第71話 レンネブルク家
エスカイユさんから、処分を下されたレンネブルク家の聴取の報告を貰った。大賢者のお仕事の一環としてね。
ユリアンについてはラネンシャが、その容姿ゆえに小姓として取り立てた。最初はもしかすると、ユリアンがラネンシャを魅了したのかもしれない。夫が他界すると、ラネンシャはお気に入りのユリアンを夫に迎え、さらに王都のレンネブルクの屋敷の主人の地位に就いた。ちょうどこの頃にライハルトさんは襲われた。
ユリアンはその後、レンネブルクの本家であるレンネブルク領にも接触した。その本家に居たのがロゼリア。黒髪の直毛というこの世界では極めて珍しい容姿で生まれた彼女は、その容姿から半ば忌み子のように扱われていた。まあ、私も経験あるからわかる。それを、ユリアンが知の化身の生まれ変わりとして見出したのだそうだ。
おじいさまのマルエルを襲ったのはこの本家。目的は、ロゼリアを大賢者にするための障害だったから。
ロゼリアを大賢者候補に祭り上げた頃から、ラネンシャはユリアンの支配を喜んで受け入れるようになっていた。当時すでに、彼女はユリアンが闇に生きる者だということを知っていた。その上、気に入らない相手や不都合な相手は、あの侍女たちのように隷属者に変えていた。エスカイユさんが感じ取ったという邪悪さは、ラネンシャ本来の性質によるものだったのだろう。
王都での計画の多くは、ラネンシャが立てたものだという。
第十騎団のミシャカラさんのアンリットへの執着を利用し、ロゼリアに引き合わせ、ミシャカラ派へ積極的に取り入った。大臣を説得して味方につけたのも彼女だし、あのカイルラント子爵をレンネブルク家の王城での代弁者に仕立て上げたのも彼女。広場では、私が何か仕掛けてきたときのためにミシャカラさんを配していたし、もしもの時のために隷属者まで儀式に参加させた。ザッカースよりずっと狡猾。
ただ、カネラを引き入れたのと、私の誘拐はユリアンの指示だったそうだ。
カネラはラネンシャの目には利用価値がなかった。じゃあなぜ引き入れられた? カネラの話では、彼女はかつて、ザッカースに唆されてアンリット誘拐に加担したのだそうだ。もしかすると、カネラならまた使い道がある――そうザッカースは考えたのではないだろうか。さらに言えば、拳闘士が敵に回るのを避けたのかもしれない。
計算違いだったのは、カネラが思った以上に心を入れ替えていたことだったろう。
そして私の誘拐。なぜ、私はあの牢に閉じ込められたのか。ユリアンは、なぜあの地下の秘密の牢を知っていたのか。始末するならさっさと殺してしまえばいいだけの話。
…………これは私の推測でしかないけれど、もしかするとユリアンは、あの牢のミルヌを蘇らせる方法を知りたかったのではないだろうか。知の化身の生まれ変わりの可能性がある私に、ミルヌとマルグリードを復活させる方法を聞き出そうと。
ただ、少しだけ思う。
マルグリードはともかく、あのミルヌ。エスカイユさんによれば、魔女ミルヌは魔族と結託し、王都を滅茶苦茶にした邪悪な魔女。だけどどうしてか、私にはあのミルヌの石像が悪い魔女には見えなかった。『マルグリードを封じるため、犠牲になった少女』――そう鑑定にはあった。そしておかしなフレーバーテキスト。女神さまはふざけていても、嘘は吐かない。
これについてはひとりだけ、真実に近い人物がいる。その彼に話を聞かなければならない。
ロゼリア本人はと言うと、不遇を救ってくれたユリアンに忠誠を誓い、憑依によって賢者の祝福を得ていた。たぶん、ラノベの主人公みたいな感じで、気分良く伸し上がっていってたんじゃないかなって思う。さしずめユリアンは、変身アイテムをくれる魔女っ子モノの不思議生物だろう。仕方がない所もあるよね。
アンリットのものだと偽った過去の記憶も、実際にはザッカースの記憶に基づいたものだから、聖女様についてはやたら詳しい。あまりに詳しすぎて当の本人からは疑われていたけどね。アイリアについても、勇者としての活躍くらいしか知らないからアイリア本人からは信用されてなかった。彼女は彼女で不審を表には出さないけどね。
だいたい、生まれてすぐの頃の記憶があるとか無いよ。それこそラノベの主人公じゃあるまいし。
レンネブルク家は首謀者であるラネンシャとロゼリア、レンネブルク男爵が斬首され、他の者は地位を剥奪された。レンネブルクからはドバル公とマルエルへ多額の賠償金の支払いが命じられ、領地そのものはメレア公の管理下に置かれた。
ロゼリアが実際には生きていることは公然の秘密。実刑を受けた者が少ないのも、この土地の死生観かな。首を刎ねられると魔法でも蘇生できなくなり、神の元へ逝くことも、生まれ変わることもできなくなると考えられ、恐れられているから。本当かどうかは知らないけどね。
たとえ処刑されなくとも貴族同士の繋がりが失われるだけで致命的だし、何より賠償金の捻出がやばい。国が大きな牢獄を所有していない代わり、貴族は一家に一台どころか、それなりの大きさの牢を誰もが所有している。支払いが滞る場合、貴族側で勝手に関係者を投獄したり、嫡子を人質に取ったりする。自害したとしても、その上で首を刎ねられることさえある。
ロゼリアの場合は、本人が処刑されたと公表されたことで血族とは完全に縁を切られている。賠償に関わっていない可能性もある。逆に言えば頼るべき人が居ない以上はこれ以上何かをしたくてもできない。じゃあそんなロゼリアを、誰が面倒をみてくれているかと言うと…………




