第69話 夕餉
客室に案内され、シャワーを済ませた後、宴に招かれた。それはともかく、着替えの途中でバルマシアさんがやってきて、部屋の内装が自分の所と違うだとか、アンリットの昔話だとか、勝手に喋りまくるのでカネラに追い出されそうになったりしたんだけどね。その後にやってきたシャルヴィエさんも混ざってふたりで好き放題喋ってた。
さて、3人一緒に居ると、迎えの侍女がやってきた。
大広間にしては小さめの――それでも十二分に大きな――テーブルと席が用意されていた。
「バルマシア、そこは陛下の席です。少し考えたらわかるでしょう!」
シャルヴィエさんに注意されるバルマシアさん。
「構いませんよ、どこでも。私はアンリエットの傍で皆に囲まれてる方が好きです」
そう言って、私が案内された席の隣へ主人であるはずの陛下はさっさと座ってしまった。私はいいんだけど、給仕の人たちや後から来る人たちが困るよね。
「これはいったい、どこに座れば良いのでしょう……」
やってきたエスラ先生も困り顔。そりゃあ貴族の常識からすれば、もう無茶苦茶な席順だからね。
「こうなってはもう上座も下座もない、好きに座りなさいエスラ」
そう言って、シャルヴィエさんが勝手に無礼講を宣言すると、エスラ先生は私の対面に座った。次にやってきた聖女様も同じような反応を見せ、エスラ先生の隣に座ると、私の周りに皆が集まったみたいな混沌としたテーブルができあがってしまった。テロキさんは、長いテーブルのちょうどバルマシアさんの反対側に離れてちょこんと座り、ジョスタさんはその傍に座った。
そして最後に――
「師匠。ほら、皆さんお待ちかねですよ」
そう言ってエスカイユさんに腕を引かれてやってきた人物。ミシャカラさんだった。
「ミシャカラ、遅いぞ! 料理が冷めちまう、さっさと座れ!」
「これについてはバルマシアの言う通りですな、ミシャカラ。さあ、さっさと座りなさい」
バルマシアさんとシャルヴィエさんが促すと、ミシャカラさんもエスカイユさんと共にテーブルに着いた。そして陛下が立ち上がり、杯を掲げると、皆も杯を手にした――
「あの日以来の仲間が再び集まったことを祝おう! 我々はアンリットの死を境にバラバラになってしまった。それぞれに想いはあっただろう。だが! アンリットの生まれ変わりを、わずか7年で再び迎え入れられたこと、全て聖女カナリのもくろ…………いや、預言通り!」
(いま、目論見って言いかけた!)
「話が長い! おまけに堅いぞ、アイリア!」
「わかったわかった。では、新たな大賢者の誕生を祝って! 乾杯!」
「乾杯!」
そうして酒を酌み交わし合い、再び彼らはひとつとなった。
まあ、私はお酒、苦手なので水くらいに薄めてもらったけどね。王都の水道の水はおいしいから。
◇◇◇◇◇
「……アンリエット様。その、あなたは本当にアンリエット様なのですか?」
弱々しい声でミシャカラさんが問い掛けてきた。
「まだ疑うのですか、ミシャカラ」
「自分の判断に自信がなくて……」
ただ、口を挟むシャルヴィエさんを、聖女様が手を掲げて制した。
「人の心の拠り所というものは、理屈では語れませんよね。――アンリエット様。アンリエット様なら、この豚肉。旅先でどうやって焼かれます?」
「旅先でですか?」
おかしな質問を始めた聖女様。
「はい。強い火でひと息に焼いて終わりですか?」
「いえ、それだと硬くなりすぎて……でも、それがいいという人も居ます。――もし私が焼くなら、火から離して炙るか、もっと簡単な方法ならフライパンを小魔法で熱して休ませながらゆっくりと火を通していけば、やわらかくてしっとりした焼き上がりになりますよ」
そう答えると、聖女様はニコリと微笑んだ。さらにバルマシアさんが――
「じゃあ、そこに芋があったらどうする? アイリアは芋が嫌いなんだと」
「豚肉を焼けば脂がたくさん出ますので、それでじっくり揚げて塩を振れば、塩と脂の魔法で苦手な方でもいくらでも食べられますよ。ただし、太りますけど」
「ほらな? アンリットだ」
「…………本当に…………アンリット様です…………」
エスカイユさんがミシャカラさんの涙をぬぐう。
「だからあたしは最初からアンリットだって言ってたろ」
「嘘おっしゃい」
笑い声と共に夕餉は遅くまで続いた。
◇◇◇◇◇
夜、ようやく寝るようになって、寝室に陛下の侍女がやってきた。そして、陛下の寝室へ呼びだされる私。
(いやでも、陛下の寝室って王配殿下もいらっしゃるんじゃ……)
寝室に通され、おそるおそる顔を出す。
「アンリエット様をお連れしました」
「ありがとう。他の者は外していいよ」
そうして、寝室に女王陛下とふたりだけになった。
「はあ、やっとゆっくり話せるよ、イズミ」
「あの、陛下。いったいこれは……。王配殿下は?」
「テロキは外してもらってる。それよりもイズミ、私に助言をしてって言ったよね!?」
「助言って、陛下…………国王への助言って意味じゃ…………」
「そうじゃないよ。それに陛下なんて呼ばずに、昔みたいにアイリアって呼んでよ!」
「いやあそれは……。それで、助言って?」
「それはね――」




