第48話 賢者の戦い
(こんなに魔法の光弾って数が出たっけ……)
呪文で呼び出した光の弾。ひとつひとつの威力は弱いけれど、光弾は誘導され、ある程度の大きさの目標には必中。ただ、その数が記憶にないくらい多かった!
いや、それよりも――
「その女は人間ではありません! 馬車の後ろにもうひとり、女が取り付いていますがそちらもです!」
馬車にも聞こえるように声を高くする。鑑定によって現れた女の名札はレミアとオシーナ。どちらもカネラから聞いていた、私を襲ったレンネブルクの侍女。ただ、少なくとも今は、どちらも死体。中身はこの世界でも初めて見る、血の眷属だった。ご丁寧に探知妨害まで掛かっている。
ただ、警告にもかかわらず、オシーナの身体を奪った血の眷属は躊躇せず詠唱を始める。
(だめだ! 話して分かる相手じゃないのに!)
アンリエットの気持ちが邪魔をして、どうしても最初から非情になりきれない。交渉なんて通じる相手じゃないのに!
光弾を放つも、オシーナは詠唱を間に合わせる。魔法の盾をその手に顕現させ、光弾を掻き消してしまった! 魔法の盾は容易に魔法の光弾を阻む能力がある。
さらに、馬車!
悲鳴と共に、馬車がガクンと揺れた! 反対側から持ち上げられたのか、馬車は大きく右へ傾き、御者は御者台から放り出された。
(なんて怪力!)
ただ、馬車の戸が開くと、駆け上るかのように飛び出した人物。斜めになった馬車の側面に脚を掛け、手にした身の丈ほどの杖の先を、馬車を持ち上げるレミアへ向ける。
「衝撃波!」
ドン!――とレミアは尻もちをつくように石畳で一度バウンドし、弾かれる。
同時にその人物は、馬車の傾きが戻る勢いに逆らわず、石畳を転がって受け身を取った。
「――やはり王都にも居ましたか。まさか襲われた女を装うとは……」
立ち上がったその長衣に大外套の人物は、エスラ先生だった。
こちらはというと、既に次の呪文の詠唱を始めていた。
対して、エスラ先生は短い詠唱を。
「火球!」
「小さな落とし穴!」
私が放った赤い槍は、着弾すると同時に直径6mの火球となり、魔法の盾を構えて身を護るオシーナを焼く!
同時にエスラ先生の杖が立ち上がったレミアの足元を薙ぐように指し示すと、地面に突如開いた黒い穴へ、レミアは膝まで埋まった!
さらにエスラ先生は続けざまに詠唱を。
「火球!」
動けずにいるレミアへ赤い槍が迫り、避けられないまま火球に包まれた。
そうして、レミアとオシーナはやがてどちらも動かなくなった。
「大丈夫ですか!? お怪我は?――上空の方、どなたか存じませんが助かりました。ありがとうございます」
エスラ先生は馬車の中へ声を掛けてから、こちらへ礼を言うと、投げ出された御者へと駆け寄り治癒魔術を詠唱した。
私は透明化したまま、エスラ先生の近くまで降り、話しかける。
「これらは皆、血の眷属です。しかも階級が隷属者となっていて、大首領に忠誠を誓っている様子。元の死体はレンネブルク家の侍女、レミアとオシーナです」
鑑定で得られた情報をエスラ先生へ伝える。
「血の眷属!? アンリット様が滅ぼしたと思っていたのに……」
「私も初めて見ました。王都にはこんなものが居るのですか?」
「アンリット様も初めて見たと。――初めて見たのに血の眷属がわかる……あなたはいったい、何者なのですか?」
「…………」
エスラ先生ならいいかな――と、答えようとして思いとどまる。馬車の中の人物に聞こえてしまってもいいのだろうか。さらに、視界に入る別の名札。
血の眷属は滅んではいなかった。私の鑑定の力のもと、白い靄のようなものに名札が浮かび上がったのだ。それは、血の眷属が物質界から妖精界が逃げた姿――霧化という能力だった。
(妖精界に逃げられると、直接攻撃する手段が無いんだよね……。それこそ聖堂騎士の祈りでもない限り……)
ただ、ふと思い出した。そういえばアンリエットって祈りが主神様に届くんだった。だったらもしかすると……
「――英霊たちを称えよ、その黄金色の輝きと共に! 主神は統べる、この低き地を! 輝きの護乙女たちよ、祈りを天へと運んでおくれ! 主神は統べる、この低き地を!――」
聖堂のお決まりの祈り文句。意味はわからない。そもそもなぜ低き地なのか。天に比べて低いからだろうか。ともかく私は天を仰ぎ、祝祷をあげ続け――
「――|退散せよ、この世ならざる存在よ《ターン・サモンドビイング》!」
聖堂のシンボルは持っていなかった。だから両腕で形作る。それはちょうど、長剣を天へと掲げた形。この世界での『剣』という文字。まあとにかく、光線は出ないけど両腕で形作った。
するとどうだろう。そのふたつの血の眷属の隷属者は、オオオオ――と、地の底から響くようなくぐもった低い声を上げ、去っていったのだ。




