猫騒動再び
「エリザベスは私のよ!」
蒲生クララの声が響く。
クララがいるのは部室棟の中にある一番端、デンサバ部の部室だ。
クララを睨みつける相沢夏と天城院さくらの二人。そしてその背後にはにっくき明星あてなと紫耀メイ様がいる。メイ様は心なしか元気がない様に見える。
「ふふふ?部室で猫を飼うなんて規則違反よ!エリザベスだってこんな汚い部屋より私の部屋の方がいいわよね。ね!メイ様は別だけど……」
「何言ってんだ。くらげ!そいつはにゃーすけだ。」
エリザベスことにゃーすけを抱き上げようとするクララ。
「ほぅーらおいで!私がもふもふしてあげる。」
にゃーすけは全身の毛を逆立てて威嚇する。
話は少し前に遡る。
その日蒲生クララは生徒会室を離れて中庭を散歩していた。
生徒会長の仕事は大変だ。好きでやっている事とはいえ責任が押しかかってくる。パパじゃなくて蒲生理事長の信頼は娘であるクララの仕事ぶりや態度にも現れるからだ。
実際、家では蒲生理事長は娘であるクララに頭が上がらないムスメ命な父なのだが、外ではそうはいかない。
(あんなのでも一応パパの顔立てなきゃだからね。まったく感謝しなさいよ。孝行娘でよかったわね。パパ)
クララは中庭で何かが自分を見つめている気配がした。
その日は放課後であり、中庭には運動部もいないはずだ。
(誰……)
クララは振り返れない。気配はますます強くなる。
(まっまさか都市伝説のあれじゃ)
視線はますます強くなる。勇気を振り絞って振り返るとそこには一匹の猫がクララの方を不思議な生き物を見る様に見つめていた。
クララの動きが固まる。目が輝きだし、顔を近づける。
「かっ可愛いー」
手を伸ばして抱き寄せようとすると猫は危険を察知したのか
一目散に逃げていってしまった。
「待ってエリザベス!もふもふさせてぇ」
結局エリザベス(さっき名付けた)を追いかけていたらこの部室に来てしまったのだ。
◇
くららがやってくる少し前のこと。部室についたあてなは驚いた。部室にはあてなとメイ、そしてニャー助が部室にいたからだ。
茶色の毛を翻しながらあてなを見るとあくびをする。
「……」
「メイちゃんどうしたの?」
メイはさっきから黙ったままだ。でも前みたいな怖いイメージは湧いてこなかった。
「なんでもないわ。あてな」
そう言うメイの目線はニャー助の方からうごかない。
ニャー助が飛んだ。一瞬でメイの足元に絡みつくと舌でメイの足元をペロリと舐める。
「ひゃっ」
メイが宛名に抱きつく。メイちゃんの顔は真っ青で足も震えている。
「メイちゃんっ?もしかしてネコ怖いの?」
「ちが」
あてなが見つめるとメイはこくりとうなづいた。
「大丈夫だよ。ニャー助は可愛いよ。もふもふして気持ちいいんだよー」
そう言ってあてなが抱きしめようとするとにゃー助は「やれやれ」と言った様な顔しあてなの足をすり抜けていく。
「おいニャー助!俺のデザート食いやがったな」
バタン!と言う音と共にドアが勢いよく開いて夏先輩がやってきた。その後ろにはさくら部長もいる。
◇
「待ってエリザベス!」
くららが追いかけるとにゃー助は毛を逆立てて逃げ回る。
その様子をあてなは見ていた。
メイはあてなの後ろに下がる。
「待てよ。くらげ!そいつはにゃー助だ」
「何がにゃー助よ!そんなダサい名前じゃエリザベスが可哀想」
二人で猫を追いかけ回している。さくら部長は「まあまあ」って感じで宥めようとしているけれどくららと夏は止まらない
「なんだとにゃー助の何がダサいんだエリザベスなんかより可愛いだろ」
「ふっそれならもっとださい『アテナ』とかどう?」
くららは勝ち誇ったような顔をあてなにむけた。突然巻き込まれたあてな。でもこれ夏先輩を助けなきゃにゃー助が取られちゃう。
「なんだと。うちの部員を馬鹿にしたな。くらげバカ。」
夏がくららにいいかえす。
「くらげバカ?いっいったわね。パパがつけてくれた名前をバカにしたわね!」
猫そっちのけでバトルする二人。メイは部屋の中を逃げ回るにゃー助の予想できない動きに、あてなの肩を握る力が強くなる。メイちゃん。
にゃー助。どっちも大切だよ。
にゃー助も疲れたのかへとへとに見えた。
「いい加減にして」
いきなりの大声に振り返るあてな。
夏やクララもびっくりしたように振り返る。
そこには珍しく鼻息を荒くしたさくらが両手を腰に当てて二人を睨みつけていた。
◇
「……ああ悪かった」
「うっ……ごめんなさい」
夏先輩もクララ会長もさくら部長の本気の一括の前ではおとなしくなってしまう。
さくら部長はあてなの方を見るとニコッと笑う。
「とにかくもう喧嘩しないで。にゃー助の事はこれから考えましょ」
頷く一同。やはり部長はすごい。あてなも部長の方を見て満面の笑みを浮かべる。
◇
おとなしくなったクララと夏だが目を合わせるとすぐに睨みつけたり挑発を始めるのだった。その後さくらが収めるというのも変わらない。
メイは相変わらずあてなの後ろに隠れていた。
「メイちゃん。ねこ大丈夫だから」
あてなが呼びかける。
「大丈夫。私迷わないから」
メイも恐る恐るにゃー助けに近寄る。にゃー助けとの距離が近くなってメイの瞳にも変化があらわれる。
「よく見ると…可愛いかも」
手を伸ばそうとしたのがいけなかったのかにゃー助はさっと身を翻してしまう。
「メイ様とエリザベス!最高に尊いわ!私も混ぜて」
無理やり割り込もうとするクララ。
「わあ!やめろよ、くらげ」
夏が注意するよりも早くクララは猛ダッシュ。
「にゃー!」
駆け寄るクララに対してにゃー助の見事な猫パンチが炸裂した。




