第12話 女子寮
「レンネブルク家の七女として生まれたロゼリア君は、賢者の祝福を授かって生まれてきた。赤子の頃から鑑定の力を使いこなしていたそうだ」
オブリージアさんはロゼリアさんの肩に手を置き、新入生に向かってそう話した。
「――君たちの中にも知っている者が居るかもしれない。知の化身アンリット様を失ったあと、聖女様はその生まれ変わりを預言された。国王陛下は、賢者の祝福を持つ黒髪の娘――その者を大賢者に据えると決められたのだ。大賢者様は今、祝福を授けるため、国内を巡っておられる。大賢者様が戻られれば、ロゼリア君は正式に大賢者様の後継者として認められることだろう!」
皆が拍手を送ると、ロゼリアさんは膝を軽く折って視線を下げた。
そこへ――
「その話、君の母上から聞いたのかい?」
――と声を掛けてきたのは、鎧の上から橙のお仕着せをまとった金髪の麗しい人。オブリージアさんよりも背の高い、その人が問いかけると、彼女もハッと息をのみ振り返る。
「エスカイユ様!――ええ。その通りです」
エスカイユさんという方は、男性なのか、或いは女性なのか分からないような、短めの髪の中性的な容姿の方。近くに居た女の子たちも――ほう――と溜息を漏らすほど。ただ、そのエスカイユさんは――
「そうか。すまない、邪魔をした。――諸君、入学おめでとう」
それだけ返すと去っていき、オブリージアさんも軽く視線を下げて見送った。
エスカイユ・ヘリオベラという、女王陛下の近衛騎士なんだって。
◇◇◇◇◇
私たちは学院の女子寮へと移動した。女子寮の1階は、入ってすぐの広めの玄関になっていて、さらに談話室、食堂へと案内してもらう。それから散湯口室もあると教えてくれた。トイレのある化粧室は各階にあって、お湯を汲んだりもできるらしい。
広くて長い、大貴族の食堂にあるようなテーブルが3列に並ぶ食堂で、全員が席につき、寮での生活について上級生から説明を受けた。寮には門限があって、日が落ちる七の鐘までには寮へ帰らないと施錠されるらしい。朝は、日が昇る一の鐘で開かれる。
「施錠されてしまったら、どうすればいいのですか?」
質問があればと聞かれたので、私は聞いてみた。すると、周りの女の子たちはクスクスと笑う。
「なに言ってるのかしら、あの子」
「門限も守れないようなら落第よね」
私はちょっと悲しくなって俯いた。
ただそこへ――
「誰にでも失敗はあります! 幸い、王城は夜警も居て安全です。寒さと心細さを凌ぐ術があるなら、よほど羽目を外さない限りは御目こぼしいたします。でなければ、反省文を提出することを引き換えに、中に入れてもらってください」
説明をしてくださってたカアヤ・メイガスリンという上級生のひとりが、大きな声で答え、私へ向かって微笑んでくれた。
◇◇◇◇◇
「では、各自、自室へ。相部屋となる上級生には挨拶を忘れないように。最低でも1年間、一緒に過ごすのですから礼儀は大切です。何度も申しますが、ここでは皆が同じ制服を着ています。身分は関係ありません」
それからみんな移動した。だけど、ほとんどの子は相部屋の上級生が迎えに来ていた。私には来ていなかった。
新入生のほとんどは最上階の4階だった。中には2階や3階の生徒もいたけれど、たぶん、身分の高い人たちなんだと思う。私は高い場所の方がいいかな。遠くの景色が見えるし。
扉をノックし、返事があったので中へ入る。すると、二段ベッドの下に制服のまま寝転んでいる女生徒。私の荷物は、扉を入ってすぐの所にまとめてあった。
「初めまして、アンリエットと申します! 一年間お世話になります!」
できるだけ声を大きくして挨拶した。
「あー、しまった。もうそんな時間!?」
よっ――と、読んでいた本を置き、半身を起こした女生徒。
「――こんにちは。アノリよ。アノリ・ステンバート。3回生。父は東部の小領地の領主なの。田舎だからね、王都と違って何にもないとこ。よろしくね」
そう言って握手を求めてきたアノリさんは、たった2つしか違わないのに背が高かった。上級生はみんな、年の割りに身体が大きい。
「宜しくお願いします」
恐る恐る手を差し出すと、がっしり掴まれ、ぎゅっと握られた。
「ベッドは上を使ってね。書き物机はそっちを使って。窓側は私の。荷物はクローゼットに」
「は、はい!」
荷を解いて、服を木製の衣紋掛けに掛けて吊るす。
「へえ。さすがは王都の文官の家の子ね。仕立てたばかりの服ばかり」
「いえ、これは……」
必要になるからと、アンヘルさんが襯衣を何枚かと、上着を入学祝いに仕立ててくれたのだ。他にも下穿きや長靴下を買ってもらった。それにしても、文官ってアンヘルさんのことかな? どうして知ってるのだろう。
「ざっと片付いたら食事に行きましょうか。まだ時間はあると思うけど」
「時間?……ですか」
「あら? アンリエットは時間って言葉、使わない? あたしも王都へ来て初めて聞いたけど、こっちでは鐘で呼ぶんじゃなくて、時間って言うんでしょ?」
「水時のことでしょうか? お母さまから聞いたことがありますけれど」
聖堂には歯車仕掛けの時計があるけれど、南部には、ひとつの鐘の鳴るまでの時間――一時の長さを一年中変わらない長さで刻む時計もあるって聞いた。もともとは水時計で測っていたから、水時って呼ぶんだって。時計そのものは聖堂にしかなくて、他だと妖精が悪戯するからちゃんと動かないらしい。
う~ん――と唸るアノリさん。彼女にもわからないみたい。




