紫耀メイ
ここは……。紫耀メイは見慣れた場所に立っていた。
足元に赤黒いゼリーの様な物質が散らばっている。もう大丈夫なんだ!
メイが一歩足を踏み出すと、ゼリーは粘着性を失い干からびていく。
メイは顔を見上げた。赤黒い湖。夢で見た湖だ。
呼んでいる……その導きのまま、海岸線を歩いていくと、赤黒いゼリーが一つの場所に固まっているのを見つける。
「酷い匂い」
ゼリーは悪臭を放っている。ゼリーが変化していくのを見つめるメイ。
ゼリーはハエトリソウを思わせる植物みたいな形に変わっていく。赤黒い植物はその首をメイに向けて口を開く。
メイは空を見上げてみる。夜空にはあの時と同じ様な美しい星空が広がっていた。銃を取り出したメイ。
「ケルベロス!」
北畑工業のケルベロス。あてなのエキドナと同じシリーズ。そして北畑工業の職人達が作った武器には魂が宿ると信じられている。
メイに向かって口を開けるハエトリソウ。その頭が吹き飛んだ。
「懐かしい感じ。」
メイの的確なスナイプが確実に頭を撃ち抜いた。
頭を撃ち抜かれたハエトリソウの様な怪物は再び姿を変える。
四本の足にライオンの様な頭の怪物。その尾には蛇の様な頭が鎌首をもたげている。
獣が動く。その一瞬をメイは完璧なタイミングで交わし、獣の背後から後頭部に一発打ち込む。
獣は倒れた。胸がざわつく。メイは予感している。ここからが本番なんだ。大丈夫……もう逃げないから。メイは右手を強く胸に当てて唱える。
獣の残骸が一つに集まる。赤黒い液体が徐々に固まり、それは人の形になっていく。
あれは……間違いない。(私だ)メイの確信どうりにそれは紫耀メイと瓜二つの姿になる。
長いロングヘア。整った顔立ち。全てがメイそっくりだ。しかしその髪の色だけは赤黒い色彩を放っている。
「ようこそ。アストラルの世界へ」
もう一人のメイは口角が裂けるほどの笑顔を見せて笑いかけた。
メイはケルベロスを構える。
もう一人のメイはハンドガン『アイアンホーク』を取り出してなおも笑う。
「私があなたの全てになってあげる」
もう大丈夫。メイは胸の中にある光景を思い浮かべる。
夜空。部活。水着。海……大丈夫なんだ。
真っ直ぐもう一人の影を見つめ返す。
「大丈夫よ。ごめん……嫌な役押し付けて」
◇
「うざい」
メイの影がハンドガンを手に襲いかかって来る。影は数発弾を発射するとそのまま接近戦に持ち込もうとしているみたいだ。
「さすが」
メイはケルベロスを構えて照準を合わせる。あの動きは中学時代に使っていたステップだ。
影は向かってきた弾丸を交わしながら接近戦を試みて来る。
揉み合う影とメイ。
「済ました顔してんじゃないわよ!」
影にさっきまでの余裕は見えない。ホログラムナイフを右手に構えて闇雲にメイに向かって、切りつけてきた。
「大丈夫だから」
メイはその手を掴むと腹に一発浴びせた。影は赤黒い液体を吐き出してうめいていたがすぐに距離をとる。
「消えちゃえばいい!」
ハンドガンを連射して来るが手元がぶれているせいでなかなか当たらない。
メイは目を閉じる。ケルベロスを持つ手に集中力を高めてゆっくり構える。
「消えろ!消えろ!」
影はまたもや当たらない弾を連射してきた。メイは動かない。動かなければ当たらないことが、なぜか直感した。
「ありがとう」
ゆっくり引き金に指をかけるメイ。
一発の銃声が響き赤黒い液体が飛び散る。
メイはゆっくり目を開ける。そこは夢ヶ丘のあの公園の上にある丘だった。
「寂しいよ!パパいないし。一人は嫌!」
ぬいぐるみを抱えた幼いメイが隣にいた。熊のぬいぐるみを持って泣きそうな顔でメイを見つめてきた。
メイは小さな女の子を優しく笑いかける。
「大丈夫よ。あなたにはみんながいるから」
頭を撫でる。さらさらとした黒髪は風にゆれている。
「風、気持ちいいね」
「うん。」
「本当に一人じゃないの?」
女の子の目が潤んできた。
「うん。私だっているし、あなたは愛されているから……」
女の子を抱きしめると、空には満点の星空が広がっていた。
湖の水は青く透き通っている。
「ありがとう。お姉ちゃん」
メイの意識が揺らぐ中でそんな声が聞こえてきた気がした。
◇
「メイちゃん!大丈夫?」
目を開けると目の前にあてなの顔があった。夏さんや部長も心配そうな顔をしてメイを見つめていた。海から離れた場所にある旅館『海風荘』だ。
「大丈夫よ。ケルベロス。使える様になった。」
メイは少しはにかみながらそう言った。
◇
海風荘の共用スペースに腰掛けている。メイちゃんはケルベロスを手に入れたんだ。よかったぁ。あてなは涙が溢れてきた。さくら部長の提案で六時からの食事の前は自由時間になっていた。
「いらっしゃいませ」
旅館のおばあちゃんの声が聞こえる。誰か新しいお客さん来たのかな。
入り口から入って来た団体にあてなは見覚えがある。
うーん誰だろう?確かに見たことはあるんだけど。あてなは思い出そうとする。
その子は赤色のツインテールを伸ばして黒いシャツとデニムを履いている。
「あてな。さくら部長がご飯だって」
「あっメイちゃん」
メイちゃんが呼びに来た。その声にさっきの子が反応している。
「メイ……あの紫耀メイじゃない!ふふふっこの三好原里香の宿敵、紫耀メイとこんなところで出会うなんて」
思い出した。あの動画で負けちゃった羅刹館高校の子だ。
「もう、すぐ他校の生徒に喧嘩売るんだから。やめてください三好原先輩」
羅刹館らしい女の子が止めようとしているが、三好原里香は止まらない。
「さあ!勝負よ!新生羅刹館の力見せつけてやる」
人差し指で指刺しながら決めポーズで宣言する三好原里香。
一方メイちゃんはいつもどうりで……
「あてな、私忙しいから相手してあげて」
「そんなあ。メイちゃーん」
三好原里香はあてなのほうを見た。
「天才紫耀メイも落ちたものね。そんなじゃじ馬と組むなんて」
(三好原さんの挑発だ。メイちゃん乗っちゃダメ。)
「まあパートナーに似るって言いますし、落ちこぼれた貴方には相応し」
「何も知らないで」
メイが言った。
「いいわ。ぶっ潰すから」
メイはあてなの方を見た。メイちゃん本気だ。 どうしよう。とりあえずさくら部長と夏先輩に相談しなきゃ。
三好原里香は口元に笑を浮かべて背後にいた肌の白い女の子に声を掛けてる。
「掛かったわよ。エレナ」
「はい」
エレナと呼ばれた女の子からは表情は読み取れなかった。




