第70話 陛下の悩み
アイリアは国王になってからのことを話してくれた。彼女はテロキを護るために、円卓会議で国王となり、王国を魔族から護っていくことを誓った。そのために、治世についても当時の大臣、ライハルトさんから学んだ。
実の所、ライハルトさんはアイリアの遠縁にあたるらしい。どおりで彼のために離宮を使わせるはずだ。とにかく、そういった関係もあってライハルトさんは、アイリアが務めを果たしている限りは、厳しくはあれど五月蠅くは無かった。ちなみに、アンリットもドバル家の者だけど、ライハルトさんの養女だったことは先日、知った。上手くやったな、前世の私。
私生活も割と自由だったため、テロキとは恋人のような時間を過ごすことができた。子作りもそんなに慌てていなかったらしい。別に数年くらい、子供ができなかったりするのは、日本じゃ珍しくもない。地母神様の秘儀のせいで初子を急ぐ、この辺りの習慣が普通じゃないだけ。
ただ、ライハルトさんが襲われ、ファルツ宮中伯が大臣になってからは違った。ファルツ宮中伯はアイリアに子が無いことを咎めた。勇者として、公爵領を統治する者として、早期に子を生せと詰め寄ったのだ。
この辺にはたぶん理由がある。ぽっと出の勇者ってのは、力のある平民でしかない。たぶん自由過ぎて貴族たちからは持て余すのだろう。子を生し、護っていくなら、徐々に貴族としての生き方に従わざるを得なくなる。歴代の勇者が公爵領を与えられてきたのもそのひとつ。領主としての責任を負わせるのだ。ライハルトさんは身内だから信用してただけだろう。
「ですが、地母神様の秘儀に従えば、初子を生すことくらい、そう難しくないのでは?」
「私は純愛の女神様に仕えているから、地母神様の秘儀には通じていないんだ。だから、経験豊富なイズミに助言を貰おうと思ったんだよ!」
経験豊富…………経験豊富!?
「もしかして、アイリアの悩みってそれ!?」
「そう! 真剣に悩んでるんだよ!?」
女王陛下の悩みがいちばんしょーもなかった……。
がっくりと肩を落とす。
純愛の女神さまは恋人たちの恋愛を祝福する神。だから、ふたりの間に生まれる子供については急がないのだろう。そこが豊穣の女神とは大きく異なるところ。
「――大臣ったら酷いんだよ! テロキとふたりの寝室に、地母神様の秘儀に詳しい侍女を遣わせて、恥ずかしいったらないの! 父と母がちょっと嫌そうにしてた理由がやっとわかったよ……」
父と母……いったいどういうことなのか。
「――おまけに、あれはダメ、これはダメっていちいちうるさいんだ。最近なんて大臣は、テロキがダメなら他に王婿を取れなんて言い始めて!」
アイリアが涙目で訴えてきた。
「それはダメだね……」
「でしょ!?」
仕方が無いので、私がわかる範囲で相談に乗ってあげた。一応、知識だけは日本で得たものと、こちらの世界で何度も聞かされてきた地母神様の秘儀があるからね。ただ彼女……どこから知識を得たのかすごくイレギュラーなんだよね……。そりゃ、侍女もダメっていうよ――みたいなことばかり。
「とりあえず、テロキさんに無茶をさせないで、アイリアが寝転んで大人しく受け入れるところから始めよっか……」
「ええっ、ダメなの!?」
中身は転生者とは言え、7歳の子供に相談するような事じゃないんだよ……。
そもそもね、こっちは結婚したことすらないんですけど!?
とりあえず、アイリアにおかしな知識を植え付けたやつ。会ったらぶん殴るって決めた。




