表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赫刃  作者: あああ
PR
35/177

【第2章 第13話:名なき崇拝】

澪=クローデルという存在は、もはや“名前”を超えて広がり始めていた。


誰も彼女のことを記録できない。

呼べば名を失い、近づけば感情が歪み、

想えば――その“想い”そのものが燃え尽きる。


それでも――人々は、澪を知ろうとするのをやめられなかった。


ある日の昼下がり。

学園の礼拝堂に、奇妙な現象が起こった。


祭壇に捧げられていた聖銀の像が、

誰にも触れられぬまま、赤黒く染まった。


そしてその像の額に、誰が描いたとも知れぬ“二本の角”の印が浮かび――


「赫ノ女神」


と、呼ばれるようになった。


「澪さまを“女神”として扱う宗派ができたらしい」

「見た目は人なのに、人ではない存在――だって、“記録に残らない”んだもの」

「この世に存在しながら、誰にも定義されない。それってもう、“神”だよ」


生徒の間で、ささやきが広がる。


最初は冗談だった。


だが――それは、異端の信仰へと変貌していく。


廊下の片隅に花が捧げられる。

澪の通った席には、魔導書の切れ端が置かれる。

記録を焼かれた生徒が、無言のまま“彼女を崇めるように”見つめている。


それは、恐怖ではなかった。

羨望でもない。


――盲目的な、信仰だった。


澪は、それを見ても、何も言わなかった。


教室の窓際。

そこにただ、座り続けるだけ。


周囲に花が積もり、香の煙が漂い、

それでも彼女は動じない。


まるで――自分が神であることすら、どうでもいいかのように。


だが、ティナだけは違った。


「……ねえ、澪さん。あなた、今――“誰かの偶像”にされてるの、気づいてる?」


「気づいてる。でも、止められない」


「嫌じゃないの?」


澪は答えなかった。


ただ一言――


「それでも、名前を呼ばれるよりはマシ」


ティナは少しだけ黙ってから、優しく言った。


「……私はね、崇める気も、信仰する気もないよ」


「それは、“否定してる”ってこと?」


「ううん。わたしはただ、“あなたを見てる”だけ。

 だって、あなたは“澪さん”だから」


その言葉に、澪の瞳が――ほんの僅かだけ、揺れた。


その夜。

澪は、ひとり図書館の裏庭に立っていた。


空には月が浮かび、足元には、供えられた無数の花束。


「……私が“神”なんて、滑稽だね」


赫刃は黙していた。


だが、風に乗って届いたティナの声が――

澪の背に、確かに届いていた。


「神じゃなくていい。

 あなたは、“ただの澪”で、いてくれれば」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ