第20話 魔術師の祝福
2限目の授業では女子生徒がデーテ先生の元、実習室でベッドメイキングを学んだ。ただ、授業が始まる前、デーテ先生が一瞬、鋭い眼差しを向けた相手が居た。それはロゼリアさんの侍女のカネラという人。ロゼリアさんはデーテ先生からお茶に誘われたと、女子の誰かが言っていたけれど、何かあったのかな。
3限目の授業は基礎魔術。オリヤ・エクラクラ先生は魔術師の祝福を授かってる女の先生。学院の先生の大半は、大祝福で魔術師の祝福を授かってから学院で学んだと教えられた。それもあって、教えるのはまだまだだから、わからない所があったら質問して欲しいと言われた。
「それでは、皆さんにはこれから本物の魔術というものを教えて参ります」
(本物の魔術?)
「――皆さんは試験で小魔法というものを習ったと思います。これは古語魔法とも言い、呪文の詠唱だけで力を得ることができる魔法です。この魔法の優れた点はまさにここなのですが、欠点もあります。それは、手軽さと引き換えに、世界に及ぼす力が圧倒的に弱いという事です」
「先生! では、試験の結果が良かったからと言って、本物の魔術が得意とは限らないんですよね?」
生徒のひとり――あのジョゼファが問いかけた。
「それは正しくもあり、そうでないとも言えます。魔術師の祝福を持つ者は、小魔法の力も強くなります。逆に、古語詠唱が上手だからと言って、魔術詠唱が得意とは限りません。いずれにしても、最初から諦める必要はないという事です」
オリヤ先生はそう励ましたけど、ジョゼファはベルチカの方を見ていた。だから、そういう意味なんだと思った。
◇◇◇◇◇
では――とオリヤ先生は黒板に文字を書いていった。それは普段使うような文字ではなかった。複雑な文字。そして、木の板には普通の文字を書いた。
「先の魔族の襲来では、この魔術学院の生徒たちが王都を護る大事な役目を果たしました。その際に使われたのがこの呪文です」
オリヤ先生は身振り手振りを交えながら詠唱し、片手を木の板に当てた。
すると…………板に書いてあった文字は消えていった。
「――こうして、木や紙に書かれた文字を消去する魔法です。その他にも、魔族たちが使う危険な魔法の印を消すことができます」
「――魔術呪文は、小魔法のように真似るだけでは発動しません。まず、魔術文字を理解しないと詠唱できないのです。この呪文を1カ月かけて、皆さんに習得して頂きます。その第一歩は、魔術文字からですね。1文字ずつ学んでいきましょう」
全員に書字盤とチョークが配られると、黒板に書かれた最初の文字の意味をオリヤ先生が説明する。それから、書字盤へ上手に書けるまで書き写すように言われた。
みんなが練習している所を、オリヤ先生が見て回っていた。
私はというと…………
後ろを歩いていたオリヤ先生が立ち止まり――
「素晴らしいです。書き順も、字の形も美しい。――あなた、もしかして魔術師の祝福を?」
どうしてか、その魔術文字がすらすらと書けるうえ、発音も頭に響いたのだ。
「……いえ、授かっていません。私はその……ロゼリアさんから祝福が無いと聞きました……」
「祝福が無い!? そんなはずはございません。そうね…………黒板の文字を読んでごらんなさい。わかるようなら身振りも交えて」
オリヤ先生は黒板を指差す。その黒板に書かれた文字は、どれも初めて目にする文字ばかりのはずなのに、発音が頭の中に響き、すらすらと読み上げることができた。読むにつれ、言葉の繋がりの中に秘められた身振りも自然とわかっていった。そして――
「消去!」
詠唱を終え、書字盤に手を触れると、チョークで書かれた文字が消えていった。
「あなた、お名前は?」
「……アンリエットです」
「おめでとう、アンリエットさん。あなたにはきっと魔術師の祝福があるはずです」
◇◇◇◇◇
授業の途中で、オリヤ先生は教室の外へ飛び出していった。
そのまま魔術文字の練習を続けるように指示された生徒たち。けれど、みんな私の方を見ていた。囁かれる言葉があやふやなほど、余計に耳につき、胸が苦しくなる。
「アンリエットさん?」
立ち上がって声を掛けてきた黒髪の女の子。
「――アンリエットさんは私に恥をかかせようと……そういうおつもりなのかしら?」
「ロゼリアさん??」
「だってそうでしょう? 賢者の力であなたの祝福は無いと言ってしまったのよ? 今だって見えていない。……あなた、もしかして自分に探知妨害の魔法をかけてるの? それで私をからかおうとしてるの?」
すると、周りの子も――
「ロゼリア様に恥をかかせようとしてたの?」
「魔術師の祝福があるから、そういうこともできるのね」
「平民のくせに、貴族を舐めてるわ」
そんな責めるような言葉を告げた。
「そんな……じゃみんぐ……って、そんなの私、聞いたこともありません」
「とぼけるおつもりかしら? 探知妨害なんて、私以外、誰にも影響のない魔法ですもの」
「本当に知らないのです……」
沈黙が続き、やがてオリヤ先生が戻ってきて、学院長先生が呼んでいると聞かされた。




