雨雲
「勝ったよ!」
あてなはメイに駆け寄る。
「あてな。みんな大丈夫だった?」
「うん。」
倒れている三好原さんにも駆け寄るあてな。
「大丈夫ですか?」
「ふっふふ。この三好原里香がなぜ恐れられているか知ってる?」
固まるあてな。夏先輩がナイフを構える。
「それはね。マムシよりもしつこいからよ!覚えてなさい。ライバルとして夏のアームズ杯で決着をつけてやる。紫耀メイ!」
そう言って倒れたエレナさんを抱えて他の部員と部屋を出て行ってしまった。
そうなんだよ。あてなはおでこに手を当てる。
(私また負けてばっかり。強くなりたい!もっと。もっと。もっと!)
結局自分はいつもメイちゃんに助けてもらってばかりで。
喜ぶ部員たちの間になぜか素直に喜べない自分がいる。そんな自分に気づくと嫌になる。
(なんでだろ。今までなら勝って嬉しかっただけなのに。こんな気持ちになるなんて……)
◇
ジュース。デンサバ部のみんなに買って行こう。なんていうのはいいわけだ。少しだけ、一人になりたかった。あてなはメイちゃん、さくら部長、夏先輩の分のジュースを選ぶ。頭がぼうっとしてくる中でとりあえずオレンジジュース、メイちゃんには何にしよう。自販機のそばには窓があり、窓を何気なく見る。
旅館から少し離れた場所にある、海が見えた。あれだけ遊んだ場所がやけに遠く見える。
海鳥が飛んでいる。二匹の海鳥は一匹がフラフラと不安気に弧を描いて飛んでいた。
「お嬢さん。」
不意に話しかけられて振り返るあてな。
「あ。ごめんなさい!自販機使います?」
「いいや。海が見たくてね」
お婆ちゃんは白髪で、曲がった鉤鼻をしていた。宿のお客さん?旅館だし、他のお客さんもいるんだよね。
「すみません。どきます。」
「すまんね。久しぶりに海に来たもんでねぇ。」
あてなはジュース缶を持ってみんなの所に戻ろうと、廊下を引き返す。
「お嬢さん。『黒の衝動』に気をつけな。」
え?あてなが振り返った先には誰もいなくて。黒?なんのこと?窓に映った自分が笑っている気がした。間違いだよ。全部!
窓には雨雲が近づいて、黒い海が遠くに広がっている。




