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貧乏貴族から成りあがれ! ~独り身イズミの転生譚~  作者: あんぜ


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第40話 王配殿下

「なっ、ズルいぞお前! 拳闘士(ケンプファー)のクセに!」


 シアンの首筋へと突きつけられたナイフにヒューペリアが文句を言う。

 カネラがナイフを手にしていたと考えれば、先ほどまでの急所ばかり狙った流れるような軽い打撃にも納得がいく。つまり、刃を広げていればふたりとも既に死んでいたというわけだ。


「ズルいもなにも、ふたりがかりで棒を手に殴りかかるのはズルくないのですか? それに、拳闘士(ケンプファー)が刃物を使ってはいけないなんてルールはありません」


 私が返すと、ロゼリアはヒューペリアを睨みつけ――


「あなたが小娘をやれば済むことでしょう!」


 その攻撃的な言葉にヒューペリアは眉をひそめ、ロゼリアを振り返るが…………


「……嬢ちゃんにも少し痛い思いをしてもらうしかないよな」


 再びこちらを向いた彼女はそう呟き、短杖(バトン)で殴りかかってきた!

 同時に、私は詠唱(キャスト)を始める。


(棒を手にしてくれていてよかったです)


 ガン!――と高い音がしてヒューペリアの短杖(バトン)は大きく弾かれた。

 さらに、唱え終わる詠唱。


衝撃波(ショックスタン)!」


 ボン!――と大きな音がして、体格のいいヒューペリアの身体が一瞬、宙に浮く。

 悲鳴を上げることもなくヒューペリアは気絶した。

 そしてヒューペリアの鑑定結果には、先程までは無かった魅了状態(チャームド)の文字!


「なんですの!? 今のは!」

「第1位階の付与魔術(エンチャントメント)魔法の障壁(フォースフィールド)と、第1位階の変異魔術(ソーサリー)衝撃波(ショックスタン)です」


 魔法の障壁(フォースフィールド)は掴みかかられると効果が無い。棒を手に殴ってくれた方がよかったのだ。それを考えると、カネラは私の天敵なのかもしれない。手が早いし、組みつきが得意だから。


「あなた……平民の小娘の癖にその戦い慣れた感じはいったい……」

「あなたこそ、貴族の小娘には思えません。何者か、教えていただけませんか?」


 ロゼリアは答えない。なら、準備していた魔術を試すまで。


「――魔法解除(ディスペルマジック)!」


 隠蔽されていた足元の魔法陣が輝く! 儀式魔法(リチュアル)によって魔法解除(ディスペル)の効果を高めておいたのだ。ロゼリアの鑑定結果から魅了状態(チャームド)が消える!


 ただ……憑依状態(ポゼスト)は変わらないまま。


(簡単にはいかないか……)


「!?…………何かと思いましたけど、光っただけではないですか」


 第1位階の支配魔術(ドミネイション)対人魅了(チャームパーソン)の場合、解除された途端、術者に操られていたという事実を認識して大抵は怒りだす。だけど、それが無いという事は、対人魅了(チャームパーソン)の呪文ではない? 弱い魅了か、或いはそもそも魔術ではないのか……。


「――シアン! 何とかしなさい! 何のために雇われているのです!」

「何とかしろって言われてもね、ナイフを突きつけられてちゃ……」


 そこまで言って言葉を失くしたシアンが突然、強引に身体を捩じらせる!

 右腕を締めあげられているにも拘らず、空いた左腕でカネラを引きはがそうとする!


「往生際の悪い……」


 そう言うものの、カネラはナイフを使わず、そのまま頸動脈を締めた。

 やがてシアンは意識を失い、その場に崩れる。

 彼女もやはり魅了状態(チャームド)。仕掛けているのはロゼリア本人だ!



「そこまでです! 勝負ありましたね」


 観客席から突然、声がした。視線を上げると、そこには橙色のお仕着せ(サーコート)と鎧に身を包んだ一団。中央には、彼らに護られるように背の低い、ベリーショートの金髪の巻き毛の女の子?……いや、中性的な容姿の男の子が居た。私からしたら中学生くらいの男の子。豪華な衣装に身を包んだ、たぶん身分の高い人。


 ベルチカは両手を顔の前で合わせて頭を下げていた。こっちの世界でも謝るときはあんな感じなんだよね。たぶん、彼らに声を上げないように頼まれていたのだろう。


「げぇっ、お前は……」


 その、少女とは無縁な言葉を発したのはロゼリアだった。


「あっ、ちょっと! 逃げるな!」


 ロゼリアは慌てて逃げだした。それも階段を這うかのように慌てて。

 それをカネラが追おうとするが――


「――カネラ、構いません。それよりもこちらへ」


 私はカネラを側に付けさせた。もちろん、護衛のために。


「見事な戦いぶりでしたね。ただ、こんな時間まで学院では演習をしているのですか?」


 その男の子はロゼリアが去っていくのをじっと見送ったあと、私に話しかけてきた。私は片膝を突き、(こうべ)を垂れた。


「自習のようなものでございます。王族の方とお見受けいたしますが、無知ゆえの不躾をお許しください。わたくし、リガノ出身の平民、アンリエットと申します」


「顔を上げて、リガノのアンリエット。初めまして、王婿(おうせい)のテロキといいます」


 声変わりもまだの高い声で鷹揚(おうよう)に名乗り返したテロキは、天使のような柔らかな微笑みをみせていた。


王配(おうはい)殿下であらせられましたか。たいへん失礼致しました」


 ベルチカも両膝を突いていた。ただ、私はと言えば緊張で冷や汗をかいていた。それは、王族を相手にしているからではない。目の前の人物が、どのような相手か調べようとしたのがいけなかった。テロキその人の祝福には『魔王』と記されていたのだ!


(なんでこんな相手が王城に……王城はいったいどうなってるの!?)


 おまけに、テロキには探知妨害(ジャミング)が複数掛かっていた。正体を知られないようにしているのだろう。けれど、私は今回の転生前に、女神さまから何かの報酬で『探知妨害無効化』の力を得ていた。その力のおかげで様々な探知妨害(ジャミング)を突破できているのだけど……。


 魔王……それは人間世界にとって、脅威となる魔族を率いる存在。それが人間!? そんな話は聞いたことがない。人間が魔王として魔族を率いるの!?


 傍に居る5名の近衛騎士はいずれも人間だった。魔法で支配されたり、魔族が人間を装っているわけではない。


 ただ、テロキは何も仕掛けてこなかった。


「熱心なのは結構ですが、この寒い日に身体を壊さないように。あと、そろそろ七の鐘が鳴りますよ」

「あっ……門限が……」


 ベルチカと目を合わせ、どうしようかと戸惑っていると……


「お行きなさい。さあ」


 私とベルチカは、非礼を詫びながらその場を去った。ベルチカを護るように手を繋いで。







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