【第2章 第17話:赫刃の囁き】
ある晩。
月のない夜。星も雲に覆われ、風さえも止んだ静寂の中――
澪=クローデルは、夢を見ていた。
けれど、それは他人が見る“赫ノ夢”とは違う。
それは――赫刃・無明が彼女自身に語りかける、“内側からの夢”だった。
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──斬れ。
──声を出せ。
──記せ。
──斬れ。
言葉ではなかった。
音でもなかった。
けれど確かに“刃の意志”が澪の中で蠢いていた。
──記されぬことに慣れるな。
──定義されるな。
──存在に縛られるな。
──斬れ。
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目覚めた時、澪の両手は汗に濡れていた。
赫刃は、床に立てかけられたまま――まるで、“刃が呼吸しているかのように”、微かに震えていた。
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「……夢を、見せてきたの?」
澪は静かに問う。
当然返事はない。だが、“否定されなかった”。
「……斬れって、何を?」
答えは返らない。
けれど、胸の奥に――確かな衝動が残っていた。
“抜きたい”
赫刃を抜き、誰かを、何かを――この世界の“定義”を、断ち切りたい。
そんな欲望が、澪の中で静かに芽吹き始めていた。
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その日、学院の空気もまた変質していた。
「なんか、最近……空気が重くない?」
「魔力の流れがおかしい。昨日、結界術がうまく作動しなかったんだ」
「精霊の反応が鈍くなってるって、神術科の子が言ってた」
理由はわからない。
けれど、誰もが“何かが近づいている”と感じていた。
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ティナが昼休み、澪に尋ねた。
「澪さん、今日は顔色悪いよ」
「……何かが、近づいてる気がするの」
「何か?」
「――“斬らなきゃいけない何か”」
ティナは目を見開いた。
「……その時、赫刃を抜くの?」
「たぶん、抜いてしまう。無意識でも、きっと」
「……」
「怖い?」
ティナは首を振った。
「怖くないよ。でも……きっと、澪さんが“戻ってこなくなる気がして”」
その言葉に、澪の紅い瞳が一瞬だけ揺れた。
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その夜。
学園の南門で、警備用の魔導結界が破られた。
警報は鳴らなかった。
術式は機能したまま、“破壊されていなかった”からだ。
**ただ、“記録そのものが存在から外された”**のだ。
そこに、ひとつの足跡が残されていた。
焼け焦げた地面。
異形の瘴気。
そして――“澪が覚えていない何か”の気配。
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澪の赫刃が、その瞬間に震えた。
鞘の中で、まるで**“待ちわびていた敵が来た”**と言わんばかりに。
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「……斬らなきゃ、いけないんだね」
そう呟く澪の瞳には、
静かな決意と、ほんの僅かな哀しみが浮かんでいた。




