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貧乏貴族から成りあがれ! ~独り身イズミの転生譚~  作者: あんぜ


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第73話 ミルヌとゼブル

 ある日の放課後、約束を取り付けてライハルトさんにカネラを連れて会いにいった。ライハルトさんからは、ぜひお礼をと食事に招かれていたし、私も知りたいことがあった。


「よくぞ来てくださった、大賢者殿」


 (いか)つい顔のライハルトさんは、眠っていた時とは違って随分と健康的に、いくらか丸みを帯びた顔になっていた。


「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます、閣下」


 すると、フッ――と微笑むライハルトさん。


「アンリットが初めてここへ来た時を思い出しますな。あの時も、たった7歳の娘が、儂の前で物怖(ものお)じせず、大人の貴族でも言葉にせぬような考えを次から次へと語ってくれました。当時の儂は、これはきっと何か、神々から大きな使命を背負った娘に違いないと思ったものです」


 私に席を勧めながら、そう語った。


 ライハルトさんは、アンリットの養父だったと本人の口から聞いていた。当時、誘拐されたアンリットは王都の東のメレア公に保護され、血族の当主であるライハルトさんの元へ送られてきたのだそうだ。


「私はそんなに似ていますか?」

「ふむ、確かに顔は似ていないかもしれませぬ。ドバルの血よりも、カーリーの血の方が、繊細な美しさがあるのでしょう。ですが、その鷹の瞳孔(ラシス)のような美しい黒髪と、中身は変わりませぬな」


 それからお茶とお菓子を頂きながら、ライハルトさんは当時のアンリットの話を色々と語ってくれた。公爵である彼の前でも平気で感情的になって声を上げたり、突飛な行動で側仕えだったデーテ先生と護衛のミシャカラさんを困らせたりと。そして、そのふたりはどこへ行くにもアンリットの傍に仕えてくれていたという。


(ふたりとも、前世の私によくしてくれたんだ……)


 アンリットを失ったミシャカラさんの動揺も分かる気がした。



「実は、閣下にお聞きしたいことがひとつございまして……。もし、私が聞くべきでない事なら聞き流してくださって構わないのですが……」


 頃合いを見て、話を持ち出した。


「なんですかな? 大賢者様に答えられることは、儂には多くありませんが」

「私が誘拐されたことは御存じですか? その際に、とある地下牢へ閉じ込められたのですが……」


 そう言いかけると、ライハルトさんは人払いをしてくれた。


「デーテから聞いております。もしかして、あの石像を目にされたのですかな?」

「はい、『犠牲になった少女』の意味を知りたくて」


 ふむ――と神妙な面持ちで一息ついたライハルトさん。


「7年前の当時、我々には魔族の味方がおったことは御存じでしょうか?」

「はい、聖女様からお聞きしました」


「そのゼブルという魔族、ヴィコント子爵を名乗って魔術学院の教師をしておりました」

「教師ですか!? それにヴィコントって……」


 ヴィコントは確か、元の世界では子爵。それもフランス語か何か。異世界人?――って思ったけど、魔族じゃ違うよね。


「ええ。教師として生徒たちに……特に、エスラ学院長に熱心に魔術を教えておりました。アンリットも、そのゼブルに魔術を教わったり、魔族と戦うために協力させたりしておったのです。事実、魔族たちの王都の乗っ取りは阻止され、首魁(しゅかい)たちも討たれました」


 そこまで語り、溜息を漏らすライハルトさん。


「――ですが最後の最後に、そのゼブルに裏切られたのです」

「エスラ先生が魔族の侵入を神経質なまでに警戒しているのは、その魔族に裏切られたせいなのですね」


「ええ、ゼブルはアンリットの魂を望んだそうです。そのゼブルが、最後にアンリットからの願いで、ミルヌという魔女の心臓を、バジリスクの水晶体(クリスタリン)という針で突いたのです」

「ですが分かりません。その魔女は魔族と結託していたのですよね? 敵なら殺せばいいだけのはずです」


 すると、居住まいを正すライハルトさん。


「ここまでは聞いた話。儂が知っておるのはここからです。ゼブルは、再び儂の前に現れたのです。そして言いました。あの石像は、アンリットが約束を果たすべき友人なのだと。それが実現される時に、再び目覚めさせよと。確か…………」

「アイスクリームと、ふわっふわのソファー……」


「そうです。意味は分かりかねますが、確かそのような事を言っておりました」


 そのミルヌの事は憶えていない。けれど、前世の私が約束したのなら、そんなことは承知の上での約束なのだ。じゃあつまり、アイスクリームと、ふわっふわのソファーをあの子のために実現させなきゃいけないってことだよね。


「――そのことがあって儂は、学院の寮が建てられるときに、地下牢をそのまま残させたのです」

「よく、魔族の話なんて信用される気になりましたね」


 私はちょっとだけ笑いながら返した。


「誠に。ですが、あのゼブル。最後の裏切り以外はアンリットに従順でしたし、何よりも儂の勘が告げたのです。人を(おとしい)れる魔族の言葉にしては、あまりにも無意味な助言だ――と」

「なるほど。私も、そのゼブルという魔族の言葉を信用してみようと思います。ミルヌが友人と言うなら、いずれ私の手で、蘇らせてみせます」


 女神さまがわざわざあんなフレーバーテキストを残しておいてくれたんだもん。間違いないよね。


「――ところで、そのゼブルという魔族はその後……?」

「機会が来るまで存在を消すと。そして、『転生者』なる者への伝言を託されました。」


「伝言……ですか。その『転生者』というのは、おそらく私の事です」

「ええ。ゼブルは言いました。『次を楽しみにしている』――と」







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