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デンサバ!  作者: 豚まん
第三章
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13/25

夢ヶ丘の風


 テレビの向こう側ではキャスターが深刻そうな面持ちでニュースを伝える。

 近頃の密輸された殺傷能力を持つホログラム銃。弾丸には実態がないが、アストラルシステムを通じ魂や人格に致命的なダメージを与える電磁波を発生させるのだ。

 綺麗に整えられたショートカット、ハキハキと喋るアナウンサーとは対照的なメガネをかけた女、榊玲香博士は近頃の時事問題である脱法デンサバ銃の解説を頼まれていた。

 白のシャツにボサボサの髪、綺麗に整った顔には徹夜でできたクマが現れている。

「さらに最近では『ノヴァ』や『アストラルトリップ』と呼ばれる違法行為も若者の間で流行ってますよね。これはどう言うものなんですか?」

 玲香はアナウンサーの決まり切った質問に対し抑揚のない声で答えた。

 違法改造したアストラルシステムを使い強制的に魂を共有させる危ない遊びが流行っている。

 そんな感じのことを自分の研究で知り得た情報を元に話した。

「海外ではデンサバの規制について今議論になってますよね。」

 ショートカットのアナウンサーは待ってましたとばかりに勢いよく話題を振った。玲香はまたこの話題か、とうんざりしながらため息を顔に出さないように、解説を続ける。

 ◇

 赤い水の中を揺蕩う。紫耀メイは真っ赤な海に浮かんでいた。

 体にはゼリーのような物体がまとわりついている。

「私は誰?」

 波一つない穏やかな海に人影が浮かんでいるのを見つけた。その子は同じ黒髪でシゃープな輪郭をしている。紫耀メイそのものだった。

 鏡の中から反転したようなもうひとりのメイが口を開いた。

「来なさい。」

 優しい口調だ。

「私があなたのパパになってあげる。私はあなたのパパでありお姉ちゃんなのよ。」

 もう一人のメイは傍に熊のぬいぐるみを抱えていた。

「時間なんて存在しないわ。私の腕の中で永遠に暮らしなよ。」

 赤い水を揺蕩うメイ。心地よい感触が全身を包み込む。

「……けて」

 ◇

 数日間が経ったある日、部室に来た明星あてなは紫耀メイに起こった出来事について話した。

「というわけなんです。」

 明星あてなから聞いた話は衝撃だった。紫耀メイと堕天の魔月川瑠衣にはどんな関係性があるのだろう。

 あれからメイは学校を休んでいるらしい。

「私今日もメイちゃんの家行ってくる。」

 居ても立っても居られずあてなは部室から飛び出す。

「それならみんなで行った方が」

 夏の提案をさくらは却下した。

「あてなちゃんが行ってもなかなか面会できないらしいの。私たちがゾロゾロ行っても迷惑になっちゃうわ。」

 その言葉に夏は反論しようとしたがさくらが夏の肩を優しく叩く。

「今できる事はあてなちゃんを信じて、メイちゃんの居場所を私たちで守らなきゃ。」

 さくらも泣きそうな目をしているのを夏は見逃さなかった。

(さくら。昔から仲間思いなとこ変わらないな。)

 放課後の部室からは雨の音が聞こえる。季節はもう梅雨に入ろうとしていた。

 嫌な季節だ。夏は頭の中の回線がショートしそうになっていた。

「あーくそ!」

 何もできない自分が悔しい。また俺たちは繰り返してしまうのかよ。 

 ◇

 メイは自室にこもったまま寝転んでいた。体が重い。全体的に濡れた服を着込んだかのようなだるさを感じる。

 ベッドから天井を見上げると裏表になった写真立てがタンスに飾られている。

 あれから数日が経過した。あてなは毎日家に来てくれるが答える気にはなれなかった。

「どうしたらいいのよ」

 メイはぬいぐるみに話しかけてしまった事を自覚するとため息をつきながらぬいぐるみをベッドの隅にどかしたのだった。

 ◇

 あてなは考えた。メイちゃんの家に行く。あてなが紫耀メイの家の場所を知ったのはクラスメイトの林田からの情報だった。

 林田はメイと同じ中学校だったこともあり、メイの家を知っていたのだ。もちろんデンサバ部ではないので面識自体はなかったのだが。

 その日からあてなはメイの家に何度も足を運んだ。

 メイの家は、商店街から少し離れた住宅街の中にあり二階建ての一軒家だ。クリーム色の壁に門の中には軽自動車が一台だけ止まっている。

 あてなはなんどかその家に行った事があるがなかなかメイはあってくれなかった。

 その日もメイの家のドアを開けると、メイにそっくりの女性が対応する。切れ長の美人と言ったところでメイが歳をとったらこんな感じだろうなと想像する。その人はメイの母親であてなが尋ねるうちに顔見知りになっていた。

「あの子、大丈夫かしら。意地悪とかされてない?」

「いえ、はい。大丈夫だと思います。私メイちゃんと話したくて」

「そうなのね。あの子私にも何にも話してくれないから」

 母親はそう言って悲しそうな顔をした。メイちゃん……

(今日も訪問失敗だよぉ)

 あてなはとぼとぼとメイの家の玄関を後にする。

 ふと視線を感じたあてなは振り向く。二回の窓から見えたメイちゃんは素早く隠れたのか、次の瞬間には、あてなからは見えなくなっていた。 

「メイちゃーん。今から~~一緒に走ろう。あの公園で待ってるねー」

 あてなは二階の窓に向かって叫んだ。両手を広げて一生懸命声の続く限り叫ぶ。

(メイちゃん。お願い!届いて)

 あてなの中の輪郭がぼやけていくのをかすかに感じる。あれは千龍湖からの風だろうか。

  丘の麓にある夢ヶ丘公園。すでに子供達は帰ったのかそこにはあてなしかいなかった。

「メイちゃん来るかな」

 あてなは不安な気持ちを吹き飛ばすように伸びをする。ダメダメ。信じなきゃ。

 夕暮れが終わりに近づき空を見上げると早くも星が見え始めた。

 少しだけ風が出てくる。公園のぶらんこに一人またがり俯くあてな。ふと気配を感じる。

 あてなが入り口を見つめると紫耀メイが私服姿でそこに立っていた。青いジャージに首にはマフラーを巻いている。

「メイちゃん。」

 あてなは飛びつこうとするがメイは身を翻す。

「なんで……」

「走ろうよ!前みたいにあの丘まで」

 そう言ってあてなは丘へ続く歩道を駆け出した。

 もう時期夜になろうとしている。歩道に風が吹いてきた。

 しばらく走り続ける。丘へと続く歩道をひたすら走り続ける。あてなはふと後ろにメイの気配を感じて振り向いた。

「なんでなの。私負けたのに……」

 メイがつぶやく。

「大丈夫だよ!次勝てば!」

「次なんかない!」

 メイは勢いよく地面を蹴るとあてなを遠追い越してしまう。

「なくない!」

 あてなはそんなメイに必死で食らいつく。

 メイのスピードは後先を考えていないように見えた。

 闇雲に不自然なほど腕を振り上げて走るメイ。

 あてなはそんなメイに食らいつきながら、

「負けたっていい!次勝てば!何回でも何万回でも!」

「なんで……」

 泣きそうな顔をしているメイ。

 メイちゃん。そんな無茶な走り方してもスピード続かないよ。

 丘の上に二人同時に到着した。

「はあはあ。なんだかあの日を思い出すね。メイちゃん」

「はあはあ」

 夢ヶ丘はすっかり陽が落ちていた。空には満天の星空が宙に浮かぶように見える。

 あてなは空を見上げながら叫ぶ。

「見てこんなに星が綺麗なんだよ。あの一つ一つが輝いてる希望なんだよ。みんなの希望が空に反射して…夢ヶ丘はできてるんだよ。」

「でも……私のはない!」

 メイは右手で顔を押さえながら叫んだ。

「そんなことない!私や学校のみんなやみんなメイちゃんの事大好きなんだよ。」

 あてなはメイの肩をそっとさする。

「この街は、デンサバ部はメイちゃんの帰る場所なんだよ。」

 メイは腫れた目をこすりながらあてなの顔を見る。

 その時一つの流れ星が星の絨毯の上を滑り降りるように流れていった。メイは流れる星と麓の街とを見比べている。

「フフ……知らなかった。わたしも夢ヶ丘で生まれ育ったのに」

 満点の星空の中あてなの手はメイの手を優しく握る。

「これメイちゃんに見せたかったんだ。」

 メイはそんなあてなの手に自分の手を重ねてきた。

「ありがとう…あてな」

 メイは隣で座るあてなの顔を真っ直ぐみながら真剣な表情で

 「なんであの時……負けてもいいなんて言ったの?」

 あてなは少し恥ずかしそうに笑う。

 「えへへ……メイちゃんが好きだからじゃダメかな」

 「もう……ばっか。でも、私もう迷わない。」

 更に、隣にいたメイの唇が動いたような気がした。「私も好きよ。あてな。」そんな風に聞こえた。

「メイちゃん!今私も好きって言った!」

「ばっかじゃない!ありがとうって言ったのよ。」

 心なしかいつもよりメイの顔が赤い気がした。

「メイちゃん顔赤いよー」

「はあっ星が反射したのよ!」

 あてな達を夢ヶ丘の風が優しく撫でた。。様々な色味をした風が優しく吹いてくる。メイちゃんのいい匂い。学校のみんなや、街の人々。色々な思いが二人の中を通過した。

「私今、メイちゃんの事分かる」

「私も」

 見つめあってメイの瞳が優しくあてなを見つめてくる。二人の息遣い、感情の糸を縫い合わせたような優しい色をした風にあてなの心は溶けていく。

「夢ヶ丘の風が吹いているんだ!」

 それはどこまでも輝く初夏の幻だった。もうすぐ夏が始まる。そんな予感がした。

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