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貧乏貴族から成りあがれ! ~独り身イズミの転生譚~  作者: あんぜ


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第21話 エスラ先生

 学院長のエスラ先生というと、初めて見かけたときは、とても怖い顔をしていたのを覚えている。それが、入学式で皆の前で挨拶していた時には別人のように穏やかだった。


 だけど、今、学院長室に入り、対面したエスラ先生は再び怖い顔をしていた。


「アンリエットさん。突然で申し訳ないのですが、そこからこちらまで歩いてこられますか?」


 エスラ先生の足元には、大きな円と文字が…………魔術文字の模様が描かれていた。

 その足元の円が何を意味するのかわからなかった。


「あの……先生……」

「恐いものではありません。普通の人間なら何の問題もないはずです。――オリヤ先生、試しにこちらへ。魔法陣を消さないように」


「はっ、はい、学院長」――そう言ってオリヤ先生はエスラ先生の所まで、つま先立ちで歩いていく。


「ねえ、何ともないでしょう? アンリエットさんもこちらへ」


 おそるおそる踏み出す私。魔法陣と呼ばれたその模様を消さないように中へと踏み入ると……


 ふう――途端に、エスラ先生は表情を緩め、溜息をついた。


「ちゃんと人間だったみたいです、よかった……」

「あの……人間とは…………」


白の館(ヴァイスハイム)は普段、魔族を祓うための防護結界を張っていないのです。魔族を探知するための魔術もまだ不完全で…………すみません、アンリエットさん。あなたを魔族と疑っていました」

「私をですか??」


「正確には、魔術学院を訪れる全ての人を――です。魔族は魔術に深い造詣を持ち、時に我々に利益をもたらします。ですが、その本質は人間が理解できるものではありません。いつ、我々に牙を剥くかわかりません。そうやって、知の化身も我々の元から失われたのです……」


 魔族――というものは、恐ろしい怪物だと聞かされていた。だけどエスラ先生の言い方だと、まるでその魔族が、人間に何か良いことをしてくれたみたいに聞こえる。


 エスラ先生は私の前で膝を突いて、視線を合わせる。


「――アンリエットさん、あなたはきっと、魔術師の祝福か、或いは生来の魔法(アルス・インナータ)を授かっているのだと思います。自分を誇りなさい」

「はい……」


「ああ! でも! よく見れば本当にアンリット様にそっくりです! アイリア陛下や私のことを、憶えてたりはしないんですよね?」

「憶えてるって言うのは……」


「ロゼリアさんです。陛下や聖女様のことを転生しても憶えておられたのです。私のことはあまり記憶になかったみたいで……そこは少し悲しいのですが……。そのことと、賢者の祝福が決め手となって、アンリット様の生まれ変わりであることがわかったのですよ」


 エスラ先生はどこか戸惑っているようにそう言った。



 コンコンコン――とノックの音が。


「なんでしょう?」

「学院長、そろそろお時間です」


 ――と、侍女のお仕着せを着た女の人が現われる。


「はぁ……、わかりました。リヴリエーヌ、支度をお願いします。――それとアンリエットさん」

「はい」


「その…………ぎゅっと抱きしめてもいいですか?」

「はい??」


「その、アンリット様に本当にそっくりなのです。――ねえ? リヴリエーヌ」

「確かに…………昔のアンリット様によく似ておられます」


「似てるどころか、まるで本人のようです!――ちょっとだけでいいのです。その…………私の心の安らぎのために……」


 懇願するように両手をひとつに握るエスラ先生へ、私は両手を広げた。

 すると、顔を輝かせたエスラ先生が、がばっと私を抱きしめた。


「………………ああ、アンリット先生マギステル・アンリット。私、精一杯がんばってます…………」


 そう独り言を言ったエスラ先生。

 私はエスラ先生の頭を撫でてあげた。



 ◇◇◇◇◇



「できれば今起こった事は内密にお願いします。何卒(なにとぞ)


 リヴリエーヌさんという侍女がそう告げると、エスラ先生は――じゃあね――と、私の肩に手をやってから、部屋を出ていった。


 オリヤ先生とふたり、学院長室に残された。するとオリヤ先生が――


「学院長先生……まだお若いのに、7年前の魔族との戦いで英雄になってしまわれたのです」

「英雄になれたのは……よかったのではないのですか?」


「学院長に推薦され、魔術師の祝福を授かった者を皆、導いてくださいました。学院に教師として残っている者は、誰もが学院長先生に感謝しております。……ですが先生はその代わり、重い責任を背負うことになりました。知の化身が残した学院を維持しようと、無理をされてるのです」


 私が何か手伝ってあげられれば――そう思った。








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