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貧乏貴族から成りあがれ! ~独り身イズミの転生譚~  作者: あんぜ


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第28話 大雪の日

 ベルチカ、そしてマイエスさんたちと、昼食後に教室で勉強会を開くことにした。ベルチカは、私にとって退屈な勉強会じゃないかと聞いてきた。けれどどうしてか、こうやって皆で勉強することや教え合うこと、その場があることは、私にとって何よりも幸せなことだと感じられる――そんな自分に気が付いたのだ。


 そんな日が続いていたある日の事、王都に珍しく大雪が降った。この国の歴史の授業で習ったばかりだけど、大昔、この地は冬になると雪で閉ざされていた。それは北の山々を形作った巨人の力が強かったからという伝説がある。王国が建国され、主神(あるじがみ)様と地母神様は協力して土地を削り取り、祝福で満たした。だから、今では平地が雪で閉ざされることはほとんどない。



 いつもなら白の館(ヴァイスハイム)で授業を受けている時間。昼だと言うのにみんな寮内にいた。窓の外は真っ白で、オオオオ――と建物の間を抜ける風が人の声のような音をあげていた。


 ほとんどの生徒が食堂か、談話室に集まっていた。外が吹雪で閉ざされると、寮の中は暗くなりそうなものだけど、人の集まる場所には魔法の灯りが常に灯されていた。私たちも食堂に集まって、魔術文字の勉強をしていた。


「ひいいいっ、怖い、怖い」


 そう言って席に戻ってきたのはラネット。マイエスたちと一緒に勉強会を始めたひとり。忘れ物を取りに、自室に戻っていた。


「ラネットは怖がりだね。寮の中なのに何も出るわけないでしょ」


 そう言ったのはハルシニア。ラネットと同じく、勉強会を始めた同じ学級(クラス)の子。


「ハルシニアも行ってみなよ! 廊下の灯りって暗いし、おまけに窓が大きくて、吹雪の中からお化けがこっちを見てるみたいで怖いんだから!」

「ちょっとやめなさいよ。お化けなんて変なこと言うの」

「あ~っ、ベルチカ意外! 優等生なのにお化けとか信じてるんだぁ」


 怖くないわよっ!――と慌てて否定するベルチカ。私もちょっとおかしくて、唇を噛んで誤魔化してしまった。


「お化け、出るんだよォォォ?」

「ヒッ!」


 耳元で低い声がして、思わず悲鳴を上げてしまった。

 振り向くと、そこにはウィルマさんとカアヤさんが居た。


「やめなさい。アンリエットがびっくりしてるじゃないの」

「あっはは。でもさ、お化けが出たって本当なんだよ。3年前くらいかなあ。この寮ができてすぐの頃。白くてぼおっとした人影を見たって生徒が居たって。カアヤ、憶えてない?」


「つまらない噂でしょ? 私はその頃、それどころじゃなかったもの」

「噂じゃないよ、本人から聞いたし! それに今でも、4階の廊下で、確かに居たはずの人影が急に消えたりすることがあるんだって」

「やだやだ、やめてください!」


 ラネットがウィルマの話に声を大きくする。


「やあね。冗談よ、冗談」

「ウィルマの話なんて本気にしなくていいからね。――じゃあ、勉強頑張って」


 そう言って、ふたりは別の席へと歩いていった。


 私たち4人は顔を見合わせる。


「まあ、大丈夫よ。だって、これだけ人が住んでるのですもの」

「そうですね。建物だって真新しいですし」


 ハルシニアにそう返した。だけど――


「アンリエット、お花摘みにご一緒しませんこと?」


 真剣な顔のベルチカに頼まれた。



 ◇◇◇◇◇



「アンリエット、いつまでも楽しそうな顔をしてこちらを見ないでくださいます?」


 廊下を歩きながらベルチカが言った。


「だって、ベルチカっていつも毅然としてて、怖い物なしって顔をしてるもの。大人みたいに。なのにさっきの顔ときたら……」

「いいじゃない。怖いもののひとつやふたつあったって」


「ふふ、ごめんね」

「いいわ。許してあげる。私のアンリエットだもの」


 ふざけて抱きついてくるベルチカ。

 そんなことをしながら化粧室へ歩いていくと――


「今日はまた、どうしたのかしら。列ができてる」


 化粧室の中のトイレへ通じる通路に長い順番待ちの列ができていた。皆が1階に集まっているからかもしれない。


「ほんとに。上の階に行こっか」



 ◇◇◇◇◇



 朝の時間、よく食堂への近道に使っている奥の階段は表側の階段よりも狭い。魔法の灯りもあって、ちゃんと明るいし建物の中は暖かい。けれど、人通りが無い上に、外の寒々しい音が鳥肌を立たせる。


「なんだか薄気味悪いわ」

「みんな、上のトイレに行くのを避けてるのかな」


 階段を上がって、2階のトイレに行こうとするとベルチカが腕を引いた。


「2階と3階はお金持ちの家の生徒のための部屋ばかりだから、4階に行きましょう。2階なんて、侍女が何人か寝泊まりできるくらい広い部屋なんだって。公国や辺境伯のお姫様みたいなそういう子向けって話」

「トイレも違うのでしょうか?」


「どうかな。金ぴかだったりして!」


 ふたりでクスクスと笑いながら上の階を目指す。

 誰ともすれ違わない階段は、だんだんと、どこか別の場所に繋がってるんじゃないかと思うような不気味さが感じられてくる。


 オオオオオ――と外の風が鳴っていた。


 廊下の灯りは、寝るとき邪魔にならないよう少し暗い。魔法の灯りは蝋燭のように点けたり消したりできないから、いつも同じ明るさのまま。


 比べて化粧室の中は明るかった。片面にはいくつもの水道と流し、片面にはひとつながりの張り出しのテーブル。壁の鏡はぐるりと私たちを取り囲むかのよう。トイレはさらに奥。個室が続いている。


「じゃあ」――と、分かれてトイレに入った。







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