第3話「赫刃、封じられし記憶」
深夜。王立魔導学府グラン・アカデメイアの最上層、禁書区画の奥にて、少女はひとり、赫刃を見つめていた。
部屋は魔力遮断の結界で満たされ、外界との交信すら断たれている。澪は椅子に腰掛け、無言のまま机上に置かれた赫刃・無明をじっと見つめていた。
刃は沈黙している。だが、澪は知っていた。
この刀は、ただの道具ではない。
それどころか――下手に触れれば、存在の定義すら消し飛ばす、破滅の神遺物。
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「……お前は、誰だ?」
声にならぬ疑念が、澪の胸中で渦を巻く。
彼女は未だ、自分がなぜこの刀に惹かれるのかを知らない。
抜刀した記憶は――ない。
だが、赫刃を前にすると、心の奥底に赤黒い光が差し込んでくる。
まるで、記憶の底に、**“別の自分”**が封じられているかのように。
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部屋の扉が静かに開いた。入ってきたのは、空間魔術の才女――ティナだった。
「澪、こんな時間に……また赫刃を?」
「……」
「やっぱり、呼ばれてるんだね」
ティナは澪の隣に腰を下ろし、目を伏せた。
「あなたが精霊試験で見せたあの光景。
私は忘れない。虚の精霊がひざまずいた……
あれは“人間”の契約じゃない。もっと……禍々しい、何かと繋がってた」
澪は答えなかった。
答えられなかった。
なぜなら、自分でもわからないのだ――自分の中に“自分でない何か”がいることに。
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「澪、ひとつ聞かせて。赫刃を見て、何を感じるの?」
「……」
しばしの沈黙の後、澪は呟いた。
「“退屈”が、消える」
ティナの目が見開かれた。
その言葉は、どこか――あまりにも人間らしくない響きだった。
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突然、赫刃が赤く脈動した。
室内に、存在しないはずの音が響く。
カン……
それは、まるで刃が虚空を叩く音。
だが、どこにも当たっていない。
ただ、“記録”がひとつ、切り捨てられた。
ティナが恐怖に顔を引き攣らせた瞬間、澪の意識が黒に落ちた。
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――暗闇の中で、澪は誰かの記憶を見た。
炎の中で笑う少女。
斬り伏せる無数の敵。
命乞いすら、心を動かさない。
ただ、“強さ”を貪るように求める存在。
鬼のような少女――いや、鬼そのものだった。
澪は叫ぼうとしたが、声にならなかった。
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目を開けると、ティナが心配そうに見下ろしていた。
「澪……今、何か見たの?」
「……いや。なにも」
少女は首を振る。だが胸の奥で、ひとつの確信だけが灯っていた。
――あれは、“私”だ。
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この刃は、記憶を封じ、同時に呼び戻す。
封印された赫刃と記憶は、澪の存在そのものを揺るがせ始めていた。
だが彼女はまだ、知る由もない。
この赫刃を再び抜いた時、
世界が“彼女を知る記録”すら斬り捨てられることを――。




