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貧乏貴族から成りあがれ! ~独り身イズミの転生譚~  作者: あんぜ


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第75話 7年後の近況

 それから7年の月日が流れ、私たち第11期生は卒業した。魔術学院は、私に文化的な生活を千年振りに送らせてくれた。


 普段の授業以外にも、聖なる森で触媒となる薬草の採取をしながらのピクニックだとか、街を見下ろす水道橋の見学だとか、上級生や大学院生たちの研究発表を兼ねた文化祭だとか、イベント盛りだくさん。中でも、『アンヘルとアンリット』の演舞台では毎年、新年のお祝いに上級生たちが演劇を披露するんだよね。観劇に、大勢が集まってくる大イベント。お父さまやお母さまも、毎年観にきてくれた。


 他にも、地下迷宮(ラビリンス)でパーティを組んで探索だとか、屋外でチームに分かれて実践演習だとかはなかなか大変だったけどね。あとまあ、大賢者に成ることもだんだんバレてはきた。


 友達もたくさんできた。もちろん、みんな揃って卒業できた。



 ロゼリアはデーテ先生の指導で、色々と思い直したみたい。性質なのか、どうしてもマウント取りがちなところはあるけれど、言い過ぎたことは自覚しているらしくて、よくベルチカが相談に乗ってあげたりしていた。頑張ってる方だよね。デーテ先生は、ときどき私の相談にも乗ってくれるし、おいしいお菓子を用意していてくれる。


 対してジョゼファはあまり変われないでいた。ただ、病的な意地悪の原因をエスカイユさんに調べてもらったら、両親の性質だったみたい。なので、たまたま偶然、思いもかけない機会があって、その両親を締めたら、ちょっとだけ穏やかにはなった。まあ、あとは彼女次第だよね。


 ハルシニアとラネットはルテル公爵領へ帰って結婚の予定。マイエスたち男の子もルテルの地を豊かにするため国へ帰っていった。親の世代の失敗を、ちゃんと返してる。血を誇るなら、誇れるだけの責任を果たす。貴族の矜持だね。


 アフマズルさんは、ロティスさんに求婚したんだけど撃沈。お母さまに恋文(ラブレター)を出したのがバレたのかと思ったけど、そういう訳でもなく、ロティスさんはロティスさんで結婚が失敗したりして、なんだか面倒くさいことになってる。今はふたりとも大学院に残って先生をやってるから、この先どうなるかは分からない。


 アノリさんは、故郷へ帰って結婚した。最終的にアノリさんと私は、よき先輩後輩の関係となり、今でも手紙のやり取りをしたり、王都へ来る用事があると顔を見せにきてくれたりする。アノリさんも他の生徒の例にもれず、魔術師として故郷に貢献している。そしてとりあえず、故郷のトイレを何とかしたいと言っていた。みんなそう思うよね。


 オブリージアさんは卒業して、ミリニール公爵領の小領地に嫁いだ。ミリニール公爵領はアイリアの領地でもあるから、陛下のためにも領地を盛り上げていきたいと、ミリニールで頑張ってるそうだ。そして母親のミシャカラさんが正気に返ったことで、エスカイユさんへの執着はなくなった。エスカイユ様は君に譲るよ――なんて言われたけど……ねえ……。


 そのミシャカラさんは、卒業した私の護衛に就くこととなった。彼女が望み、オブリージアさんからも王都に出向いてまで頼まれたし、バルマシアさんからも頼まれた。アンリットの傍にいつも居たという彼女を、私も雇うことにした。ただちょっと、カネラとの確執があるようなので、仲良くやっていくという条件でね。


 カネラは相変わらず。そして、結婚を勧めても応じなかった。だけど私は不老不死を女神さまから与えられた身。できれば、カネラの子供たちとも仲良くしていきたいと話すと、少しだけ考えてくれることになった。答えはまだもらってない。


 ネッラ先生とは研究仲間。実は女神さまから、星界(アストラル)を通して遠く離れた地と連絡を取る方法が昔あったというのを聞いたことがあったんだけど…………実際あったよ。星界網への接触アクセストゥメガラインという呪文が。その呪文をネッラ先生と共同で研究して、星界網(メガライン)の存在を確認した。伝言(メッセージ)の呪文より遥かに遠くまで、瞬時に連絡が取れ、音声以外の情報もやりとりできる。インターネットを超えるような情報網だった。


 他にも、星界網(メガライン)には暗号化された古代の情報が山と積まれていた。解析は簡単じゃなくて、ネッラ先生は毎晩遅くまで解析をしている。


 ベルチカは王城の文官になった男の先輩と結婚した。そして彼女自身は魔術師の祝福を買われて魔導騎団である第七騎団に入団した。あのベルチカが!?――って思うかもしれない。けれど、普段は丁寧な言葉遣いを意識しているだけで、根っこは彼女、割とはねっかえりなんだよね。小さい頃に平民の街で育ったのも理由みたい。


 子供はどうするのかと聞くと、後回しにするんだって。まあ、祝福もあるし、人生長いんだから慌てなくてもいいよね。女神さまはそうでもないみたいだけど。


 そしてベルチカは今でも私の大親友。


 そのベルチカのお母さん――ベルカイエさんは、学院から派遣された講師のもと、治癒魔術(グラエザ)を学びなおし、聖堂でも優秀な施術師として名を馳せるようになった。私のお母さまとの付き合いも戻って、昔以上に仲良くなったそうだ。


 聖堂からカナリさんを迎え入れたアイザさんは早々に引っ越しした。――と言っても、文官棟なのは同じで、もっと広い所。お父さまの執務室のように。さすがに独り暮らし向けの小さな部屋では手狭だったのかなと思ったけど、後のカナリさんの話では、夜中に隣の文官からアイザさんに文句が来たのだそうだ。そんなにうるさかったかしら?――と首を傾げるカナリさんの姿が今でも頭にこびりついている……。


 そのカナリさんはというと、寮の先生に就任した。なんでも、私たちが変な名前をつけたショートパスタに興味が湧いたらしく、おいしい料理を生徒たちに振舞ってあげたいと意気込んでの選択だった。料理の相談もされた。寮の先生の仕事じゃないような気もするんだけどね……。既に3児の母なので、次の引っ越しも近いかもしれない。


 ちなみにカナリさんに横恋慕していた聖堂騎士のグレイムスは、メレアの筆頭聖堂騎士の身分を剥奪されたそうだ……。


 カナリさんと仲の良いエスラ先生は、変異術師(ソーサラー)の相性ゆえか、真実の目(トゥルーシーイング)の呪文を習得できなかった。その代わりに、儀式魔法(リチュアル)で同様の効果をもたらす呪文を開発することに成功した。効果が効果だけに、使いどころが難しいけどね。そして先生の功績も徐々に貴族たちの間で認知されていき、魔術学院の学院長として誰からも尊敬される存在となっていった。


 弟のエスロさんはなんと、石よ意のままに(ストーンシェイプ)の魔術で既に完成済みの石造建築を自在に加工してしまう。エスロさんがどうしてもこれだけは憶えたいと、姉のエスラ先生の元、習得したのだそうだ。この呪文、第4位階のかなり難しい変異魔術(ソーサリー)なのに。エスロさんは去年、タリーティアさんと結婚した。


 その妹のカアヤさんは、オブリージアさんの卒業後、5回生にして生徒会長に就いた。投票で決まったのだけど、カアヤさんの場合は聖女だったカナリさんとの付き合いの深さが大きい。それからは、神殿の生徒が蔑まれることも無くなり、神殿からの特待生も増えていった。そして、卒業後にギレさんと結婚した。


 カアヤさんの仲間のマルギットさんは、貴族の養子として他所の貴族に嫁いでいった。あの人、ちょっとクセがあるけど大丈夫かななんて思うんだけどね。もうひとり、ミルアリエさんはドバル家の第二公子の息子のひとりと去年、結婚した。トリアさんも同じ屋敷で暮らしているので、困ることは無いと思う。トリアさんは、相変わらずライハルトさんに愛されている。


 神殿のゼナ先生も6年前に結婚。仲のよかったトリアさんとの付き合いも増えて、今はドバル家に金細工を収めたりしながら、神殿で先生を続けている。シグヴァルドさんから過剰な寄付を止められたらしく、お金の使い道も改めたみたい。やっぱり、お金は現実の生活のために使わなきゃね。ミルマキアも言っていた。


 そして約束通り、私がたくさん稼げるようになったから、ミルマキアを雇い入れることにした。相変わらず、お金を数えるのが大好きなミルマキアだった。人のお金なんて数えて楽しいのかと思ったけど、『人には分相応というものがあって、たくさんお金を持つと上手に使わないといけない責任が付きまとう。所有権が他人のうちは、私も気楽に付き合えるから』――と彼女は語る。


 エスカイユさんは、ときどき私の元へやってきて、アイリアとの秘密のやり取りをしたり、王都での情報を寄越してくれたりしていた。大賢者になってもそれは変わらない。ただ、半分くらいは私の顔とミシャカラさんの顔を見に、お茶にくるのが目的かな。


 アイリアは、テロキさんとの第一子がようやく生まれた。テロキさんに似た金髪の男の子だ。ファルツ宮中伯も納得の跡継ぎだけど、ふたりにとっては性別なんてどっちでもいいよね。ただし、子供が生まれてからも相変わらず、私は呼び出されて(ねや)の相談というか、猥談をされてる。おかげで、王城でテロキさんと顔を合わせたりなんかしたら、お互い気まずいわ、恥ずかしいわで笑ってごまかすのが精一杯。


 なんとかしてよ、あの国王!



 お父さまは多くの建物の設計に(たずさ)わり、大通りの周辺に高層建築をいくつも生み出した。水道橋からの水を引き入れ、魔鉱で温水を生み出した。王城では床下に温水を通し、冷たい石の床に床暖房を備え付けた。その加工はエスロさんが担当した。


 そのお父さまのおばあさま、私の祖母に当たる人が、お母さまにケチをつけてきたことが一度あった。けれど、お母さまが元公爵家の血筋と知った途端、あたふたと翌日には領地へ帰っていった。失礼な人だよね。


 お母さまは一足先に学院を卒業し、お父さまの仕事を裏で支える王城の文官として就職した。子供も、学生の間に次女――妹のアンリアを出産した。ときどき、アンリアを連れて授業を受けたりしていたものだから、お母さまの周囲では婚約を早めた女の子もいたとか。そして、お母さまの祝福は良妻。これからも、お父さまと幸せな家庭を築き続けていってくれるはず。


 お母さまのお父さま。マルエルおじいさまは、ラジエルに復讐を果たした侍女のひとりを夫人に娶った。他の侍女たちについても、結婚相手を世話してあげたり、田舎へ帰る者には大金を持たせてあげたり、彼女たちの望みに応じて手厚く遇したそうだ。



 私はジョスタさんの引退と共に大賢者となった。ジョスタさんは私の補助に回ることとなり、さっそく最初の助言をくれた。大賢者として舐められないように、ちょっと偉そうな老人っぽく喋るといいと。とにかく本人は、しばらく休暇を取りたいと言っているそうだ。お疲れさま。


 これから大賢者としてやるべきことはたくさんある。なんでも望みのままかもしれないけれど、私がこうしてここに立てたのは、長い時の中で私が頼ってきたひとたちのおかげ。みんなの想いを裏切る事なんて、できないよね。







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