表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赫刃  作者: あああ
PR
65/177

第6話「赫刃顕現、断罪の門へ」

都市区南方、第五警戒門――通称“断罪の門”。


王立魔導学府の外郭と街を隔てる、最大級の魔法障壁が破られようとしていた。


外縁に現れたのは、一体の“災厄獣”。

通常の魔物とは異なる、“魔力の瘴流”そのものが形を成した存在。

この世界において、魔術にすら定義されていない。


学府側は緊急の戦闘指令を下そうとしたが、命令記録が全て消去されていた。


それは――澪が知らぬ間に、赫刃が“干渉”した結果だった。



「記録系統、断絶……!」

「術式命令が……書き込めません!」

「これは……“存在そのものが、斬られた”としか……!」


混乱の中、ただ一人の影が、静かに門の前へと歩いていく。


澪だった。


漆黒の制服の裾を揺らしながら、彼女は誰に命じられることもなく、前へ進んだ。


手には、封印布に包まれた赫刃・無明。


その歩みは静かで、しかし異様な重力をまとっていた。



門の向こうに立つ“災厄獣”は、通常兵器を無効化し、既に外郭の守護騎士団を壊滅させていた。


だが澪は臆することなく、布をほどいた。


赫刃・無明――それは赤黒い霧を纏い、澪の手の中で鼓動する。


彼女が刃に手をかけた瞬間、世界の空気が“ひび割れた”。


周囲にいた魔術士たちは、誰一人としてその意味を理解できなかった。


だが、精霊だけが呟いた。


「赫刃が応えている――“彼女の記憶”に」



澪の瞳がゆっくりと紅に染まる。

赫刃の柄に指をかけ、ゆっくりと引き抜こうとする。


抜刀未遂。

だが、それだけで世界が震えた。


災厄獣の身体が、裂ける。


斬られたわけではない。

“存在が否定された”のだ。


断罪の門を覆っていた魔力障壁が、再構築もされぬまま霧散する。


刃は、まだ抜かれていない。

だが赫刃はすでに“意思”を顕現していた。



澪の目に、一瞬、過去の戦場の光景がよぎる。


焼けた山。

転がる死体。

赫刃を振るう“自分”。

笑う鬼――酒呑童子の幻影。


だが澪は、目を閉じた。


「……違う。私はまだ、“私”のままでいたい」


彼女は刃を引き戻し、封を巻き直す。


そして、ただ一歩、前に踏み出した。



「戻れ」


その一言が、世界に命じられたように響いた。


災厄獣が咆哮を上げ、しかし一歩後退する。

澪の足元から、赫刃が放つ“定義の霧”が広がり、魔力の構造そのものを崩壊させていく。


最終的に災厄獣は、“未発生”という定義に戻され、その場から消滅した。


静寂が訪れる。



見ていた者たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「……あれが、封じられし赫刃」

「いや……あれは、彼女自身が“神域”に至っている……」


記録も法も、魔術体系さえも、彼女の前では意味を失っていく。


その後、王都では彼女をこう呼ぶようになった。


――**「無記録の令嬢」**と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ