第5話「赤の再誕、学院を揺らす」
神殿区画での精霊契約から一夜が明けた。
しかし学院の“契約記録”には、何一つ記載されていなかった。
主契約精霊・虚のエルフアインが臣従を誓ったという事実は、霊的には確実に成立しているにも関わらず――学術的にも法的にも、**「何も起こっていない」**と記録されている。
魔導律第七条、契約不記載の罪。
それは重大な違反として扱われ、緊急審問が開催される運びとなった。
だが、その審問は、澪を“断罪”する場にはなり得なかった。
なぜなら――
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**“学院全体が、澪の存在を記録できなくなりつつあった”**からだ。
記録術士たちは戸惑い、術式学派の教授陣は震えていた。
「おかしい……書面のインクが、彼女の名前だけ滲む……!」
「彼女に触れた記録が、霊術アーカイブから消えていく……!」
「存在はここにあるのに、記録が斬られていく……これはもはや、自然現象ではない……!」
それは“神代の禁忌”に関わる術。
定義すら与えられない、記録抹消の異能。
赫刃・無明――その封じられし力が、澪の意志とは関係なく“拡がり始めていた”。
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魔導学府内では噂が走っていた。
「澪様は、精霊すら名乗らせる存在だと……」
「あの赫刃は、神話に記されていた“記録斬り”ではないか……?」
「いや、それより――彼女に愛された者が、全員何かしら狂い始めている……」
事実、澪と接近した生徒の中に、記憶の混濁・人格の破綻・自傷癖などの異常が相次いでいた。
だが彼らは誰一人として、澪を“恨まない”。
それどころか、声を揃えてこう呟くのだ。
「それでも……澪様を忘れたくない」
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澪自身もまた、異変を感じていた。
かつて澪に嫌悪感を示していた魔導貴族の令嬢たちが、次々に涙を流しながら謝罪し、友誼を申し出てくる。
学院の警備術士ですら、彼女を前にすると敬語すら使えず、立ち尽くす。
“存在の重力”が、澪の意志と関係なく拡大しているのだった。
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夜、澪は再び赫刃と向き合っていた。
「……私は、壊しているのか?」
その問いに、赫刃は応えない。
だが、彼女の背後に立つ精霊エルフアインが言った。
「否。“壊す”のではなく、“戻している”のだ」
「世界が記録した“虚構”を、真実に戻している」
「お前の存在が、この学府の虚飾を斬っているのだよ。澪、あるいは――酒呑童子よ」
その名を告げられたとき、赫刃が小さく脈動した。
澪の目が、一瞬だけ紅く染まる。
だが、まだ“完全な記憶”は戻っていない。
彼女は未だ、“無自覚の最強”であり続けている。
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翌日、学院では非常召喚が発令された。
学院外から、モンスター災害級の存在が、都市区を蹂躙しつつ接近しているとの報。
だが、王立魔導学府の戦闘部隊は“異常事態”により出動不能。
記録が斬られ、命令系統が破綻していたのだ。
誰もが恐怖に沈む中、ただ一人、澪が静かに立ち上がる。
「……行くわ。私がやる」
その声には、誰も逆らえなかった。
なぜなら、彼女の背に、“赫刃・無明”が浮かび上がっていたからだ。




