プロローグ
「この世は野蛮すぎる!」
ナインバッハの公女、アンリット・ラシス・フォル・ドバル。
僅か7歳の少女は、そう言い放ちました。
彼女は、子供たちに学問を教える場もなく、身体を清潔に保つことのできないこの世を嘆き、その事を当時の国王陛下に訴えました。
「国王陛下、子供たちが魔術を学べる魔術学院を作ってください。誰もが魔術を使えるようになれば、王国はより豊かになり、魔族から民を護ることができるでしょう」
国王陛下は、第二王子と大臣にアンリットを見定めさせ、彼女の知識が本物であることを認めました。そうして魔術学院を創設され、白の館を建てられました。
「国王陛下、人々の生活は地母神様の教えとは程遠いものです。平民たちが清潔に過ごすことは、貴族たちが清潔に過ごすことに繋がり、やがて国から病魔を遠ざけることになるでしょう」
国王陛下は、上水道を担当する文官に上水道を、遠くバリン伯爵領より派遣されたバリンの軍団兵に下水道を整備させました。アンリットは上水道の秘密を解き明かし、止まっていた水道を復旧させました。
「素晴らしい知識をもたらしてくれたお前に、『知の化身』の称号を与えよう」
国王陛下はアンリットに称号を授けました。その後もアンリットは散湯口を発明したり、輝きの湯殿の奇跡を起こしました。
そうしてあるとき、魔族の侵略に晒された王都。
知の化身アンリットは、人間に化けた魔族の策謀を暴き、下水道に侵入した竜人を滅ぼしました。しかし、魔族は王城に陣を構え、王都を滅ぼそうとします。大勢の人々が犠牲になろうとしていたそのとき、知の化身アンリットは自らの両脚を犠牲にして、王都の全ての人々に祝福を授けました。今では大祝福と呼ばれる知の化身アンリットからの恵みです。
その後、知の化身アンリットは、勇者アイリアと共に王城の下、地下迷宮に蔓延る魔族どもを、文字通り、命に代えて滅ぼしたのです。王都の人々は、貴族も平民もなく、知の化身アンリットの死を悲しみました。
しかし、聖女カナリは預言します。いつの日かきっと、知の化身アンリットが復活することを。円卓会議のもと、国王となった勇者アイリアは、知の化身の生まれ変わり、黒髪の賢者が現れたとき、彼女を大賢者として王国に迎えることを取り決めました。
これがこの王国に伝わる知の化身、アンリット様の伝説です。




