【第2章 第15話:孤独と呼ばれた少女】
彼女の名は、澪=クローデル。
だがその名前は、誰の口にも出されず、記録にも残らず、定義にも適合しなかった。
そして今――学園のすべてが、彼女を**“名のない存在”**として扱い始めていた。
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「ねえ、あの人って、何組なんだっけ?」
「知らない。でも近づくなって言われてる」
「記録できない、名前も呼べない――怖いよね、そういうのって」
まるで、幽霊のようだった。
いや、それ以上だった。
生徒たちの記憶には確かに“彼女の姿”がある。
だが、言葉にしようとした瞬間、思考が遮断される。
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「名前のない存在」
「呼ばれない少女」
「孤独の象徴」
――そう、澪はいつしか、“学園の中で最も在りながら存在しない者”として祀られ始めた。
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それでも、彼女は教室に通った。
授業を受け、魔導術式を読み、実技演習にも参加した。
誰とも話さず、誰とも触れず、
ただ黙々と“そこに在る”だけ。
周囲が言葉をかければ、意識は霞み、
近づけば記録が乱れ、
想えば――心が焼かれる。
まるで、孤独そのものが歩いているようだった。
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だが。
そんな彼女の隣にだけ、日常のように寄り添う者がいた。
「澪さん、お昼にしよっか」
ティナ=フェルメール。
彼女は、いつも変わらず笑っていた。
誰も近寄れない“赫ノ令嬢”の隣で、
平然と笑い、普通に接する、唯一の“人間”。
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その日、ティナは食堂でサンドウィッチを手に、澪の隣に座った。
澪は珍しく、小さな声で問いかけた。
「……ねえ。私って、孤独に見える?」
ティナはすぐに答えなかった。
サンドウィッチを一口かじってから、少し考えたあと。
「うん。すごく、孤独に見える」
「……だよね」
「でも、ひとりじゃないよ。
だって、わたしは澪さんの隣にいる」
その言葉に、澪はわずかに目を見開いた。
誰かに“寄り添われる”という感覚。
誰かが“共に在る”という認識。
それは、記録にも記憶にも残らない。
でも、確かにそこにあった。
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「ティナ。あなたは、記録に残るの?」
「うん。ちゃんと残るよ。いちおう、成績優秀者だし」
「……そう。じゃあ、あなたが私を“覚えている”限り、
私が“いなくなる”ことは、少しだけ減るかも」
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その夜、澪は日記を書いた。
彼女は日記を読み返すことはない。
文字も、言葉も、赫刃が斬ってしまうから。
それでも、ページの一番上にだけ――たった一行、こう書いた。
「今日、私は誰かと一緒に食事をした」
ただそれだけの記録。
だが赫刃は、それを斬らなかった。
それは、彼女の中で、“斬らずに済んだ初めての“記憶”だった。




