第6話「赫刃顕現、断罪の門へ」
都市区南方、第五警戒門――通称“断罪の門”。
王立魔導学府の外郭と街を隔てる、最大級の魔法障壁が破られようとしていた。
外縁に現れたのは、一体の“災厄獣”。
通常の魔物とは異なる、“魔力の瘴流”そのものが形を成した存在。
この世界において、魔術にすら定義されていない。
学府側は緊急の戦闘指令を下そうとしたが、命令記録が全て消去されていた。
それは――澪が知らぬ間に、赫刃が“干渉”した結果だった。
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「記録系統、断絶……!」
「術式命令が……書き込めません!」
「これは……“存在そのものが、斬られた”としか……!」
混乱の中、ただ一人の影が、静かに門の前へと歩いていく。
澪だった。
漆黒の制服の裾を揺らしながら、彼女は誰に命じられることもなく、前へ進んだ。
手には、封印布に包まれた赫刃・無明。
その歩みは静かで、しかし異様な重力をまとっていた。
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門の向こうに立つ“災厄獣”は、通常兵器を無効化し、既に外郭の守護騎士団を壊滅させていた。
だが澪は臆することなく、布をほどいた。
赫刃・無明――それは赤黒い霧を纏い、澪の手の中で鼓動する。
彼女が刃に手をかけた瞬間、世界の空気が“ひび割れた”。
周囲にいた魔術士たちは、誰一人としてその意味を理解できなかった。
だが、精霊だけが呟いた。
「赫刃が応えている――“彼女の記憶”に」
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澪の瞳がゆっくりと紅に染まる。
赫刃の柄に指をかけ、ゆっくりと引き抜こうとする。
抜刀未遂。
だが、それだけで世界が震えた。
災厄獣の身体が、裂ける。
斬られたわけではない。
“存在が否定された”のだ。
断罪の門を覆っていた魔力障壁が、再構築もされぬまま霧散する。
刃は、まだ抜かれていない。
だが赫刃はすでに“意思”を顕現していた。
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澪の目に、一瞬、過去の戦場の光景がよぎる。
焼けた山。
転がる死体。
赫刃を振るう“自分”。
笑う鬼――酒呑童子の幻影。
だが澪は、目を閉じた。
「……違う。私はまだ、“私”のままでいたい」
彼女は刃を引き戻し、封を巻き直す。
そして、ただ一歩、前に踏み出した。
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「戻れ」
その一言が、世界に命じられたように響いた。
災厄獣が咆哮を上げ、しかし一歩後退する。
澪の足元から、赫刃が放つ“定義の霧”が広がり、魔力の構造そのものを崩壊させていく。
最終的に災厄獣は、“未発生”という定義に戻され、その場から消滅した。
静寂が訪れる。
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見ていた者たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「……あれが、封じられし赫刃」
「いや……あれは、彼女自身が“神域”に至っている……」
記録も法も、魔術体系さえも、彼女の前では意味を失っていく。
その後、王都では彼女をこう呼ぶようになった。
――**「無記録の令嬢」**と。




