたげに唇を噛む。
チャイムがなると同時に席を立ち,時間きっかりに,生徒会室から退出する。生徒会副会長としての役割を完璧にこなした。
晶穂は,メガネの縁をなぞって、位置を調整すると教室へと戻っていくのだった。




