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貧乏貴族から成りあがれ! ~独り身イズミの転生譚~  作者: あんぜ


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第18話 ベルチカ

デーテ先生(マギステル・デーテ)は、知の化身にお仕えしたことがあるとお聞きしましたが、そうなのですか?」


 自己紹介が進むと、そんな質問が出た。


「ええ、その通りです」


 先生が答えると、同級生たちから感嘆の声が漏れる。


「――アンリット様は、感情が表に出やすいところなどは年相応か、皆さん以上でしたよ」


 意外な言葉に、私も、同級生たちも驚く。


「――ただ、考えておられることは貴族という立場を超越されておりました。今から思えば、女神さまの視点だったように思われます。加えて、アンリット様は間違いや失礼を犯したら、相手の身分を問わず、ちゃんと謝れる方でした。アンリエットさんのようにね」


(アンヘルさんと同じことを言ってる……)


「――アンリット様はよく御自身を、灯を消す者(un-lit)などと自嘲されておられましたが、わたくしは灯を齎す者(en-lit)だったと思うのです。アンリット様に導かれ、多くの者がより善き道を歩んだと……そう思っておりました……」


 ただ、デーテ先生のその言葉にはどこか憂いが感じられた。



 ◇◇◇◇◇



「アンリエーゼ・デュバルーと申します。実家はメレアで麦芽酒の醸造をしておりまして――」

「アイリエス・ベルフォンターナと申します。父は王都の文官で聖なる森の管理を――」

「ユイリス・ノルネンと申します。東部辺境出身です。辺境伯様のため、この魔術学院に――」


 自己紹介は進み、あのロゼリアさんの番になった。


「ロゼリア・レンネブルクと申します。レンネブルク家の七女として生まれましたので、本来であれば生きる道を自ら切り開かなければなりませんでしたが、幸いなことに神々より賢者の祝福を授かり、赤子の頃よりその使命に従って生きて参りました」


 オブリージア生徒会長からも聞いたけれど、赤子の頃からなんて本当にすごい。アンリット様の生まれ変わりなんだと思う。


「わたくしも、ロゼリアさんとは一度、ゆっくりお話したいと思っていた所です」


 ロゼリアさんは顔を輝かせた。周りの皆もさすがと称えていたけれど、私にはどうしてか、デーテ先生が優しい言葉とは裏腹に、どこか厳しい顔をされているようにも思えた。



 皆、社交界を経験しているからか、同い年とは思えないくらいしっかり受け答えしていた。

 最後に、ベルチカさんの番が回る。


「ベルチカと申します。母は聖堂の施療院で働いております。私に文字と貴族の作法を教え、この学院へ送り出してくれた母に感謝しております。母に報いるためにも、私は貴族になります」


 同級生たちのほとんどは彼女の方を見ていない。その顔には、冷笑の色が見て取れた。

 けれどデーテ先生は――


「素晴らしい(こころざし)です。聖堂の()()()として推薦されただけのことはございますね。頑張ってください」


 全員が自己紹介を終えると、これから一年、どのようなことを学んでいくかをデーテ先生は黒板に書き出した。まず、次の時間には、実習でベッドメイキングを教わる。貴族の女性は、未成年、成年を問わず、侍女の仕事に就くことが多いからみたい。それと、自室を綺麗に保つためにも、最初に教える必要があるんだって。



 ◇◇◇◇◇



「あの…………隣、いいですか?」


 寮での昼食は、大勢が一度に取るから混む。それなのに、ベルチカさんの隣には誰も座っていなかった。私は、彼女に興味があったこともあり、話しかけてみた。


「どうぞ」


 短くそう返した彼女。

 私は皿の載ったお盆(トレイ)をそのままテーブルに置いて食べ始める。ちょっと変だけど、給仕の居ない生徒たちはみんな同じようにしていたから。


 社交界の経験もない私は、その後、何を話しかけていいかわからず困っていた。


 お昼は朝のパンよりもしっかりした丸いパンと大きな腸詰め(ソーセージ)、スープ。スープには塩漬けの豚と豆とカブ、それから捩じれた練り物(パスタ)が入っていた。


「今日のねじねじの練り物(パスタ)、スープをたくさん含んでおいしいですね。今朝のくるくるの練り物(パスタ)はプリプリして面白かったですね」


 背筋を伸ばしていた彼女がパチリと瞼を(まばたか)かせる。


「あなた、平民って本当?」

「えっ?」


 意外な質問に今度は私が瞼を(まばたか)かせた。


「――あの…………」

「ううん、何でもない。私みたいな平民に見えなかったから」


 戸惑っていると、そう言ってきた。けれど、私には彼女の方が平民に見えない。


「――それはそうと…………ねじねじって何?」

「えっ、ほら。これって捩じれてるから。ねじねじ(スピラリ)……」


 するとベルチカさんは口元を歪ませ、そっぽを向いてしまった。おまけに両手で顔を覆い隠す。

 何か失礼なことを言ってしまったのかと思ったけれど――


 ブフッ――と変な声を漏らし、ベルチカさんは震えていた。


「――あの、ベルチカさん?」

「うっ……ふ、…………おかしなこと言わないでよ。(むせ)たじゃない」


「ごっ、ごめんなさい……」

「怒ってないわよ」


 そう言って、はあ――と溜息をつくベルチカさんが、目尻を指で拭う。


「――あー、おかし。ねじねじにくるくる? つまんない人ばかりかと思ってたけど、笑っちゃった。アンリエットさん……いえ、アンリエット。あなた、面白いわね」

「そんなに変でしょうか……」


「変よ。自分が絡まれたわけでもないのに、私に加勢するなんて」

「?……ああ、さっきの……。あれはベルチカさんが凄いなって思っただけで……」


「だからって普通、あんなこと言わない。お母さまみたいで驚いた」

「私も、お母さまに教わったの。だから……」


「ベルチカでいいわ」

「えっ?」


「呼び捨てでいいわ。だって、私たち平民同士。お友達でしょ?」

「うん、ありがとうベルチカ」


 こうして私に初めてのお友達ができた。







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