第45話 行動開始
「わかりました……本当に変わらぬ真実などというものがあるなら、私も見てみたいです。それで、何をすれば?」
長い沈黙の後、オブリージアさんはデーテ先生に答えた。
「我々はアンリエット様の祝福について、陛下へご報告するつもりです。オブリージアさんは、お母上をお護りしてください」
「それは言われなくとも――」
「いいえ。アンリエット様からの情報では、レンネブルク家自体がなんらかの力で操られている可能性があります。ミシャカラも」
そう言いながら、デーテ先生は私を見る。
「オブリージア様には力は感じられません」
そう返すと、先生は頷いた。
「オブリージアさん。常識で考えられないことが起こりうると思うのです。先日もアンリエット様が命を狙われたばかり。それに……」
「王城を、何かよからぬモノが闊歩しているらしい」
「よからぬモノ……とは?」
ミルメイヤさんへオブリージアさんが問い返す。
「まだ正体がわかっていないのです。ですから、慎重に行動してください。特に、ユリアン様に近づいてはなりません。お母上も、できるだけ彼の言葉から遠ざけてください」
「ユリアンは…………あいつは母上に馴れ馴れしくするので好きではありません。あいつが元凶なのですか?」
「いいえ。確証もなく動いてはなりません。アンリエット様に鑑定していただくのが近道ではありますが、アンリエット様やあなたを危険に晒すわけにはまいりません。無理はせず、いざという時に備えるのです」
「わかりました。そのくらいであれば……」
そうして、オブリージアさんの協力を得られることになった。
「あの……オブリージア様」
ただ、こちらを向いた彼女の冷ややかな視線からは、私の味方を思わせる様子はない。
「――先日の話ですが、私はエスカイユ様とは何もなかったのです。その、ジョゼファが言っていたようなことは……。それに私も、エスカイユ様のことは何も……」
「わかっている! わざわざ口に出さないでくれたまえ。エスカイユ様が君のような小さな子を相手にするわけがない」
「はい……」
彼女のその言葉は、思った以上に私の心へ重く伸しかかった。
その後、オブリージアさんは早々に立ち去っていき、ミルメイヤさんは陛下への報告に向かった。
「それではアンリエット様。学院内であれば安全とは思われますが、十分にお気をつけを」
「ありがとうございます。デーテ先生はその……色々と考えておられるのですね」
「そう思われますか? わたくしは、アンリット様を真似ているだけなのですよ。アンリット様は様々な事に考えを巡らせ、常に最悪を想定し最善を尽くされました。そう思って頂けるなら幸いです。――ではカネラ、アンリエット様の事、くれぐれも頼みましたよ」
デーテ先生もまた、アンリット様に囚われているのだ。
◇◇◇◇◇
そんなことがあったからといって翌日から何かが変わるわけでは無かった。周囲から何か言われるわけでもなく、デーテ先生も授業ではアンリエット様とは呼ばない。
ただ、イズミの知識からすれば、貴族たちの動きが鈍いのはいつものこと。もちろん、普段の城での業務が忙しいのもあるけれど、貴族たちは自分たちの思うように事を運ばせるため、根回しを行う。
おまけに、この国は王国と呼ばれるにも拘らず、専制君主制ではない。どちらかといえば専制君主制の国が集まった合衆国のようなもの。つまり、国のトップは各国の議決権の票数で選ばれるが、実際の統治には各国から選出された優秀な文官・武官たちの影響が強く、その派閥の大きさが国の行く末を左右する。
だからたぶん、私の目に映る陛下のお顔が優れないのは、慣れない国のトップへ祭り上げられただけの、かつての勇者という存在だったからだ。国を統治する才能のない勇者であっても、ちゃんと国を動かせる代わりに、勇者が何かを変えていけるわけではない。ある意味、最強の暴力装置を祀って大人しくしておいてもらおうという仕組みなのかもしれない。
「いかがでしたか?」
ふわりと地上へ降り立ち、透明化を解除した私に、カネラが声を掛けてきた。
「ええ、ようやくお顔を拝見できました。魅了には掛かっておられません」
昼の間、私は自身に透明化と飛行の呪文、そして透明化看破無効化と視線看破無効化という探知妨害の一種をかけ、王城の天守やその周辺を探っていた。
この王城の天守は軍事的な施設ではなく、陛下とその周りを世話する者や近衛騎士が居る以外は、来客に対応するための施設がほとんど。身内の少ないアイリア女王は、離宮も利用されていなかった。そんな中で、お昼時に移動される陛下を探し、2日目に見つけられた。
「――ただ少し、お疲れのご様子でした」




