第76話 HELLO ASTRAL
「で? 結局アンリエットは結婚しないの?」
星界網に接触し、星界網を覗き見ているネッラ先生。
「そうじゃな。儂はまだしばらく、独り身でおるつもりじゃ。とにかく今は忙しいからのう」
私とネッラ先生は、額に第二の眼である星界の眼、そして胸の中央には第四の眼である胸央の眼を開いていた。さらに頭の後ろに差す後光は第五の眼である光輪の眼。
「その爺言葉、似合わないからやめれば? ジョスタの入れ知恵だっけ」
ジョスタさんの助言を参考に、アイリアの横に居る時は老人っぽく喋っていたんだけど、意外とこっちの方が、貴族たちも話を真剣に聞いてくれるんだよね。
「大臣には好評なんだよ?――んー。あとなんか? 結婚相手にこれって人が居なくて」
私も祝福のおかげでほぼ大人に成長していた。まあ、成長してもそんなに背は高くないし、出るとこ出てないんだけどね。20歳くらいまでは成長する可能性もあるけど、期待はできないかな。
「アフマズル先生とかはどうなのん?」
目の前に表示されて行く星界網から引き出された魔術文字を読み解きながら、新しい記述を加えていくネッラ先生。
「ダメだよ。あの人は肉感的な人が趣味だし、それに……」
「それに?」
それに、なんというか、アンリエットの気持ちが支配的で、男性が苦手なんだよね。リガノで居た時から従兄が苦手だったし、今でもお父さま以外の男の人はちょっと引いてしまう。
「――わかった。エスカイユでしょ。オブリージアに譲ってもらったんだっけ??」
「違うよ! そんな、エスカイユ様を物みたいに……」
エスカイユさんはまだ結婚していない。彼女はもっと強くなりたいと願っていた。
ただ、アンリエットとしての気持ちが彼女を特別に感じていることを、私も隠し切れないでいた。
「ほら、これで最後。できたよ」
全ての記述を書き終え、再び星界網に接触しなおす。
「これって名前を付けるの?」
「そうだよ。けど、アンリエットはまた転生する可能性があるんだっけ?」
「そうだね……」
「じゃあ、アンリエットだけ『大賢者』で入れるようにしておくから。特別に」
「いいの?」
「いいのいいの。他の人にはちゃんと本名じゃないとダメって言っとくから。――じゃあ、どうぞ。エスラにも伝言送っとく」
はい――と答え、呪文の詠唱を開始し――
「星界網への接触!」
すると、女神さまが作るものに似た、ただしもっと仰々しい四角い窓が開き、音声付きの文字が表示される。
『大賢者:こんにちは、アストラル!』
『ネッラ:なんだそれ』
『大賢者:やっぱり最初は、こうじゃないと』
『ネッラ:そういうものなんだ』
『エスラ:わあ、文字と声が! 素晴らしいです! アンリエットさんは大賢者なのですね』
『大賢者:なのです』
『エスラ:これってどこまで届くのですか?』
『ネッラ:妨害されにくいとは思うけど、されない限り、どこまでも届くと思う』
『大賢者:星界の大海獣みたいなのが通りすぎると、星界が歪んで切れたりするみたいです』
『ネッラ:あとは風景とかも送れる。ほら』
すると、ネッラ先生が私の顔を表示させた。ネッラ先生から見た私の顔を。
『大賢者:ちょっと! 勝手に人の顔を写さないでくれる!? 肖像権侵害!』
『ネッラ:アンリエットは変な言葉ばかり使うね』
『大賢者:えっ、ちょっと、これって消えないの!? 履歴って消えるよね!?』
『ネッラ:履歴は消えないと思うよ。何もかも残る』
『エスラ:そうなのですね。家宝にします!』
エスラ先生が、どこかの誰かみたいなことを言ってる!
『大賢者:ていうか、これって情報でいっぱいになったりしないの!?』
『ネッラ:たぶんしない。別の世界にあるから』
あれだ。オカルトのアカシックレコードが存在しえない理由の解みたいなやつだ。この世の全てのことが書かれたアカシックレコードは存在しえない。なぜならば、その次元に情報が収まりきらないからだ。じゃあ、それが存在するためには外の次元に置くしかない。
『大賢者:これ以上、変な写メを上げないでよね!』
『ネッラ:シャメ? シャメっていうの? こういうの』
『大賢者:ホントはちょっと違うけど…………とにかく禁止だから!』
『エスラ:せっかくアンリエットさんの姿をいっぱい留めておこうと思ってましたのに……』
『大賢者:エスラ先生、そういうのはせめて個人用途の書類入れを作ってからにしてください……』
『ネッラ:なるほどねえ。そしたら、あんなシャメやこんなシャメも……』
『大賢者:ダメ! 星界網は完成された情報網なんだから、エッチなものでいっぱいにするのは禁止! 禁止です!』
エロで技術が発展する例は多いけれど、インターネットなんかと違って星界網はこれ以上発展する必要ないんだもんね。特にアイリアにはきつく言っておかないと、どこかに漏れたりしたら大変。ネットリテラシーの教育が必要だ。
その後、ネッラ先生に強要して、私の管理権限を最大にしてもらった。
こうして我々は、魔族に対抗しうる星界網という無敵の情報網を得たのだ。




