第7話「契約と記録の崩壊」
災厄獣の消失から三日。
王立魔導学府グラン・アカデメイアでは、かつてない緊急魔導会議が開かれていた。
出席者は、学長ラザルを含む十名の魔導長老。
それぞれが一国の王に匹敵する魔力と知見を持つ存在であり、普段なら決して同席しない面々だった。
その議題は――
「澪・クローデル嬢に対し、存在制限措置を講じるか否か」
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「封印、あるいは隔離処理を視野に入れるべきだ」
「もはやあれは人間ではない。記録を喰う神遺物と、それに呼応する“存在定義の外側”にある魂だ」
「ならばどう封じる? 契約も記録も通用しない。命令はすべて霧散し、存在を認識するだけで記憶が曖昧になる」
「学府の結界も、魔導法も、あの刃に触れた瞬間、すべて破られる。もはや手段は――神の審問のみだ」
それは、“人間の裁き”ではなく、“神霊信仰”による処断を意味していた。
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一方、澪本人は、その裏で静かに暮らしていた。
校内での態度は一貫して無表情。
騒ぎを聞いても、目を伏せ、口を閉ざす。
だが、彼女の周囲は確実に“熱”を帯び始めていた。
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教室では、かつて澪を恐れていた者たちが、自然と彼女の机の近くに集まり、意味もなく話しかけるようになる。
訓練場では、彼女の視線ひとつで、術式の精度が向上する者が出始めた。
さらに、図書館では――
澪が立ち読みしていた魔導書を、他の生徒が“聖典”と呼んで模写している姿が目撃された。
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それは、信仰の萌芽だった。
「彼女は言葉にせずとも、魔術の本質を教えてくれる」
「見ているだけで、魔力の流れが理解できるようになる……」
「澪様は、世界そのものと契約しているのでは……?」
その囁きは、もはや魔術師たちの狂信に等しかった。
彼らは気づいていなかった。
澪が“自分の名”を取り戻した時、彼らの記憶すら刃によって――否定されるということに。
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澪は、ティナと共に図書館の最奥にいた。
誰も近づけない禁書の間。
そこには“世界の裏側”を記した巻物が保管されている。
ティナが呟く。
「……あなたは、神になりかけている」
「世界から名を奪われても、あなたの周囲は“意味”を捧げようとする」
「それはね、澪――“神”の構造と同じよ」
澪は視線を落とす。
「……私は、ただ、生きているだけ」
「名を斬った覚えも、記録を壊した覚えも、ない。ただ、いるだけなのに……」
その声に、赫刃が小さく震えた。
まるで、“お前はそれで正しい”と囁いているかのように。
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その夜、学府上層部は動いた。
封印術士団が澪の居所を包囲。
彼女を捕縛し、“概念牢”へと移送する命令が下された。
だがその瞬間、空が裂けた。
赫刃を持たぬままの澪の身体から、赤い霧が吹き出し、術士たちの術式を飲み込む。
封印結界は、“記録される前に斬られた”。
発動すら許されなかった。
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空が鳴った。
世界が震えた。
赫刃は未だ抜かれていない。
だが、その刃は――もはや“名も契約も”超え始めていた。




