第19話 魔法の杖
「先生! 背筋を伸ばして! 猫背だと余計に胸が目立ちます!」
翌日、ベルチカと1限目の魔法の杖の授業のため実習室へ向かっていると、上級生のカアヤさんに、服装を直されているネッラ先生を見かけた。
「――ほら、私も授業に行かなくちゃならないんですからね!」
「どーして私の授業、いっつも1限目なの? あんたのお姉ちゃんの嫌がらせじゃない?」
「そうしないと朝まで研究ばかりして、昼まで寝てるからですって! 姉さんもたいへんなんですから、すーこーしーはー、大人らしくしっかりしてください!」
「はぁ~~、わかったよ、メイガスリン」
「小さな魔術師って呼ばないで!」
じゃあ――と実習室の前にネッラ先生を置いてカアヤさんは行ってしまった。
扉の前でまた猫背に戻ったネッラ先生は、私たちを見つけ――はぁい――と片手を上げる。
私たちも同じように片手を上げ、苦笑いした。
◇◇◇◇◇
「ではーまず、みんなに弟子の杖を作ってもらいます」
眠たげな挨拶を終えたネッラ先生は、補助の上級生、アンリ・アフマズルさんと、ロティス・バイソマージさんと共に杖の製作について説明をする。
「――本来であれば、十分な魔術の習得を行った後に魔術師の杖を作るべきなのですが、弟子の杖を作っておけば触媒が節約できるという、大臣側のしょーもない要求のために皆さんには杖を作ってもらいます」
ネッラ先生の言いように、みんな顔を見合わせていた。
「――たーだー、予算的なものもありますがー、この弟子の杖。侮るなかれ! 魔術を向ける先、これを間違うことなく指し示すことができるのです。詳しくは省きますが、みんなの頭の中には眼が5つ。左右の眼を入れると6つの目があって、そのひとつ。第四の眼というものが魔術を掛ける目標を選ぶのです」
眼が6つ?? ネッラ先生の話を分かっていそうな生徒はいなかった。賢者の祝福を授かったロゼリアさんも首を傾げてる。
「――昔、魔術を向ける先を誤って、人を傷つけかけた生徒が居ました。その生徒は冷静さを失ったことを酷く後悔しました。そんなことが無いように、この弟子の杖を使うのです」
そう語るネッラ先生は真剣だった。
◇◇◇◇◇
「では、好きな小杖を選んでください。イチイ、トネリコ、ハンノキ、ハシバミ、オーク、自分の好み、直感で構いません。大きな違いはありません。どれもただの端材をよく乾燥させて作ってあるだけです。これからみんなの特別に仕上げていくのです」
並べられた小さな杖を、皆が吟味していく。わからないなりに、私も目を凝らす。
「――それはエルムだね。先生の友達のアイザってやつが好きな木で、水に強いです。そっちはイチイ。丈夫な木で弓士の弓に使われます」
「先生、これは何の木ですか?」
私はしっかりと手に収まる感じがした小さな杖を先生に見せる。
「それはナナカマド。女神さまの木とも言われてるね」
「女神さま…………私、この杖にします」
私はナナカマドの杖を、ベルチカはトネリコの杖を選んだ。
◇◇◇◇◇
「では、それを磨いていきましょー。形が気になるならナイフで削っても構いませんが、曲がってる物もそれはそれで味わいがあります。小枝の杖なんかは特にね。トクサで表面をしっかり滑らかに仕上げて、鹿皮と蜜蝋で艶を出します」
ネッラ先生が指示すると、みんな磨き始める。だけどすぐに手が疲れてきて……
「こんなの、下男に磨かせた方が宜しいですわ。手も荒れてしまいます」
誰かがそう言った。けど先生は――
「これはねー、自分でやるから意味があるのです。与えられたものよりも、自分に馴染むよう仕上げた物ほど魂が宿るです。わかりますか?」
そう言うと、貴族の女の子たちも渋々従った。
「ロゼリア様、お手が汚れます。手袋をどうぞ」
あのカネラさんという怖い侍女は相変わらずロゼリアさんの傍に居た。ロゼリアさんに手袋を手渡すと、侍女を連れている貴族の子たちも、同じように手袋をして作業を始めた。
「アンリエット君はナナカマドを選んだか。それはなかなかに硬くて手ごわいぞ」
生徒たちを見て回るアフマズルさんが私に声を掛ける。
「そうなのですか……」
「だけど、それだけ想いも篭るというものです」
ネッラ先生が付け加えてくれた。
結局、1限では蜜蝋を塗るところまで終えられなかった私は、杖を持ち帰ることになった。次の授業までに磨いて蜜蝋を塗っておくという事で授業を終えた。




