第24話 ドバル家の対立
カアヤさんは教えてくれた。ミシャカラ卿は、もともと知の化身に仕えた騎士だった。だけど、知の化身が亡くなられたあと、ライハルト様と距離を置くようになった。更に3年前、ライハルト様が倒れられると、神殿を敵視するドバル家の派閥をまとめたのだ。
ミシャカラ派は、他の多くの家も味方につけていて、魔術学院の生徒たちにも影響を与えている。だから、平民を蔑ろにする風潮が蔓延っている。
逆に神殿に対して好意的なのは、ライハルト様の第五夫人が中心になった派閥。ナインバッハの第二公子を始め、ドバル家の多くの者が味方となっているけれど、他の貴族たちが中立的な立場を取っているため、外交的な力は弱いみたい。学院長先生も本来はこちらの側だけれど……
「姉さんは立場もあるし、研究もあるし、その上、魔術学院の存続のためにあちこち走り回ってるから。本当は国王陛下になんとかして欲しいんだけど、新しい大臣様が気難しい人で折り合いが悪いのよね」
カアヤさんは最後にそう言って話を終えた。
「先生方はまだマシよねぇ。私たち寄りの人が多いし、悪くても中立。だから生徒たちは皆、表向きは平民を受け入れているみたいに振舞ってるでしょ? まだ慣れてない新入生ほど親の影響が大きいのよね」
ウィルマさんもそう教えてくれた。
「はあ……。せめてカナリ様が手助けしてくれればいいんだけど……」
「カナリ様ですか?」――カアヤさんに問い返す。
「聖女様よ。カナリ様って言うの」――ウィルマさんが答える。
「聖女様も神殿出身なの。それなのに今は聖堂の聖女になっちゃってるから、居心地が悪いみたい。おまけに……」
「おまけに?」
「ううん。……そうだ! 明日は空いてる? 午後の授業が終わったら、一緒にカナリ様の所へ行かない? 紹介してあげる」
「空いてますけど……聖女様ってそんなに簡単にお会いできるのですか?」
カアヤさんは、明日は聖女様との約束があるから大丈夫だと言う。特に予定もない私は、明日の4限が終わったら、カアヤさんと聖堂へ行くことになった。
◇◇◇◇◇
翌日の1限は魔法の杖の授業。昨日の夜は遅くまで屋根裏部屋でナナカマドの杖を磨いていた。蜜蝋を塗り込んで、ぴかぴかに仕上がった杖を、ネッラ先生は褒めてくれた。
「では、魔石を配りまーす。これは、森の奥から幻獣や悪戯妖精を狩って得たものです。どれも強力なものではありませんが、これらを手に入れるのはそこそこ大変です。騎士団の団員に会ったら感謝しておきましょー」
黒い艶のない石が配られた。それに模様が描かれた羊皮紙も。
「――その羊皮紙に描かれた模様は、国王陛下直々の協力の元、私が組み上げた儀式魔法の付与魔術です。その魔術は、合言葉と共に発動しますが、本来はみんなには扱えない位階の魔術です。いいですかー、ここが儀式魔法の優れた点です。覚えておくように」
それから先生の指示に従って、羊皮紙の模様の上に杖と魔石、それから配られた触媒と呼ばれるものを並べていった。正しい位置に並んでいるかは、アンリさんとロティスさんが見てくれていた。
そして合言葉を唱えると――
渦巻く光と共に、魔石が、まるで綿の塊から糸が撚られるように、細い魔術文字の羅列となって浮かび上がる。
魔術文字の羅列は宙に浮かぶ球となって巻き取られていき、魔石の全てを巻き取ると、今度は逆に触媒を取り込みながら小杖へと、一文字ずつ輝きを放ちながら絡みついていく。
そうして全ての魔術文字の羅列が小杖に結びつくと、羊皮紙の模様の輝きは失われ、羊皮紙の上には一本のナナカマドの杖だけが残った。
そっとその1尺に満たない小杖に触れる。
しっとりとした表面、手にすると小さいながらも重みを感じる。
私の特別がそこにあった。
「魔術師の杖には、それぞれ分野に合わせた専門的な杖もあります。防護術師の杖、変異術師の杖、付与術師の杖などなど。それぞれ、向き不向きがありますが、みんながいずれ成長し、向き不向きが分かったその時は、その弟子の杖を作り変えることもできます。使い込んだ杖には魂が宿ります。なので、大事にするように」
◇◇◇◇◇
2限目の授業は魔術体系。けれど、よくわからない。初めて聞くような言葉ばかりで、先生に質問しても、今はただ、こういうものだと知っておきなさいと言われた。アレクシス・エルスター先生は男性なのもあって、ちょっとそれ以上は聞きづらかった。
3限目の授業は基礎魔術。オリヤ先生が魔術文字を教えていたのだけど、小魔法と違って、文字ひとつ習うのにもみんな苦労しているようだった。あのベルチカさんでさえ。だから、私が最初から魔術文字を書いたり詠唱できるのは、魔術師の祝福か生来の魔法以外、ありえないみたい。
(だけど祝福って、神さまからの啓示があるっていうけど……)
祝福を授かる者は、神さまからの啓示を頂くのだそうだ。けれど、そんな体験は私には一度もなかった。
結局、私はオリヤ先生の手伝いをして、皆の文字の書き方を見て回っていたけれど、私の話をまともに聞いてくれるのはベルチカさんと、あと何人かくらいだった。




