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【連載完結】追放された令嬢を救ったら、俺の領地が豊かになりすぎた。彼女の才能は俺が独占する!  作者: 逆立ちハムスター


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王都からの「鴉」たちが去った後のアッカディアは、抜けるような青空に包まれていた。

ヴァレリウス伯爵率いる調査団は、三日三晩、東の岩山で霧に巻かれ、泥にまみれ、精根尽き果てた姿でアッカディアを後にした。彼らが去り際に見せた、呪詛の言葉を吐き散らしながらも逃げるような後ろ姿は、領民たちの格好の語り草になった。


「いやはや、レノス様。あんなに顔を真っ赤にした貴族様は初めて見ましたよ」

「まったくだ。アッカディアの霧は、よそ者には少々厳しすぎたかな」


領民と談笑し、笑い合いながら俺は愛馬の鞍を締め直す。

隣には、旅装に身を包んだリリアーヌがいた。侍女服ではなく、動きやすい革製のズボンに、俺が贈った深い紺色のマントを羽織っている。銀髪を一つに束ねた彼女は、どこか凛々しい冒険家のような趣があった。


「準備はいいか、リリアーヌ」

「はい、レノス様。……調査団の目がなくなった今こそ、あの子たちの封印を解く時です」


彼女の言う「あの子たち」とは、岩山の奥深くに眠る鉱石のことだ。

俺たちは護衛のバルト一人を連れ、再び東の岩山へと向かった。


───


標高が上がるにつれ、空気は澄み渡り、肌を刺すような冷たさを帯びてくる。

険しい岩道だが、リリアーヌの足取りは軽かった。彼女が歩くたび、足元の小石や土の魔力が応えるように、まるで見えない足場が彼女を支えているかのように見えた。


「ここです。……この岩壁の奥」


辿り着いたのは、何の変哲もない切り立った崖の前だった。

一見すれば、ただの硬い花崗岩の塊だ。ヴァレリウスたち調査団も、この前を何度も通り過ぎたはずだった。


「リリアーヌ、頼む」

「承知いたしました」


彼女は岩壁にそっと両手を触れた。

目を閉じ、深呼吸をする。彼女の体から、昨日よりもずっと繊細で、鋭い光が放たれた。


「――秘匿された脈動を解放し、真なる流れをここに」


パキパキ、と空間が凍りつくような音が響いた。

次の瞬間、目の前の岩壁が蜃気楼のように揺らぎ、霧が晴れるように「正体」を現した。

そこには、大人が数人並んで入れるほどの巨大な洞窟の入り口が、ぽっかりと口を開けていた。


「……これは……」


剣の柄を握る手から力が抜ける。

洞窟の奥から漏れ出しているのは、ただの光ではなかった。

それは涼やかな鐘の音のような、高く澄んだ「音」を伴う輝き。


「行こう」


俺は松明を掲げ、リリアーヌと共に奥へと踏み込んだ。

一歩進むごとに、壁面が淡い銀色に明滅する。それは岩の中に混じる精霊砂の結晶が、リリアーヌの魔力に共鳴して歌っているかのようだった。


最奥部に辿り着いた時、俺たちの目の前には、言葉を絶する光景が広がっていた。

天井から床まで、洞窟の壁一面が純度百パーセントに近い輝きを放つ精霊砂の原石で埋め尽くされていた。松明の火を反射し、洞窟内はまるで銀色の小宇宙と化している。


「信じられん……。これほどまでの規模鉱床は、王立鉱山でも見たことがない。しかも、この純度は……」


俺は震える手で壁に触れる。

精霊砂は諸外国で次世代の燃料と呼ばれるほど、魔道具や古代兵器の燃料、素材として、金よりも高値で取引されている。これだけの量があれば、アッカディア領の数百年分の予算が、一瞬で賄えてしまうだろう。


「レノス様、聞こえますか? この子たちが喜んでいます。ずっと澱んだ土の中に閉じ込められていたけれど、ようやく呼吸ができるようになったと」


リリアーヌは愛おしそうに、銀色の岩肌に頬を寄せた。

その姿は、洞窟の輝きよりも遥かに美しく、まるで神々のように幻想的だった。

彼女の力は、単に効率を上げるだけではない。万物があるべき姿に戻し、その真の輝きを引き出す力なのだ。


「リリアーヌ、これは君が見つけた宝だ。……君がいなければ、この神の歌声は永遠に誰にも届かなかっただろう」


「いいえ。私にこの場所を、この力を信じさせてくれたのは、レノス様です」


彼女は振り返り、俺を見つめた。アメジストの瞳が、銀の光を反射して潤んでいる。


「王都にいた頃の私は、自分の力が呪いのように思えてなりませんでした。何を見ても、その欠陥や非効率さばかりが目に付いてしまう。それを指摘すれば『可愛げのない娘だ』と疎まれ、魔法が使えないことを『欠陥品』だと罵られる……。でも、ここでは……」


彼女は一歩、俺に近づいた。


「ここでは、私の力で皆が笑顔になってくれます。レノス様が、私の目で見ている世界を、そのまま肯定してくださる。……私、ここにいてもいいのだと、初めて思えたんです」


彼女の言葉は、切実な告白だった。

公爵令嬢という華やかな肩書きの中にいながら、彼女はずっと孤独だったのだ。自分の本質を誰にも理解されず、ただの「壊れた道具」として扱われてきた。


俺はたまらなくなって、彼女を強く抱き寄せた。

リリアーヌの体は驚くほど細く、そして温かい。


「ここにいてもいい、じゃない。……君の居場所は、ここ以外にどこにもない。俺が絶対に、どこへも行かせない」


俺の胸の中に顔を埋めた彼女の体が、微かに震える。


「リリアーヌ。君はこの領地の、そして俺の『希望』だ。この鉱脈も、再生した平原も、すべて君がくれた奇跡だ。……俺は、この富を使って領地を繁栄させ、君を世界で一番幸せな女性にしてみせる。君を捨てた連中が、どれほど手を伸ばしても届かない場所へ、連れて行く」


「……レノス様……っ」


彼女の手が、俺の背中に回された。

銀色の光に包まれた洞窟の中で、俺たちはしばらくの間、互いの鼓動を感じ合っていた。


俺は確信した。

この鉱山が稼働し始めれば、アッカディアの状況は一変する。

王都は間違いなく、手のひらを返して接触してくるだろう。リリアーヌを「無能」だと切り捨てたエルシュタイン公爵や、彼女を捨てた殿下とやらも、血眼になって彼女を取り戻そうとするはずだ。


だが遅い。

彼女の才能、彼女の心、彼女のその美しい涙も。

すべては、泥まみれの彼女を見出し、その手を取った俺だけのものだ。


────


数日後。

アッカディア領には、活気という名の旋風が吹き荒れていた。

俺は領民の中から、特に口の堅い、信頼できる者たちを選出し、極秘で鉱山の採掘を開始した。同時に、王都の商会ではなく、隣国の自由都市の商人と裏ルートで接触し、精霊砂の売却交渉を進めた。


手に入った莫大な資金は、すぐさま領民たちの生活基盤へと還元した。

新しい農具、防寒性の高い建材、街道の舗装など。そして王都から招聘した(素性を隠した)医師や技術者たち。


「レノス様! 見てください、この小麦の芽を!」


平原を管理している若い農夫が、興奮した様子で俺に報告しに来る。

「リリアーヌ様がアドバイスをくれた通りに水を引いたら、一晩でこんなに! まるで魔法にかかったみたいだ!」


「彼女の言うことに間違いはない。しっかり育ててくれよ」


「もちろんです! 俺たち、リリアーヌ様のためなら、夜通しだって働きますよ!」


領民たちの間では、リリアーヌはもはや「聖女」の代名詞になっていた。

彼女が村を歩けば、子供たちが花を捧げ、老人たちが拝むように頭を下げる。

最初こそ戸惑っていた彼女も、今では領民たちと笑顔で言葉を交わすようになっていた。


────


そんなある夜。

執務を終えた俺のもとに、リリアーヌがワインを持って現れた。


「レノス様、お疲れ様です。……少し、お話ししてもよろしいですか?」


彼女の表情は、どこか神妙だった。


「どうした、リリアーヌ。何か、土地の調整で問題でもあったか?」


「いいえ。……実は、王都に残してきた私の『私物』を届けてくれたという使者が、領地の外れに来ていると聞いたのです。私の乳母だった女性なのですが……」


俺は眉をひそめた。

「乳母か。……喜びたいところだが。タイミングがタイミングだ。エルシュタイン家が仕掛けた罠の可能性はないか?」


「分かりません。でも、彼女は私にとって唯一の味方でした。……彼女の手紙には『あなたの才能を狙って、王太子殿下が動き始めた』と書いてありました」


リリアーヌの指先が、ワイングラスの縁をなぞる。


「……レノス様。私を救ったことで、あなたを大きな戦いに巻き込んでしまうかもしれません。私の力は、あまりにも目立ちすぎてしまいました」


俺は椅子から立ち上がり、彼女の前に跪いた。

そして、彼女の手をとり、その甲に深く、刻み込むようなキスをした。


「リリアーヌ。何度だって言おう。俺は君を独占すると決めたんだ。王太子だろうが、エルシュタイン公だろうが、君を奪おうとする者はすべて俺の敵だ」


俺は彼女を見上げ、不敵な笑みを浮かべた。


「むしろ、ちょうどいい。アッカディアはもう、ただの貧乏領地じゃない。君が育てたこの地には、一国を揺るがすほどの力が蓄えられている。……連中が来たら、教えてやろう。本物の『無能』は、誰だったのかを」


リリアーヌは、一瞬驚いたように目を見開き、やがて心強いものを見るような、深い慈愛の微笑みを浮かべた。


「……はい。私の知略のすべてを、あなたに捧げます。……レノス様、これからのアッカディアが、楽しみですね」


俺たちの視線が交差する。

外では、リリアーヌが整えたマナの流れに乗って、心地よい夜風が草原を揺らしていた。

アッカディアは、もはや静かな辺境ではない。

それは、世界を飲み込む嵐の目になろうとしていた。

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