【第2章 第16話:そして、誰もが夢を見る】
澪=クローデルの存在は、学園という“現実”の中で記録されず、定義されず、理解もされなかった。
だが――
その“存在の余波”は、現実を越えて夢の中にまで入り込んでいく。
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最初の報告は、選抜課程に所属する生徒、エリオット=ヴァーンからだった。
「最近……毎晩、同じ夢を見るんだ」
「黒髪の女の子が、ずっと黙って立っていて――俺は、ただその子に名を呼ばせようとしてる」
「でも、呼べない。名前が思い出せない。
何度も、何度も呼ぼうとして、そして……目が覚める」
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次の報告は、治癒術の天才として知られる教官・カリナ=セリスから。
「夢の中で、私は自分の記録帳を開いていたの。
でも、文字が全部赤く焼け焦げてて……」
「真ん中に、“何か”が立っていた。
私は、その存在の名前を書こうとした。筆を取って、手を動かして――
でもそのたびに、腕が、手が、記憶ごと燃えるの」
「起きたら、指先が……震えていた」
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夢の中に現れる“名のない少女”。
姿は人によって異なったが、共通点はただひとつ。
「名を呼ぼうとした瞬間、何かが焼ける」
感情。記憶。時間。肉体。
そのどれかが、“名に触れようとした瞬間に”剥がされる。
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学園内では、ついにその現象に名前がつけられた。
《赫ノ夢》
それは、夜に訪れる幻影。
見た者は、名を忘れ、言葉を失い、ある者はただ黙って泣いたという。
だが、それでも人々はその夢に惹かれていく。
まるで、“そこにいる誰か”に――恋をするかのように。
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「……名前の代わりに、夢に現れるって。皮肉だね」
澪はそう呟いていた。
図書館の隅、誰も寄りつかぬ静かな読書席で。
ティナは、横で本を読んでいたが、ふと顔を上げる。
「見せてるの?」
「違う。私は、夢を操ったことなんてない。
でも、たぶん――**“誰かが、私を夢で見ようとしてる”**んだと思う」
「それって、寂しくない?」
「……ううん。むしろ、静かでいい。
現実で触れられるより、ずっと」
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澪の言葉は冷たかった。
けれど、ティナだけは気づいていた。
その声の奥にある、“ほんのわずかな揺らぎ”に。
それは、拒絶でも警告でもない。
ほんの少しだけ――“孤独に慣れてしまった”者の、安らぎだった。
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そして、ティナもまた――夢を見た。
夢の中で、澪は泣いていた。
静かに。
音もなく。
ただ、誰にも気づかれぬまま、
月の下で、赫刃を抱いて。
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目覚めたティナは、泣いていた。
理由は分からない。
けれど、その涙は確かに“誰かの痛み”を知って流れたものだった。




