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貧乏貴族から成りあがれ! ~独り身イズミの転生譚~  作者: あんぜ


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第47話 秘めたる力

エスカイユ先生マギステル・エスカイユは竜騎士様から学ばれたのですか?」


 ユイリスが問いかけた。なんでも、竜騎士は女性だったという噂話が最近、1回生の間で出回っているのだそうだ。本当かどうかわからないけどね。


「いいえ、私は父から教わりました。まあ、あまり自慢のできるような父ではなかったのですけどね。騎士の祝福があると(うそぶ)く、しがない傭兵崩れでした。この学び方も、当時の私には理解できませんでした」


 いくらか自嘲するように語るエスカイユさん。


「――ただ、女の私には、無理をしてもなにもいいことはなかったのです。重い剣を独り、毎日千回、万回と限界まで振りつづけて強くなったというなら、その人は最初から選ばれた者だっただけなのです。常人である我々は、日々を積み重ねるしかありません」


 同じことをただ繰り返しただけで強くなれるなんてのはラノベの主人公だけ。そしてこの世界はゲームじゃない。100回、ただ剣を振ったからといって、1%の致命打(クリティカル)が発生するわけじゃない。100回全てハズレが現実なのだ。だから型を身体で憶えさせる。


 そしてスポコンよろしく、無茶をすれば強くなれるわけじゃない。彼女の父親は、所謂(いわゆる)、生存性バイアスというものをよく理解していたんじゃないだろうか。力ない者の学び方を。



 さて私はというと、もともと身体を動かすのが得意ではない上に立ち回りが大人らしく(さか)しいこともあって、身体を使うことをとことん避けて、いくつもの人生を歩んできた。だから、剣術なんてものは、とてもじゃないけれど習得していなかった。


 ――はずなのだが……


「さすがに騎士を目指している皆は基礎ができていますね。特に君――」

「私!?」


「アンリエット君。君がいちばん美しいです」

「私が!? 美しい!?!?」


 剣術の型のことなのはもちろんわかっていた。いや、剣術の型にしても、どうして褒められているのか。そして、どうして私はその言葉に舞い上がっているのか。


「――わ、私はその、美しくなんてなくて――ではなく、騎士を目指してはいないのです」

「そう? その恰好、騎士を目指しているのかと思いました。それに、君の盾の構え方はとても堅牢に見えます。特に、小さな身体でもしっかりと衝撃に耐えられるような、膝が柔らかく重心も低い、とても実戦的な工夫(アレンジ)です。何か戦った経験が?」


「そういうのも……ないです」


 おかしい。剣術は習った覚えがない。もしかすると習ったこと自体を忘れているのかもしれないけれど……。


 その後、女子の中で次に上手と褒められたユイリスと、前へ出て型の模範をしてみせると、確かに自分は剣術をどこかで習ったのだと確信するようになった。そして、騎士を目指す女子たちからは拍手を貰えたけれど、ジョゼファたちからは嫉妬の目を向けられた。


 そしてロゼリア。


 ロゼリアは運動が得意ではないみたい。ただ、ジョゼファたちのように私に敵意を向けているだけかと思いきや、彼女はエスカイユさんをチラチラと見ていた。そしてそれは他の女の子たちのような好意ではなく、警戒の眼差(まなざ)しのように思えた。



 ◇◇◇◇◇



 夜の闇に紛れ、屋根裏部屋から飛び立つ。小魔法(キャントリップ)で身体を暖かく保ち、念のため、透明化や探知妨害(ジャミング)の呪文をかけて。魔術の触媒の問題については解決した。デーテ先生が援助してくれることになった。


 夜の瞳(ダークヴィジョン)の呪文を掛けると、暗闇を見通せるようになる。この呪文は、極端に明るい光の元では逆に視界が失われるけれど、遠く離れた地上の灯り程度なら、昼間のように明るいだけで邪魔にはならない。


 王都の建物の窓には玻璃(ガラス)がたくさん使われている。大きな一枚板の玻璃(ガラス)ではない上、表面に装飾の凹凸がついていることも多いので、建物の中までは容易には見通せないことが多い。何より、人のいる部屋は断熱の必要もあってカーテンがあるからね。


 ただ、人目を避けて闇に生きる連中を探るには困らない。魔族が跋扈(ばっこ)できるような魔王領ならともかく、王城ともなれば昼間に大手を振っては歩き回らないだろう。となれば、活動するのは夜。そう思って、一昨日の夜から寝る前に夜回りを始めてみた。



 暗闇の中、移動する小さな灯りが見えた。一見、自動車のヘッドライトのようにも見えるそれは、ブルズアイランタンと呼ばれる灯りの特徴。ただ、炎のような心許ない灯りではなく、光源は魔法的なものだとわかる。


(馬車? こんな時間に北門を?)


 その灯りを灯した箱型の四輪馬車(ワゴン)は、どうやら北門を抜けてきた様子。北門とは、大通りを貴族たちの住む街と平民街とに隔てる大きな門で、夜の間はいくつもの扉と落とし格子で遮られていた。その、門のひとつが閉じられようとしている。


 灯りの魔法がある今では、夜中に時々行き来する馬車は珍しくない。けれど北門は、夜の間は治安のために閉じられていると聞いていた。


(よほどの急ぎ…………それも権力のある人物)


 ただ、その馬車を確かめようとして、進路上に人影を見つける。よろよろと、馬車の前に進み出てきたその()()()()()()が……。私は上空で呪文の詠唱を開始する。


 馬車は、馬の(いなな)きと共に、僅かに右へ振って急停車した。


「何事ですか!」

「ご主人様、それが、女が飛び出してきて……」


 馬車の中から女の声と、それから御者との会話。

 路上の女は、侍女のお仕着せを着て、靴も履かずにいた。


「お助けください! 男に襲われました! どうか、(かくま)ってください!」


 助けを乞う女の衣服は確かに(はだ)けていた。馬車の声は――


「それはお困りでしょう。こちらに――」

「なりません!」


 バン!――光弾が侍女姿の女の前、石畳にぶつかり炸裂する。


「――それ以上進むと当てますよ!――それからもうひとり! 馬車の陰に隠れたそちらも、動けば容赦しません!」


 私の周囲には、(まばゆ)い8つの光弾が浮いていた。







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