再会
◇
夢ヶ丘にある商店街。あてなは限定アイスの店に向かっていた。時間はもう夕暮れで多分いまから行っても間に合わなそう
だが何も買わずに帰るわけには行かない。いとなは怒らせると結構怖い。
夢ヶ丘を囲っている山々に赤みがさして遠くで見える千龍湖が美しく染まっていた。
その店に近づいてきた時だった。
あてなは少しだけ止まってしまう。顔を撫でると濡れてしまっていた。(あれ?私ないてる?なんで)
急に痛みが押し寄せてきた。
(心が痛い……。何これ。熊ちゃん。パパ?)
そんな気持ちを振り払う様に商店街を小走りに走る。
商店街の四角のあてなから見て右側の道路に知ってる人がいた。
「瑠衣師匠!」
その少女は前にあてなを導いてくれた瑠衣と名乗る少女だった。白のスカートに黒色のカーディガンを羽織った瑠衣は、あてなを見ると不思議そうな顔をした。
「すみませんが、どなたですか」
「あの!師匠ありがとうございました!私、瑠衣師匠のおかげで武器が使える様になってそれでそれで」
すると瑠衣はにこやかにあてなに微笑んだ。
「思い出しました。河原で練習してた子でしたね。」
あてなは飛び込む。
「師匠~~師匠のおかげで友達と一緒にデンサバできてよかったあー」
瑠衣は少し驚いた様に
「きゃっふふ、あてなさんは大胆ですね。その友達にもそんな風に抱きつくのですか」
と言って笑った。
「うん、メイちゃんすごく柔らかいんだよ!可愛くて優しくて、うふふ」
その言葉に瑠衣は一瞬驚いた表情を見せた様な気がしたが、その後すぐに笑顔に戻った。
「私もそう思いますよ。メイちゃん」
瑠衣師匠の先,四角の左手には青白い顔をしたメイちゃんが呆然と立っていた。
その横に落ちた箱には限定品アイスが二つ分、地面に転がり側溝の脇に挟まっていて……。
「魔月川瑠衣……」
メイがつぶやいた。
◇
魔月川瑠衣。彼女とは中学日本代表で共に戦った仲だ。だが代表に選ばれる前から彼女とは同じ中学で、そこでは瑠衣に対し厳しく接していた。
メイにとっては決して瑠衣が憎らしい存在だったわけではない。しかし全国の強豪と戦う為には彼女の力が必要だった。などというのはいいわけで、実際には父の不在、夢を追う姉、そしてメイに期待する母親。全てから離れて自由になりたかった。
その八つ当たり先を探していただけだったのだろう。
まだ幼い頃、デンサバでは姉妹揃って天才と言われ、勝ち続ければ母も父も喜んでくれた。
だから負けられない。(私だけはしっかりしなきゃ)負けてはいけない。必死で……。
そんな瑠衣が目の前にいた。
小さかった体は高校になり急成長を遂げ、モデルばりのプロポーションに変化している。
臆病な雰囲気は氷の刃を思わせる威圧感へと変わっていた。
「魔月川って!まさかあの魔月川瑠衣ちゃん?私ずっとデンサバ見てたから覚えてるよ!メイちゃんと組んでて最強のチームだった瑠衣ちゃん」
胃の中がむずむずする。
「瑠衣……」
「久しぶりですね。メイちゃん。」
◇
瑠衣の目を見ずにメイはただ頷く。瑠衣は一瞬寂しそうな表情を見せた気がする。
しばらくの間沈黙が支配した。瑠衣のマナを身近に感じてしまう。懐かしい匂い。毎日のように一緒にいて……あの時は……
謝る?どうやって? 口が乾いてきた。あてなはそんな二人の間に生まれた空気を心配そうに眺めている。
「メイちゃん。デンサバの試合受けてくれますか?」
潮風が吹いた。千龍湖からの風だろうか。
「ええ」
メイはつぶやく。真っ直ぐ瑠衣を見つめながら。
やりきれない思い。瑠衣はやはり優しいままだ。
◇
あてなはそんな二人を黙って見ているしかなかった。
師匠とメイちゃん。どんな理由があるのか分からない。だけど何も言えない……。
試合が始まる。あてなの目は右に体を揺らしながら距離を取るメイを追いかける。瑠衣は左周りで距離をゆっくり歩く。
「ケルベロス……使わないんですね。」
瑠衣はアサルトライフルを構えながら悲しそうにつぶやいた。
メイのハンドガンがホログラム弾を打ち込む。瑠衣は動じることもなく右手をかざす。
瑠衣を守る様に強い雨が降り注ぐ。ホログラム弾は雨にかき消されて変えてしまった。
「属性付与。」
メイも冷静に雨の隙間を狙って弾丸を打ち込んでいく。
雨のバリアを打ち破り幾つかの弾丸が瑠衣にぶつかる。ライフゲージが減っていく瑠衣。あてなは逃げ出したい思いを必死で堪えていた。(見なきゃ。私はそれしかできない。)
瑠衣はアサルトライフルを連射した。弾が当たった場所からは火の手が上がり、自販機や商店街の四角も炎上し始めた。もちろんホログラム映像だから実態はない。メイは火の中を逃げる様に身を翻しながら走る。
火の中をメイが走りながらハンドガンを連射。五発中三発が瑠衣に当たった。肩で荒い呼吸をするメイ。瑠衣のライフゲージは三分の一。対するメイはほぼ無傷だ。でも瑠衣は呼吸一つ乱れてない。なんだか嫌な予感がする。メイちゃん逃げて。
瑠衣の元に風の様なマナが集まる。
『青薔薇の舞』
四本の槍がメイを貫いた。
◇
潜在スキル。メイは倒れながら理解した。この力は普通じゃない。属性付与は高校トップ層なら使えてもおかしくない。ただ通常は炎なら炎、水系なら水、良くて氷といった具体だ。それを瑠衣は少なくとも四つの属性を自在に操っていた。それは人が努力でなんとかなる次元ではない。おそらく瑠衣は潜在スキルと呼ばれる自身の能力に目覚めたのだろう。
「メイちゃん」
あてなが倒れるメイに駆け寄る。
「メイちゃん。あてなさん。これが私と貴方達の過ごした時間の差です。ですが時間は進み続けます。夏の『アームズ杯』そこで決着をつけましょう」
そう言うと全身から火を放ちその光の中に消えていった。
◇
「いいのですか瑠衣。あんな事を言ったら壊れますよ。」
「大丈夫ですよ。真雪。」
瑠衣は歩きながら答える。商店街を抜け夢北の繁華街のネオンが鳴り響く。
「デンサバがなぜ『心の競技』と呼ばれるのかわかりますか」
瑠衣の質問に真雪は前を向きながら答える。
「アストラルシステムによる『感応現象』ですよね。」
「そうシンクロニシティとも呼ばれますね。アストラルシステムは魂と魂を共有してしまうのです。それは仲間は勿論、同じ試合を共有した敵、熱狂した観客……それらの感情が時折混じってしまうのです。」
因果真雪は不愉快そうに何か言おうとしたが瑠衣に遮られた。
「最も多感な中学時代を一緒に過ごしたのですよ。分かるんです。彼女なら立ち上がります。私が憧れてきた紫耀メイちゃんのままだったから」
因果真雪は唇を噛む仕草をする。(真雪は……真雪の気持ちは……瑠衣さんには……)




